原 重雄 株式会社USS代表取締役副会長
中国の中古車市場は日本に学べ

中国の中古車市場は夜明け前

「中国の中古車オークションはまだ始まったばかりです。全国で50余りのオークション会場がありますが、それぞれ1開催の出品が100~200台前後と規模が大きいとは言えません。そして、中国の中古車市場は400万台と新車市場の1800万台に比べるとまだまだ小さな市場ですが、これから新車を買う人が増え、その車の乗り換えで下取り車が増加すれば巨大な中古車市場になると思われます。私は日本で中古車ビジネスに携わって約40年になりますが、中国の中古車市場は日本の中古車市場の発展期によく似ており、その日本の中古車市場の経験と教訓を参考にして拡大・発展をしていけば、新車販売と同様に世界一の中古車市場に成長すると予測しています。私は微力ながら中国の中古車市場とオークションの発展を応援し、貢献したいと思っています」。11月30日、日本最大の中古車オークション企業である株式会社USSの原重雄代表取締役副会長は、本誌の取材を受け喜色満面で熱くそう語った。

USSは日本の中古車流通・オークションのリーディングカンパニー

今年71歳になる原氏は、日本の中古車市場の発展期前から現在まで40数年間その中古車ビジネスに関わってきた。原氏の率いるUSS東京会場は1開催出品が1万3000台、成約率70%以上の日本で最大の中古車オークション会場である。

USS東京会場は、IT技術を駆使した10レーン方式で一度に10台のセリが可能な最新会場であり、過去に1開催2万1000台出品という前人未到を記録した。中国の中古車市場関係者は頻繁にこの会場を訪問し、中国でのオークションのあり方を勉強しているようだ。

USSは今や全国17会場を運営し、日本の中古車オークション業界ではシェア35%の最大リーディングカンパニーであるが、創業は愛知県の1軒の中古自動車販売業者の前会長の故服部太氏を中心とした日本の中古車販売店の社長達であった。トヨタ・日産のような「ブランド力」「資金力」もないUSSがここまで発展してきたのは「社会の役に立つ」という服部会長のゆるぎない経営哲学であった。服部会長は「透明性と公正・公平」なオークション運営で「価格と品質」の標準を創り、消費者が「安心と信頼」で購入できる健全な日本の中古車市場の構築に生涯を捧げてきた。服部会長は、2004年に中国で開催された「中日中古車流通業界の交流会」で講演をして以来「いつかは中国で中古車オークションを通じて、中国の社会のお役に立ちたい」といつも語っていた、という。

中国の中古車市場は、近い将来世界最大の市場になる

原氏は、日本の中古車市場の歴史と中国の中古車市場への期待を次のように語ってくれた。

「日本の30年前の中古車販売は530万台、オークション出品はわずか40万台でしたが、2008年には中古車販売720万台、オークション出品890万台と、オークションが急成長しました。現在は、日本の中古車市場はオークションが中心で安心と信頼のできる市場になりました。オークションは、高い信頼性と効率性・利便性を備えた公正・公平で透明性が高く、1台1台価値の違う中古車の価格(公正なセリの相場)、品質(検査)の標準を確立しており、評価の正しい中古車を市場へ供給しています。中古車の品質・価格の表示が義務化や、自動車公正取引規約などにより、販売業者と消費者の間の『情報の非対称性』が小さくなりました。又、雑誌やインターネットから情報が自由にとれ、偽りの情報は刑事罰が科せられますので、不良業者は市場から退場せざるを得なくなっています。

今日の中国の中古車市場を見ると30年前の日本を思い出します。昨年、中国の新車販売は1800万台に達しましたが、中古車販売は380万台ですから、将来新車の買い替えと連動して中古車市場は爆発的に発展すると予測できます。中国は今や世界最大の中古車市場へ向けて急速な発展をしていますが、中古車業界の法整備や業者のモラルを改善していかなければ健全な成長を阻害する要因になりかねません。

中国の中古車市場は交易市場が中心で、相場は不透明、安心と信頼のできない市場と言えます。交易市場の内外では中小のブローカーが人的取引を行っていますが、流通する中古車が少なく売り手市場となっています。中古車の販売ルールはありますが守られていません。『情報の非対称性』は大きく、販売業者は知っていても、買手は品質・価格の情報が少なく安心して購入することができないのが実情です。

中国の中古車市場は拡大のスピードが速く、その変化に古い流通システムでは対応しきれず、いろいろな部門で問題が生じています。まずは、すぐ変えていくべきものと時間をかけて変えていくものをよく見極め、改善を進めていくべきだと思います。

私は、海外の新しい仕組みが現状の中国中古車流通に直ぐに役に立つか疑問に思っています。中国流の流通システムへの改善・改良のスピードを速め、その次に先進的な海外の仕組みを導入するのが良いと思われます。そして、新しい中国流の中古車流通システムを創るべきだと考えます」。

中古車市場の健全な発展は「情報の非対称性」の解消

中古車市場の健全な発展についての話になると、原氏は、最も良い方法、最も有効な方法は制度を作って「情報の非対称性」の解消、透明度を上げることだとはっきり指摘した。中古車オークションは、売手・買手の間の中立の立場を守りどちらかに偏ってはならない。そうなれば価格は容易に決定され、決定された価格がいったん市場の基準価格になれば、それ以降はそれが準拠すべき価格となる。

原氏は「中古車オークションは公正・公平で中立を保持しなければならないというのが当社の理念」と特に強調した。「オークションにかけられるすべての中古車の価格と品質はここで決定され、その基準価格が日本の中古車市場全体に提供されます。このシステムにしてから、消費者との価格・品質のトラブルは自然となくなりました。ですから公正な市場はとても重要なのです。現在、日本にいる中国の方々もこの市場で中古車の売買をしています。劉万民さんという方がいまして、日本の中古車市場の経験からよく学んでおり成果を上げています」。

中国のビジネスへの進出は、現場の経験と人間関係、タイミングが重要

中国の中古車オークションのあり方とUSSの市場進出について原氏は率直に答えてくれた。

「私は、中国のオークションには、今は日本の新しい大規模な設備や仕組みは必要ないと考えます。まず中国式の小規模なオークションを開き、徐々に拡大すべきだと思います。例えば、資生堂が中国に進出して10年ほどになりますが、彼らも中国市場の実際の状況に合わせて、中国人の購買力に見合った製品を研究開発、生産したのです。中古車オークション市場もそのように、中国の実際の状況に合わせて、小規模から大規模にしていくのが最良と考えています。中国は現在の段階では大規模な中古車オークションシステムはまだ必要ではなく、中国は中国式の市場モデルに照らして、独自の経験を積んでいくべきです。

私は、これまで中国の中古車市場の現場をたくさん調査研究してきました。中国は企業と企業の関係よりも人と人との関係が大事ですので、多くの方々と交流を深め信頼関係を構築し高めてきました。そして、中古車の発生から顧客に渡るまで、誰が・どのようにビジネスをしているかを掘り下げ、中国と日本の商習慣の違いの知識習得を行っているところです。

北京、上海や、広州など大都市の政府、新車メーカー、交易市場、中古車協会、オークション会社、中古車販売店主等の関係者がよく当社を訪問した際、私に中国での日本式オークション導入についての協力要請があります。私は、大変光栄なことだと感じていますが、中国の中古車市場がUSSを必要としているタイミングかどうか、USSが中国の中古車市場でお役に立てるか、ということが重要なポイントだと考えています。われわれが行きたいから行くというのではなく、中国の市場がUSSを必要としているかどうか、お役に立てるかどうか、ということなのです。中国に中古車オークションの需要がないのであれば、われわれが行く必要はないと考えています。中国市場がわれわれを必要とする時には中国の友人たちと共に手を携えて進み、お互いに協力してこの事業を進めていきたいと考えています」。

 

インタビューの終了間際、原氏に中国との交流の歴史と印象を聞いた。彼は目を輝かせて思い出を語ってくれた。「個人として初めて中国に行ったのは1988年で、目的地は西安でした。その時は中国の友人がシルクロードの出発点に招待してくれました。非常に暑かったのですが、現地のヒツジ肉が大変おいしかったことをよく覚えています。私はこの10年間、何回も中国を訪問し、様々な人々にお世話になりました。ビジネスで討論したり、食事をご一緒したりしながら人間関係を構築してきましたが、自動車ビジネスに関係していたこともあり、自動車には特に注意を払っていました。当時は外国車の販売店もなく、国営の自動車販売店があるだけで、そこの販売員が椅子に座って眠っているのを見ましたが、今は違います。中国の各地に行くと、どこでも販売員が積極的に車をセールスしています」。

* * *

インタビュー終了後、私は慣例で原氏に揮毫をお願いした。原氏はしばらく考えて「私の理念を書きましょう」と言い、「公正、公平」という四つの文字を書いてくれた。

USSを出ようとした時、原氏は会社の上層部の方にわれわれを車で送るように手配した上、自ら車まで案内してくださった。この白髪の企業経営者に対し、私の心に再度感動が湧き上がった。