嘉納 健二 白鶴酒造株式会社社長
日中両国の食文化・生活文化の交流と発展のために

来年創業270年を迎える白鶴酒造株式会社は、日本有数の酒造メーカーである。長い酒造りの歴史の中で、常に時代の変化を敏感に感じながら、醸造技術の開発と研鑚に努め、品質を向上させ、信頼あるブランド育成に努力することは、代々酒造文化の継承者の重大な責務である。今、その責務を担っているのは、若手リーダーの嘉納健二社長だ。 8月31日、白鶴酒造株式会社の嘉納健二社長に、日中両国間の食文化・生活文化の交流と発展などについて聞いた。

見直される日本酒の魅力

―― 日本酒は「国酒」であり、日本文化そのものです。現在、日本酒は海外でも人気です。その日本酒の魅力を教えてください。

嘉納 日本酒は、果物のブドウから造られるワインと比べられることが多いですが、穀物であるお米からどうしてこのような味わいのお酒が出来るのかと不思議に思われることが良くあり、非常に興味を持たれています。またお米は健康的なイメージがあり、とくに、欧米の方にはヘルシーというイメージで飲まれるケースが多いと思います。日本酒が海外に広まったのは、日本食が世界中で人気を博しているという背景があります。日本食の人気メニューには、お寿司や刺身など生の魚を使う料理がありますが、海外の方は、鮮魚を食べるのにあまり馴染みがありません。でも、とてもヘルシーだというイメージで消費が拡大しつつあります。日本食に合うのは、どのようなお酒ですか、ということになって、日本酒が紹介されはじめたのです。日本酒の味は、世界のどこにもない独特の味です。甘味や酸味のバランスが良く、香りや味が整った、日本食と相性の良い、とても魅力的なアルコール飲料だと感じられています。

―― 最近の日本の若者は日本酒よりビール、ワインを好む傾向があります。激しい競争の中、伝統ある日本酒は、どのようにして勝ち残るのでしょうか。

嘉納 日本国内の日本酒の消費量は、四十年くらい前が最大でした。当時の日本は、高度経済成長期で、まだ海外からのアルコール飲料も多くは入ってきていませんでした。そのため、日本酒とビールがよく飲まれていました。その後は、日本人がどんどん海外に出かける機会も増えて、同時にワインやウイスキー、リキュールなどが食生活の中に入ってきました。次第に酒類間の競争も激しくなり、日本酒のシェアは少し落ちているのですが、日本酒を好きな方の数はそんなに減っていないと思います。最近は、日本的なものの良さをもう一度見直して、身の回りの生活を大切にするような気運が出てきており、再び日本酒が見直されていると感じます。

中国市場で事業を展開

―― 近年中国では、日本酒を飲む中国人が増えています。特に健康に気を遣う中国人富裕層が日本食を好み、寿司や刺身とともに日本酒を飲む人が増えています。中国市場での事業展開について、どのような戦略を考えていますか。

嘉納 北京、上海などの大都市圈では、積極的に商品を販売する努力をしています。中国は、急速に成長しており、街の姿もどんどん変わっているようです。私たちは、直営店を構えてお酒を販売するのではなく、流通との関係構築、お客様とのパイプを作ることが重要だと考えています。

白鶴の日本酒の良さをきちんと中国のお客様に説明するために、定期的に社員を派遣しています。上海には長いお付き合いの中国の代理店があり、北京でも新しい代理店にお世話になっています。現在、どちらも順調に事業が拡大しています。

―― 本年、御社の「白鶴錦」と「白鶴まるごと搾りにごりゆず酒」は、2012年モンドセレクション最高金賞を受賞されました。1743年の創業以来、酒造りの長い歴史の中で、最高の日本酒を造る秘訣は何でしょうか。

嘉納 わが社は歴史が長く、経験も豊富です。ただし、経験豊富なだけでは、良い商品は開発出来ません。私たちはお客様の嗜好の変化や時代背景、新しい価値について研究し、常に技術開発を行っています。例えば、この「白鶴錦」というお酒は、「白鶴錦」というお米の名前が由来です。お酒造りには、特別な品種のお米が使われるのですが、その中でも最高の品種「山田錦」を更に改良したのが「白鶴錦」というお米です。開発には10年以上も掛かりました。

「白鶴まるごと搾りにごりゆず酒」は日本酒ではありませんが、新しい味を求めているお客様のために、爽やかな日本の果実であるゆずを使って、日本的なお酒として開発した商品です。

中国人は自分の夢を持つ

―― 嘉納社長は中国に行ったことがありますでしょうか。中国の印象について教えてください。また、中国のお酒文化に対して何か見解があるでしょうか。

嘉納 今年三月に、北京を訪ねました。五年前には、北京、上海、大連に行きました。当時から大都市の活力をすごく感じました。道路も広くなり、地下鉄も増え、生活は近代化して便利になっていますね。中国の皆様が、自分の夢をきちんと持って生活をしているのは印象的でした。上昇の意欲を感じます。レストランやスーパーでは、商品が溢れていますし、新しい商品にも大変興味を持っていただけます。ファーストフードや欧米のモノだけでなく、日本のモノにも興味が広がっているようです。日本食のレストランが目に入りますし、マグロの大規模な試食販売キャンペーンも見かけるほどでした。日本食の広がりは、私たちにとって、商品を販売する良い機会だと思っています。

中国においても、新しい文化を取り込みながら、自国の白酒や黄酒だけでなく、ワインやウイスキーとならんで日本酒も愛されていくと感じます。たくさん飲んで場を盛り上げるためのお酒ではなく、食事をより美味しく豊かにするためのお酒が広まっていくことを確信しています。