大畠 勝彰 東洋証券株式会社社長
中国経済を理解する近道は中国株を持つこと

96年前に、広島県呉市で創業した小さな証券会社は、半世紀をかけて、東京に進出し、その後日本全国展開を果たした。約20年前に、中国経済が急騰し始めた頃、日本で初めて中国株を取り扱い、今では「中国株の東洋証券」と呼ばれ、中国市場に非常に強い力をもつことで知られている。7月11日、東洋証券株式会社の大畠勝彰社長に、中国株市場を参入する意味などについて聞いた。

―― 一部投資家の間では、世界第2位の経済大国になった中国の経済成長が、最近、鈍化しているとの見方があります。中国経済の現状をどう見ていますか。また、中日の経済関係は今後どう展開するとお考えですか。

大畠 中国の経済成長については、ひと言でいうと、成長への方向感が変わりました。まず、ひとつは、経済成長率を追求するため中国はアクセルを踏んできましたが、やはり、成長率の高さよりもその中身、質を追求する時代に変わってきました。今は、数字が伸び悩んでいるように見えますが、実質的には、中身は随分変わってきたと我々は見ています。今年の中国経済成長率は、第一四半期は8.1%、第二四半期は7.6%となりましたが、我々はそんなに大きな心配をしていません。むしろ、経済成長の中身が変わってきているという面では、新しい成長路線を描き始めてきていると我々は認識しています。言い換えれば、経済の落ち込みは深刻ではないと思っています。

日中経済関係においては、よりいっそう誠意のある絆が生まれていると私は思っています。中国経済の姿勢が変わっていく中で、中国においても、やはり日本の歴史と同じように高齢化社会や環境問題に遭ったり、新しい課題が出てきます。そういう面では、日本の技術が生かされる関係が出てきています。従って、日中関係がお互いに補完しあい、協力していく時代を迎えていると私は思います。経済成長とともに、日中関係はより強固な関係が築いていくような状況になってくるでしょうし、日本の企業もどんどん中国へ進出して、中国で新しいビジネスを進める段階に来ています。それを考えてみれば、日中関係はいい方向に向かっていると私は思います。今後の更なる強力関係の深化を期待しています。

―― 御社は「中国株の東洋証券」と呼ばれ、中国市場に非常に強い力をもつことでもよく知られています。1993年、御社は日本で初めて中国株を取り扱いましたが、そのきっかけについて教えてください。

大畠 中国の改革開放後の経済成長スピートは目を見張るものがありました。

その中国の経済成長に対し我々はどう接していけばいいのか。我々証券会社や日本の投資家が中国経済の成長を肌で感じられるようにするには中国企業の株を我々が取り扱い、投資家に持っていただくことが一番の近道ではないか、という経営判断がありました。そして1993年に青島ビールが香港に上場したことをきっかけに、当社は積極的に中国株に取り込んできました。我々には資本市場を通じて中国企業に資金を提供し、その成長を側面から支えてきた、という自負があります。

―― 中国の内需拡大戦略は、今後ますます進展すると見られています。「中国株オンリーワン」を目指すリーディング企業として、中国株式市場に対する見通しについて聞かせてください。

大畠 ここ数年、中国のマーケット環境は厳しい状況が続いています。その原因はやはりリーマンショック以降の世界的な景気の後退に加え、中国国内の不動産価格の急騰や、消費者物価の上昇が大きかったと思います。それを抑えるため、中国の金融政策も財政政策も緊縮政策を採用せざるをえませんでした。しかし中国経済は既に落ち着きを取り戻し、沈静化に向かっていると我々は見ています。すでに発表された十二次五ヵ年計画の中で、鉄道を中心とした交通インフラ政策の具体的な内容が徐々に公開され始めていますので、今後はこうした景気刺激策の進展に伴い、安定路線ながら着実な成長を遂げるのではないでしょうか。マーケットもそれに平行して、上昇してくると我々は考えています。

―― 2012年は中日国交正常化40周年です。また「中日国民交流友好年」として、さまざまな交流活動が行われています。企業市民としての中国への貢献、及び若い世代の人材育成をどのように考えていますか。

大畠 今年は日中国交正常化40周年です。当社としては特別な活動というものは考えていませんが、例年、続けている中国への社員研修団の派遣は今年も継続したいです。先ずは多くの社員に中国へ行ってその実態を見てほしいです。これは、中国を理解する上で欠かせないことだと考えています。

それから、ビジネスとしては、今後、更に当社のお客様に中国株を持ってもらうことです。それが中国との一番の関わりだと思っています。そういう橋渡しの役割を今後も我々がやっていきたいと考えています。新しいビジネスとしては、やはり日本から中国に進出する企業様がたくさん出ていますので、いろいろな機会を通して、日本の企業様に中国の商談会を聞くなど、いろんな情報を提供して、ビジネスチャンスを作っていくことも、この40周年を記念して、やっていきたいと思います。

―― 中国について一番印象深いものはなんですか。どんな中国の文化を今の日本文化に取り入れたいのですか。

大畠 私は年に二三回は、中国に行っています。最近訪れた北京や上海で一番強く印象に残ったのは、交通網の著しい変化です。上海では昔は地下鉄がわずか一二本でしたが、万博を契機に一気に十三本に増えました。もう一つは、高さです。ビルの高さを含めて、いろんなものが高くなりました。

中国の文化を取り入れるのは、大変なことです。今の日本では、“ハングリー精神”が欠けています。つまり、チャレンジ精神が欠けています。従って、今の中国社会のチャレンジ精神を日本文化の中に取り入れたいです。また、教育への熱心さを取り入れたいです。中国の優秀な古典文化は貴重な文化財ですので、日本も古くからその影響を受けていると思いますが、それを活かしながら、次世代に残していけたらいいですね。