吉田 浩一郎 株式会社クラウドワークス代表取締役社長兼CEO
「クラウドソーシング」は日中の高齢化問題解決に寄与

インターネット時代の到来に伴い、“SOHO族”(情報通信機器を利用して、小さなオフィスや自宅などでビジネスを行う事業者)が次第に増えている。自宅で時間も自由になり、煩わしい人間関係もない、満員電車に揺られたり雨に濡れて通勤することもない、勤務場所の制約も受けないため、自由と夢を求める多くの人を惹きつけている。7月23日、“SOHO族”への業務委託を行うウェブサービスプラットフォームを提供する企業としては国内初、最大の株式会社クラウドワークスに吉田浩一郎社長を訪ねた。吉田社長は「こうした新しい事業の出現は、伝統的な就業形態を打ち破るだけでなく、より多くの収入を求める人々に仕事の機会を提供するとともに、日中両国が直面する高齢化問題解決にも一役買うことができます。当社の会員には、年齢も地域も国籍の制約もありません。多くの中国人会員が国内にいながらにして日本企業の仕事を受けています」と語った。

  

「クラウドソーシング」は

画期的な新事業

―― 「クラウドソーシング」はここ2、3年に日本で起こった新しい事業形態だと思いますが、サービス内容について教えてください。

吉田 「クラウドソーシング」とはインターネットがもたらした新たな生産組織形態で、クラウドとは「群衆」、ソーシングは「業務委託」という意味です。

当社のサービスは全国5万人のエンジニア、デザイナー、ライターや事務などのスキルを持つ個人に対して、iPhoneやアンドロイドのデザイン開発やアプリ等を簡単に委託できるものです。企業の依頼を受けて、最短15分で仕事の発注ができます。

従来、日本市場においては企業が発注する相手は企業でした。このように企業が個人に発注する形は日本の文化には元々ありませんでした。21世紀に入り、インターネットによってあらゆる人たちの価値が伝わる時代になり、空き時間に仕事ができるようになりました。

これまでは、何か仕事をしようとすると、まず履歴書を出し、面接をして、前の会社を辞めてという形で1~2カ月かかりました。あるいは、ホームページを作ろうと思えば、まず見積もりをし、契約を交わし、2~3週間かかりました。ところが「クラウドソーシング」によって、全国に個人で空いている人がいればすぐに頼めるのです。ですからこれは画期的事業と言えます。

 

創業一年で

クライアントは一万社

―― なぜ日本でこの事業を立ち上げようと考えたのですか。

吉田 きっかけはいくつかあります。まず一つ目は、以前ベトナムで輸入ビジネスをしていた時、書類が足りなかったために荷物が税関で1カ月ほど止められたことがありました。その間、インターネット上では日本とベトナムで仕事のやり取りが続けられました。その時、インターネットが新しい流通の形であることに気付かされました。インターネットによって、取引される情報を中心に仕事をした方が人のためになるのではないかと思ったのです。

二つ目は、ベトナムに行く前、上場IT企業のドリコムで役員をしていたことがありましたが、日本の上場企業では、非常にコンプライアンスが厳しく、たとえば、会社以外の場所で働いてはいけませんが、デザイナーは自宅の方が専門機器も揃っていたりします。

さらに、勤務時間も朝9時から夕方5時と決められています。人と接する必要のないエンジニアは、夜働いた方が集中できる方もいます。しかし、上場企業はこれを認めません。それに比べて我々のインターネットによる「クラウドソーシング」は非常に便利です。

三つ目は、小額の外注がとてもやりにくかったことです。ドリコムで働いていた時、5~10万円の発注を受けてくれるところはありませんでした。少額ゆえにどこの会社も受けたがらないのです。しかし、フリーランスの人なら受けてくれる人はいるのです。

以上の3点がこの事業を立ち上げることになったきっかけです。2011年11月に起業して、1年で12倍の規模に成長し、仕事依頼総額は36億円に達しています。

 

勝利の秘訣は

“安い、早い、質が高い”

―― 「クラウドソーシング」が日本市場でこれほど支持されている理由は何だとお考えですか。

吉田 わかりやすく言えば、安くて、速くて、質が高いからだと思います。例えば、経済産業省のあるプロジェクトでは200万円の予算を組んでいました。ところが、我々のプラットフォームで、著作権の調査や商標登録を含めても10分の1の20万円で済みました。

また、これまで企業は必要な人材を探すのに1カ月かかっていましたが、当社のサービスを使えば15分で発注できるのです。さらに、当社に登録している会員はすべてスキルが「見える化」されており、企業が会員をテストできる仕組みがあります。例えば1000文字の文章を打ち込むのに1000円支払うとして、20名の希望者にテストを行えば、わずか2万円で一人一人の能力を見ることができ、最も優秀な人材を探し出せるのです。

そして、大企業のコンプライアンスに対する意識を熟知し、提携するために必要なシステムやルールを整理する能力が当社にあったゆえに、起業1年足らずでヤフーのような年商5000億円の大企業と提携することができました。最近も、マイクロソフトと提携したばかりです。

 

高齢化問題解決に貢献

――  「クラウドソーシング」は日本の伝統的雇用形態を打ち破り、社会全体の仕組みを変えようとしているように見えます。

吉田 日本では、正社員になることが重要視されていますが、正社員比率は2020年までに50%を切ると言われています。そうなると、正社員以外で働く「器」を何か用意しなければならない。働き方の多様性を受け入れなければならない時期にきていると思います。当社のサービスはそうした方々の「受け皿」になると思っています。これは在宅で継続的に収入が得られるという、今までの日本にはない働き方を創造していくものです。

また、登録には年齢、地域、国籍の制約もありません。現在登録している最高年齢は85歳、受注した最高年齢は79歳です。これまでであれば、79歳のおばあさんが働きたいと言ってもまず無理でした。このサービスによって、データ入力さえできれば仕事ができるのです。社内調査では、登録している高齢者のうち3分の1の方が月々20万円の収入を得ています。現在、高齢化は日本の抱える深刻な問題の一つです。中国も高齢化へ向かっています。高齢化問題に対しても一つの解決方法になると感じています。

日本はほとんどの大企業が東京に集中し、東京以外の地域は過疎化しています。しかし、当社のサービスによって、たとえば岐阜県では優秀な人材が現地で東京の仕事を受けています。東日本大震災で甚大な被害を受けた、福島県南相馬市の方たちも当サービスによって東京の仕事ができるのです。震災復興につながると、マスコミにも注目されています。

現在、135カ国でご利用いただいており、会員登録の国も62カ国あります。中国にも多くの会員がいます。例えば、大連に住む日本人が中国人と組んで日本企業の仕事を受注している事例があります。すでに42件の仕事を受け、評価も高いです。中国の「クラウドソーシング」市場はアメリカよりはるかに大きいと見ています。

 

失敗した時が

最も成長できる時

―― プロフィールを見せていただきましたが、挫折も経験されていますね。起業を志す日中の若者にメッセージをお願いします。

吉田 自分が成長できたのは失敗した時でした。一生懸命やって失敗した時は本当に悔しくて、だからこそ勉強して成長できるのです。しかし片手間でやっていたりすれば失敗しても悔しくはない。そうすると人は成長しません。起業するならば、今すぐ他のことはやめて、起業しかないという状態に自分を追い込んだ方が良いと思います。

以前、別の会社を経営していた時、ナンバー2に裏切られ、取引先を持って独立されたことがありました。当時は本当に苦しみましたが、今では感謝しています。あの裏切りがなかったら、今も少しばかりのお金は手元に残っていたでしょう。その時思ったのは、誰にも持っていけない、ずっとそこに居たくなるような事業形態をつくろうということでした。

自分の強みとは何かを考えて夢を追っていけば、自然にうまくいきます。時勢に乗って起業しても、その分野のことを知らなければ、うまくいくはずがありません。自分の強みを活かすことができていれば、誰に何と言われようと動揺することはありません。

今の会社を起業する時、自分で2500万円を用意しました。車も売りました。自分にとって大切なものはお金ではありません。人からの感謝です。お金があっても、人とのつながりがなければつまらない人生です。

 

中国の『猪八戒』との連携も視野に

―― 中国に行かれたことはありますか。どんな印象をお持ちでしょうか。また、中国最大のオンラインサービスプラットフォーム『猪八戒』は同業ですが、どう評価されていますか。

吉田 上海と大連と瀋陽に行ったことがあります。中国は地域性の違いが大きいと感じています。上海と大連では人柄も違いますね。大連は昔から日本企業も多く親日的で、上海は国際都市で、多国籍の方が集い活気があります。

『猪八戒』は当社と同じ仕組みで、アメリカの同種の企業よりも事業規模ははるかに大きい。今後、当サービスの英語化をはかり、ゆくゆくは『猪八戒』との連携も視野に入れていきたいと考えています。