山田 英生 株式会社山田養蜂場代表取締役社長
ミツバチの恩恵を、真心込めて文化大恩のくに中国にお返ししたい

日本では多くの企業が、地方で成功すると本社を東京に移す。しかし国内外に名の知れた山田養蜂場は、地方経済活性化のため、岡山県苫田郡鏡野町に本社を構える。これまで多くの財界著名人に成功談を聞いてきたが、山田養蜂場の山田英生社長は、「私の父は妹の命を救うためにローヤルゼリーの研究を始めたのです」と率直に語ってくれた。また、美術館のように美しい社員食堂はあまり見たことがない。さらに通常、大事な企業秘密のある研究所内を公表することはしないのだが、今回特別に山田養蜂場のみつばち健康科学研究所は撮影を許可してくれた。そして、日本で多くの企業トップが乗る豪華な車を目にしてきたが、ここでは、おもちゃのような小型エコカーの前に立つ社長の姿を見て感動した。2013年7月8日、他の企業とは異なる様々な印象を抱きながら山田社長に話を伺った。

  

一人の喜びを大切に

―― 二代目の社長に就任されてから、大発展を遂げられていますが、創業社長ご両親から学ばれたことをお話しいただけますか。

山田 父は元々、四国の徳島の人で、花を追ってみつばちと共に岡山南部の瀬戸内海の沿岸部、そして中国山地の鏡野まで移動式の養蜂をしており、この鏡野の地で母と出会って家庭をもち、この地で養蜂業を営むようになりました。実は私の妹は先天的な心臓疾患をもって生まれました。地元の医師から手術に耐えられる体力がついてから手術をして治すと診断され、妹の体力を付けるためにはちみつや無農薬の野菜・米を作り与えていたのです。丁度、ローマ法王(ピオ12世)が危篤状態から回復した体験を通じて、ミツバチを「神の小さな創造物。私はローヤルゼリーのおかげで命が救われた」と演説したニュースが、父が娘のためにローヤルゼリーの採取に取り組むきっかけでもありました。

「一人のかけがえのない命を助けるため」にローヤルゼリーを作り与えた「家族愛」が、私が両親から学んだことです。そして、その妹が手術の失敗で他界した後も、日本中・世界中の困っている人のためにローヤルゼリーなどのミツバチ産品を役立てたいという「人類愛」に昇華させた両親を誇りに思っています。それが私共の会社の創業の精神です。

―― 1983年に専務として「山田養蜂場」の事業に参画されましたが、その時の抱負など教えてください。

山田 実は当初、特別な抱負はありませんでした。私は大学を卒業して3年間サラリーマンをしていましたが、自分に向かないと思いました。昔から家族でやっていた養蜂業をすることで、両親のさみしさを少しでも癒せたらという思いで帰りました。しかし、その後、父が長年の無理がたたって倒れてしまったため、私がすべての仕事をする立場となった時、自分自身の仕事の上での使命と責任を自覚することになったのです。

 

養蜂は豊かな自然の賜物

―― 山田社長は、通信販売にテレマーケティングを導入したり、養蜂大国ルーマニアの研究開発機関「アピテラピア(国立ミツバチ製品医療センター)」と連携されて先端技術開発に努めておられますが、どのようなことをされているのでしょうか。

山田 ヨーロッパには「ミツバチの力を借りて、病気にかかりにくい体にする」という東洋医学と同源の思想で「アピセラピー」という考え方があります。ルーマニアは、このアピセラピーを医療や美容に取り入れた「アピテラピア」の研究が進んでいたので、連携をしたのです。「アピテラピア」は、通常の病院とは違い、独自の研究所を持ち、ローヤルゼリーやプロポリスなどを、食品はもちろん、医薬品・化粧品にまで広く利用するため、さまざまな研究を行っており、大変参考になりました。

当社も独自の研究所を持っており、私は、科学的な研究によってミツバチ産品の健康効果を明らかにして、ミツバチ産品に対する信頼性を高めていきたいと考えています。自社の利益のみでなく、「みつばち研究助成基金」を立ち上げ、世界中の研究者に広く研究の支援をすることでミツバチ産品の研究に取り組んでもらっています。

また通信販売にテレマーケティングを取り入れたのは、お客様一人ひとりと直接お話をすることができるからでした。父が脳溢血で倒れる時まで、私がお客様と接する営業をしており、お客様の笑顔に喜びを感じておりました。お客様一人ひとりと電話などを通じてお話をし、コミュニケーションをとりながら、お客様の心に寄り添える企業を目指しています。

―― 「自然環境との調和」「世界遺産の保護事業」など、各界のオピニオンリーダーと対談を繰り返し、広く啓もう活動も展開されてこられました。養蜂事業家としての信念・抱負などお聞かせ下さい。

山田 蜂蜜やローヤルゼリー、プロポリスはまさに「自然からの贈り物」であり、予防医学的見地から利用される医薬品に近い食品であると思います。だからこそ、当社には予防医学的研究を、人類のためにさらに深めていく使命があると考えているのです。また、そのミツバチ産品は豊かな自然環境があってこそ存在するものです。ミツバチは植物から蜜をもらう代わりに、植物の受粉を助けています。植物とミツバチは相利共生関係にあり、養蜂業は自然と調和して成り立つ仕事です。養蜂を原点とする企業として、この自然を守ること、人と自然とが調和できる社会を目指すことは当社の使命であると考えています。

そして、ミツバチから学んだ「自然環境との調和」を理念に掲げる我々には、未来の子どもたちのために美しく豊かな自然環境を守り残す責任があります。自然界の中で、持続可能な生き方をしていくために、環境への負荷をできるだけ少なくする知恵と工夫とを生み出し、蓄積していきたいと努力しています。

―― 山田養蜂場はミツバチ産品の研究成果では世界一多くの研究成果を発表されておりますが、研究重視の考え方はどこからきているのでしょうか。研究に対するお考えをお話し下さい。

山田 これまで、ローヤルゼリーをはじめとするミツバチ産品は、昔からの伝承的な効果効能に頼っていました。たとえば、ローヤルゼリーが更年期障害に良いとか、ハチミツが免疫力を高めるとか、蜂の子は耳鳴りによいなどです。しかし現在は、それらを科学的に証明するような地道な研究も私どもの使命だと考えています。「ミツバチがもつ、神秘の力を解明することは、養蜂を原点とする私たちが先頭に立ってすべきこと」、そんな思いから研究活動を重視して行っています。

当社の研究機関である「みつばち健康科学研究所」では、現在まで中国、アメリカ、ドイツ、イタリア、ルーマニア、オーストラリア、カナダ、キューバ、マケドニア、コンゴなど110以上の世界中の大学・研究機関と共同研究や研究支援を行い、かかわった論文、学会発表が多数あります。また、みつばち研究助成基金では、国内外の大学によるミツバチ産品に対する多くの研究テーマを支援してきました。

当社は東洋医学の「未病を治す」という考えのもと、人間が本来持っている免疫力や自然治癒力を増強することによって、疾病を未然に防止する予防医学の立場を基本としています。これらの考え方をもとに、我々は有望な天然物素材の探索・調査から、薬理と有効成分の分析、有望な素材の工業的生産の研究まで一貫した研究開発体制を構築しています。また養蜂を原点とする者として、より安全で高品質な商品を作り出すために養蜂技術の向上に貢献したいと考えています。

 

未病治療の大道を歩む

―― 中国でも荒れ山の多い安徽省や内モンゴルで植樹活動をされていますが、どの様なお考えのもとに行われているのでしょうか。

山田 養蜂家という農業に携わる一員として、ミツバチを通じて自然環境の大切さというのは、身に染みて感じています。近年の自然破壊や生態系の破壊によって、ハチミツの採れる量も激減しています。私は、この岡山県鏡野町という、まだ豊かな自然環境に恵まれた土地で養蜂をしていますが、日本中・世界中に目を向けたとき、環境問題は一刻の猶予もない状況であるのは明らかです。植樹の神様と呼ばれる宮脇昭先生(横浜国立大学名誉教授)のような世界中の専門家のお話を聞きながら、自然環境保護のために当社ができることに今後も尽力したいと考えています。

―― 中国への進出の抱負や今後の展望などお話し下さい。また現下の課題などありますか。

山田 日本は古い時代から中国からの文化の恩恵を得て発展してきたため、言うなれば中国は日本の文化の大恩人です。現在でも、我々が口にしている日本国内の食品の多くが中国産であり、中国のお世話になっていることは間違いありません。当社も多くの中国の養蜂家とも協力して品質の高いミツバチ産品の開発を続けております。当社にとって中国進出は単にお金を儲けるためではなく、そのような恩返しをするために行っている事業だと考えています。

当社が特に力を入れているのが品質管理で、蜂蜜やローヤルゼリーに対して常時360項目以上の農薬や抗生物質検査を行っています。また有機蜂蜜や有機ローヤルゼリーの生産も行っており、安全管理、品質の管理を徹底しております。

他にも、お客様一人ひとりを大切にきめ細やかなコミュニケーションをとることも当社の強みだと思っています。中国でもショッピングサイト天猫(旧タオバオモール)の旗艦店のオープンを皮切りに通信販売に注力し、チャットなどを通じてお客様とのコミュニケーションを重視していきたいと考えています。今後、日本の消費者からも高い支持を受けている酵素分解ローヤルゼリーを中国の方たちにも是非とも提供してゆきたいと思っております。日本の品質・安全性を維持しながら、さらに中国の多くのお客様のニーズに応えられる商品を開発していくことを目標にしています。

―― 今後、中国で「アピセラピー」(ミツバチ産品を食品、化粧品などに製品化して人々の健康に役立てる商品開発など)の事業拠点を置くことはお考えですか?

山田 今後、販促活動が活発になってゆけば、当然に必要なことだと考えております。販売の事業拠点として上海に事務所と店舗を持っていますが、最近オープンしたショッピングサイト天猫の旗艦店を中心に、今後は通信販売に力を入れて広めていきたいですね。また先ほども述べましたが、当社は世界中の大学と共同研究・研究開発を行っています。今後はもっと中国の大学との共同研究・研究開発に力を入れていきたいと考えています。

―― 中国は独自に「蜂蜜」を漢方薬として取り入れてきた歴史があります。中国から学ぶことは何かございますか。

山田 現在、世界の医学の中心は、「病気はかかってから治す」という西洋医学の考えに基づいた対症療法ですが、病気にかかった後では通院や投薬、後遺症などによってQOL(生活の質)の低下が心配されます。今後は「病気はかかる前に予防する」という「予防医学」の考えに基づいた東洋医学が重要になると考えています。

蜂蜜などのミツバチ産品は中国で古くから漢方として人々の食生活に浸透してきました。中国は普段の食生活に漢方やお茶を取り入れており、「医食同源」という考え方が発展した国であり、約2000年前の中国の神農本草経にも蜂蜜を「石蜜」として表記されています。具体的に「心腹の邪気,諸驚癇痙を主治し、また五臓を安んじ諸々の不足を主治する。気を益し、中を補い痛みを止め、毒を解し衆病を除き、百薬を和す。久しく服用すると志を強くし、身を軽くし飢えることなく、老いることもない」とされ、薬効が高いものとして認められています。蜂蜜は「命を養い、長期にわたって服用しても副作用は一切ない。身を軽やかにして生命力を充実させる不老長生の薬」として、「上品」の評価がされています。

蜂の子も、「上品」評価で、具体的な効能として「頭痛を治す」、「衰弱している人や内臓の機能に障害を受けている人の元気を補う」、また「長期間の服用によって皮膚に光沢が出て顔色がよくなる」、「年齢を重ねても老衰しなくなる」などが挙げられています。

普段の食生活や生活習慣から病気を予防する「医食同源」「予防医学」という考え方は、これから世界中で学ばれるべき考え方であると思っています。

「健康長寿」というのは日本のみならず、今後必ず中国でもキーワードになってきます。予防医学の考えを広く世界に発信し、中国の皆様にとって健康や美容のお役に立てると考えています。