家本 賢太郎 クララオンライン代表取締役社長CEO
日本と中国の若いITの人材を育成しよう

少年は14歳のころ、膿腫瘍の摘出後に車椅子生活になる。自由な行動ができなくなったが、インターネットの世界を通して、新たな扉が開かれた。15才になった少年は「クララオンライン」を設立し、日本で史上最年少のCEO(最高経営責任者)になった。同時に、この「車椅子のCEO」は奇跡的に運動機能が回復したのである。2013年4月26日、「私は微力ですが、日本と中国の若いIT人材を育成し、彼らが一緒になってインターネットの未来をつくってほしい」と、家本氏は語った。

 

 

10年以上前にネットが

世界を変えることを予測

―― 車椅子生活を経験され、様々な苦労をされた後、会社を設立しましたが、なぜ創業されたのですか。

家本 中二の時です。脳腫瘍の手術が失敗して歩けなくなりました。でも、インターネットがあったので、ベッドの上でもたくさんの人と連絡を取ることができ、主に同年代の人とメールで友人になりました。いまの副社長とは、15才の時に知り合いました。ネットがあったおかげで、当時、歩行不能の私と世界中の人とがつながりました。車椅子を離れてから、いろいろなスポーツをするようになり、多くの友人ができ、インターネットを必要としている人がたくさんいることを知りました。

そこで、インターネットで恩返ししようと考えついたのです。創業は1997年で、その頃、日本はまだインターネットが普及していませんでした。当時、私は、インターネットは遅かれ早かれ世界を変えるだろうと予感していました。

 

「アベノミクス」は

短期的な利益を追求

―― おじいさまは有名な経済学者ですね。創業されたのは、その影響があったのですか。また、安倍政権の「アベノミクス」をどう見ていますか。

家本 実は、祖父だけでなく、父も経済学者なのです。面白い事に、祖父はアメリカ経済を、父はソ連経済を研究していました。経済学者にとって、研究分野や方法が違っても、いかに人類に貢献できるかという目標は同じなのです。

経済の研究は長期的に取り組んでこそ成果があることを、祖父と父から学びました。ビジネスも同じです。順調にいくかどうかは、長期の調査や考察が必要で、短い期間で分かるものではありません。ユーザーとの関係も同じで、長いつき合いがあってこそ互いに理解できます。強い信頼関係がなければ、協力も長続きしません。ですから、私は創業以来、短期的な利益を追求していません。この点は、確かに祖父と父からの影響です。

安倍政権の経済政策は、短期的な効果を追求した近視眼的なものです。安定的に発展していくかどうかより、まず100万、200万を儲けてからというものです。私は今、30代ですが、少なくとも65才までは働くだろうと思っています。つまり、私の世代では、今後30年以上日本経済と関わっていかなければならないのです。この意味で、短期的な効果でなく、長期的安定が必要なのです。

 

中国市場への参入を

簡単にあきらめるな

―― アジアNo.1のインターネットサービスプラットフォームカンパニーをめざして、海外進出も積極的ですね。中国のインターネット市場の発展をどう思いますか。

家本 中国にしても、日本にしても、インターネット市場はそれぞれユニークなところがあります。インターネットは世界中で使用されていますが、文化と発展のプロセスの違いで、各国のインターネット事情も異なっています。中国では独自にかなりのスピードで発展しています。これは日本が学ぶべきところです。中国市場を開拓するために、私は基本的に一週間は東京、一週間は北京にいます。当社の事業は日本だけでなく、中国でも開発しています。2009年、中国のユーザーに技術提供を始め、後に技術サポートを始めました。2011年に法人資格を持つ会社を設立し、現在は20数名のスタッフがいます。ほとんどが20代の中国の若い人です。

―― 中国では、経営の仕方が日本と異なる点が多いようですが。

家本 確かに、非常に困惑した時期もありました。2006年、大連に事務所を設立した時です。大連はITもソフトウェアも発展しています。そこに事務所をつくれば、インターネット関連のビジネスチャンスが多いだろうと考えていましたが、そうではありませんでした。大連の産業構造の判断を誤り、中国から撤退しようとしていた時、ある中国人スタッフから、「中国市場を簡単に諦めないでください、もっと中国を理解して、もう一度やり直しましょう」と言われたのです。それで、撤退せずに、事務所を北京に移転して再出発し、今日までやってきました。

 

中国人従業員の仕事の

手際よさと責任感に感動

―― 中国市場に参入されて長いですが、最も印象的なことは何ですか

家本 中国人従業員の仕事の速さと責任感に、いつも感動しています。ある日、短時間で30の製品をそろえなければならなくなり、私も大変だということは分かっていましたが、彼らは何も言わずに行動に移し、そろえてくれたのです。これが日本だったらそうは行きません。しかし、中国の従業員は「はい、分かりました」と、すぐに行動に移り、あらゆる方法を考えます。そして、必要な製品を一つ一つ探しだして、納期に間に合わせるのです。これは信頼関係の表れでもあります。国は違っても、お客さまと会社の利益のために、皆が心を合わせて協力しあう情景は、本当に感動的です。

 

日中のIT人材を育成したい

―― 中日の青年文化交流の推進は、両国関係にとって非常に重要なことです。スマートフォンなどの普及が、両国の距離を短くし、文化交流を促進すると期待されています。

家本 新型の電子製品は情報伝播速度が常に加速しています。以前、流行や文化が互いに伝わるには長い時間を必要としましたが、現在は一、二ヵ月で両国の若い人たちに伝わります。こうした中で共感し合い、理解を深めることができます。もう一つは、両国の若い技術者は、才能を発揮するステージがより広がり、それができる場所も増えています。

今後、我が社は長期的に中国でインターネット事業を展開していきます。もし中国がインターネット関連の人材を重点的に育成しなければ、情報化社会が進む中で、将来、必ず人材不足になるでしょう。この問題は日本も同様です。そこで、中国の大学や関連機関と協力しあって、人材を育成したいと思っています。また、中国の技術者も経験を重ねていくことが必要です。たとえば、視察や実習という形で日本に来ていただき、日本の技術者と交流を深め、互いに学習できればと考えています。

また、世界のIT業界では、技術者がまだまだ不足しています。しかも、更新のスピードが加速している中で、技術者はますます必要とされています。私自身は微力ですが、日中の若いIT人材を育成し、彼らにインターネットの未来をつくってほしいと願っています。