山尾 幸弘 日中管理学院社長
人材ビジネスを通じ日中ビジネス交流に貢献したい

20年間、山尾幸弘社長は人材ビジネスの道を歩んできた。2002年にアクシスコンサルティング株式会社を創立し、IT・コンサルティング・電子電機業界を中心とした人材紹介サービスを開始した。2006年、主に中国からの求人に対応するための転職紹介専門部署「国際人事部」を設立し、本格的に中国に関わる人材ビジネスをスタートした。その後の日中間のビジネスニーズ拡大の勢いを見て、2010年には日中両国のビジネスマッチングをコーディネートするために「日中管理学院」を設立、日本企業の中国進出支援を本格化。今秋には、東京で日中企業100社を集めて「日中経済・技術連携サミット」を開催する予定だ。6月8日、本誌は山尾社長を訪ねた。 

中国の人材ビジネス市場の将来性

山尾 中国の人材ビジネス市場は、紹介・派遣ともに伸びる余地が大きい。市場調査会社IDCの調査によれば、人材アウトソーシングサービス(HRO)の需要増やBPOサービスへの優遇策を受け、中国の人材アウトソーシングサービス市場は2010年に前年同期比で19.1%と急成長しており、市場規模は12億2,000万ドルになる。2011年のHRO市場の同期比伸び率は24.9%、人材アウトソーシング市場の向こう5年の複合成長率は19.7%に達すると推計している。中国の人材アウトソーシング市場は高度発展と統合段階に入っている。つまり、成長から成熟に変わりつつある。

幅広い人材とノウハウあり

山尾 現在、銀行や通信などの業界では、ミッドエンドおよびハイエンドのHROサービスに対する需要が日増しに増えている。また、それ以外の業界でも、人件費の高騰や労働市場の流動性の高まりを受け、適正なコストで人材を安定供給できるHRO企業へのニーズが非常に強くなってきている。現在、当社には幅広い人材DBと、要求が高く複雑な日本の顧客企業のニーズに応えてきたノウハウがあり、これらは中国市場でも付加価値の高いソリューションにしていけると考えている。

「国際人事部」設立の経緯

山尾 2006年当時、日本国内においては人材紹介ビジネスの更なる進化とグローバル化への対応が迫られていた。次第に、日本のIT企業から優秀な在日中国人IT技術者を紹介してほしいとの要請が増えてきたため、中国に特化した「国際人事部」を設立した。さらに、中国の上海・北京の人材会社とアライアンスを締結し、中国から優秀なSE・PGを日本の中堅・中小SIerに紹介・派遣し、2年間で100人以上の優秀な中国人IT技術者の就職支援を行った。

リーマン・ショック後の対策

山尾 私はこれまで、1990年代の日本のバブル崩壊と2000年代初頭のITバブル崩壊を経験していたので、リーマン・ショックの影響にも冷静に対応できた。当時、採用環境は激変し、採用数が大幅に減少した。市場と顧客からは、単なる労働力の確保ではなく、より即戦力の人材が求められた。当社は、コンサルティング業界とIT業界という二つの得意分野において、ミドルからハイエンドの人材に特化する戦略を採った。さらに、私たちの強みの領域をより明確にし、より高度で専門的な人材DBの再構築を手掛けた。その結果、競争優位性を確立し、人材ビジネスの収益モデルの転換を図ることができた。また、国内の人材ニーズの可能性と限界を見定め、改めて成長要因の一つとして、人材ビジネスのグローバル化の必要性を再認識した。

今後の中国人人材紹介事業の展開

山尾 当社は、日本企業の中国進出に必要な日本人と中国人グローバルエリートを紹介していく。さらに、中国国内の外資・中国企業には、アライアンスパートナーと連動しながら、紹介事例を増やしていきたい。今年は、日中国交正常化40周年。日中両国が真の戦略的パートナーとして関係を強化していく中で、日中のビジネスに精通する人材の養成・育成も大切だと考えている。そのための施策として、日中管理学院では「日中ビジネスエキスパート塾」という教育・研修サービスも提供している。日中間の民間企業の事業拡大を支援し、新規事業や需要の創出を推進・実現していく中で、適材適所の人的資源の調達・紹介をしていきたい。

在日中国人の就職・転職

山尾 日中両国間の労働市場の流動性は今後ますます高まるものと思われる。その中で、短期的な金銭的評価を基準に考えるのは避け、まずキャリアパスをしっかりと考えることが重要ではないだろうか。広い視野でさまざまな業界・職種の成長性や役職ごとに求められるスキル・経験を調べ、自分の適性とキャリアパスを掛け合わせる。もちろんこれは簡単なことではないので、当社のようなHRO企業の情報・経験・ノウハウを最大限に活用してほしい。また、日本の企業側もグローバル・国際感覚を求めているので、国際人としての自覚やスタンス・実績・ビジョンなどをPRするといいだろう。中国人の職業観については日本と大きく異なるが、日本企業や市場への理解と希望、日中間のブリッジに対する姿勢を明確に表現すると、採用側の評価もよくなると思う。