川合 正矩 日本通運株式会社会長
「企業市民」として進出した国で貢献すべき

 物流業大手の日本通運株式会社は、2012年3月末時点で世界38カ国、214都市、401拠点で事業を展開しており、海外の社員数は1万6439人。2004年4月に上海に進出し、中国における総合物流の展開を推進してきた。海外の社員数の内95%1万6000人が現地採用で、中国では5000人を採用している。

4月18日、日本通運株式会社の川合正矩会長に、グローバル化における今後の物流業のあり方と日中間ビジネスの展望などについて聞いた。

 

―― 中国では改革開放以後、1980年代に計画経済から市場経済へと移行する中で、物流という概念を導入しましたが、中国と日本の物流の相違点は何だとお考えですか。

 川合 日本はこれまで物流については、ロジスティックという捉え方をしており、「部分最適」から「全体最適」をどうするか、要するに物流分野のコストをいかに下げるかが課題となっています。

昔は日本国内だけで考えていましたが、今ではサプライチェーンが広がってグローバル化されました。世界全体の中で、いかにコストを下げるかということですが、IT技術の進展がそれを可能にしています。

また、日本では「プル型物流」になってきました。昔は大量生産で作って工場が売るという「プッシュ型」でしたが、今では、売れる物だけ作って売るという形に変わってきました。

中国のようにトップダウンで物事を進める国では、何かを始めるときにはどんどん進むという利点があります。高速道路が良い例です。10年程前は荷物を積んだトラックが傾きながら走っていたのが、現在では3車線の道路をトラックがどんどん走っています。上海と南京の間を走ると驚きます。それだけ改革がどんどん進んできています。プル型の物流システムを社会が要求しているのです。

また、当社は中国でミルクラン輸送(定時ダイヤに基づき巡回して集荷する方法)をやっています。これはジャスト・イン・タイム(必要なものを必要なときに必要な数量だけ調達・生産するという考え方)で納める方法です。現在、中国でもこの方法が取り入れられています。

 

―― 中国の高度経済成長に伴い、欧米企業の参入が増えている中で、中国企業が物流競争に勝ち残るためにどのようにすればよいのでしょうか。

 川合 日本の国土の26倍もある広大な中国大陸で、高速道路もどんどん増えていますが、長距離大量輸送しようとするならば、もっと鉄道を利用すべきです。もうひとつは、海運会社の利用です。河川や運河を活用すれば、もっと物流を促進できると思います。

近距離輸送にはトラックが非常に便利ですが、長距離輸送は燃料費もかかるし、大気汚染にもつながる。貨車一両分の荷物をトラックで運ぼうとすると、何十人もの運転手が必要となり、コストもかかるし、排気ガスもたくさん出ます。鉄道はトラックの約6分の1の燃料費で賄えると言われています。

さらに、グローバル化している中で、中国は陸続きの国との間で物流業が伸びていく可能性があると思います。

 

―― 日本通運はすでに上海に進出し、中国の物流業に参入されています。中国では一般的に、引っ越し業務は中小企業が行っていますが、グローバル企業として、どのように取り組んでいくのでしょうか。

 川合 進出した国では、いかに企業としてその国に貢献できるかが大切です。いわゆる「企業市民」として進出した国で貢献することについて、これまでも若手社員に検討させてきました。

以前の日本もそうでしたが、私が学生の頃は、引っ越しの時に車やリヤカーを借りてきて、友達を集めて荷物を運びました。その時、自分の時間がもったいないから、誰かきちんと引っ越しをやってくれる人はいないかという発想から引っ越し業を始めました。

今の中国でも同様に、こうした発想に立って市場調査をやり、中国の大都市で引っ越し業務の取り組みをしたわけです。今はまだ、それほど伸びではいませんが、マンションの引っ越しなど、いずれは富裕層の需要が増えてくると考えています。

 

―― 現在、中国国内には約10万社の物流企業があります。さらに、多くの欧米企業も中国に進出しています。そうした中で、日本通運が競争に勝ち残る戦略について。

 川合 日本の物流業界で言えば、たとえばトラックの会社は約6万数千社あります。中国国内で10万社と言われても、決して多いとは思いません。中国の国土は広大です。何をターゲットして物流を進めるのかがポイントです。

当社は、基本的にはグローバルネットワークを使った中で、顧客ソリューションをどう提供するか。世界的観点から見て、中国では国内物流もあれば国外への需要もある。そういう中で、あらゆる輸送手段を使って顧客への要請にお応えするというのが当社のスタンスです。

ゆえに、中国国内だけをターゲットとしているわけではなく、中国が今後さらにグローバル化していく中で、海外進出の機会をとらえれば、中国市場の需要は大きいと考えています。

 

―― 2008年の中国の統計によると、中国物流業の総支出額は38000億元(約47兆円)となっており、中国のGDPの18%を占めています。現在、効率をいかに高めるかが課題となっていますが、最も効率を高める方法とは何でしょうか。

 川合 物流全体でいえば、先ほど申し上げたように、物流機能の向上には鉄道や船を活用することです。鉄道では一貫パレチゼーション(荷物を出発地から到着地まで、同一のパレットに乗せたまま輸送・保管すること)をやれば効率が高まります。

その場合、パレットのサイズによって貨車に入る寸法も決まってくる。以前私は、中国機械工程学会の方に、これからは全体の効率を上げるために、パレットの規格統一を早期にすべきだと申し上げました。

また、モジュール化と言って、運ぶ物のサイズをいくつか合わせると、パレットのサイズとぴったり合うといった具合にする手法があります。こうした積み荷の改善と、IT、汎用システムを活用して、余分なシステムコストをかけないことが必要です。

さらに、IT化の過程でクラウド(データを自社のパソコンではなく、インターネット上に保存する手法)をどうするかという問題があります。当社はクラウド化しています。一企業でクラウドを持つとコストが非常に高くなる。クラウドを持つ企業と組めばコストはずいぶん下がると思います。