千葉 勝久 株式会社ウェルバーグ社長
日中の省エネビジネスでの「協力」は双方に有利

日本企業は中国と技術や経験を分け合うべき

―― この数年、中国は省エネ産業の発展に力を入れており、関連企業も急激に増えています。現在、日本の省エネ産業は、次々と中国市場に進出していますが、競争の激しい中国市場において、日本企業の優位性はどこだと考えますか。

 千葉 省エネ産業は今や急成長を遂げ、IT産業に次ぐ「花形産業」となっています。日本はこの分野で経験を積んできましたから、ここ数年、中国に進出するようになりました。

最初に、日本が省エネ産業に、なぜこのように力を入れているかをお話ししないといけません。

その理由の一つは、環境意識の高まりです。日本は早くから二酸化炭素(CO2)排出削減、紙コップの廃止などを意識して行ってきました。国も省エネと環境対策を連動させてきました。

二つめは、昨年の3·11東日本大震災です。地震によって、電力不足とエネルギー不足が大きな問題となって、省エネ産業はこれに対応して行かなくてはなりません。

これに比べ中国では、省エネ産業を経済産業として発展させています。最近、中国は省エネ電球のLEDを大量に生産しているようですね。CO2を排出しない新しいゴミ処理法などもでてきています。

こうした分野で、日本の優位性は経験とノウハウを多く持っていることです。今後、日本は中国との連携を強めて、日本の進んだ経験とノウハウを中国に広めていくべきだと、私は考えています。例えば、中国が工場を建設する際の、システムづくり、ノウハウの提供を行うべきです。

日本の省エネ産業が中国のシェアをすべて独占するのは不可能なことです。日本の企業は中国との協力を強めていく中で、役割を明確にして、経験とノウハウを分かち合うことで、中国の大きな市場で共存し、発展していくことができると考えています。

 

省エネ産業が世界に貢献することを認識

 ―― おっしゃる通りです。しかし、日本の企業が先進的な省エネ技術を中国にもち込みたくないのは、「コピーされる」ことが心配だからだとの報道があります。つまり、日本は先進的な技術を持ちながら、中国との技術交流が十分ではなく、いずれ日本企業は中国市場で生き残れなくなる、という指摘です。中国との技術交流について、どう考えていますか。

 千葉 日本の企業の一部には、確かにそういう考えをもった技術者もいます。中国にノウハウをもっていったら、中国企業にノウハウを盗まれるかもしれないと危惧しているようです。

彼らは、省エネ産業が利潤の多い産業だと考えています。それで、ノウハウを提供したがらず、ノウハウを保持することが自分に有利だと考えているのです。

しかし、広い視野と度量を広くもって、環境対策、エネルギーの節減に関わる産業は、世界の調和と発展に貢献する産業だということを認識してほしいと思います。

私は、きちんとした市場のルールの下に、日本は中国にノウハウを提供し、きちんと役割分担をすべきだと考えています。日本の政府もこの方向で進んでいます。

しかし、やはり企業の一部には利益を優先し、技術を秘密にしようとしている。そういった技術者たちには、国際的な視野で見なさい、社会貢献という最も大切な命題を忘れているのではないか、と私は言いたいですね。

 

LEDの普及は顧客の立場から着想を

―― 3·11大震災の影響により、まもなく日本は “原発ゼロ”となり、全発電量の3分の1が失われ、日本の電力不足はますます深刻化します。政府は、太陽光発電などの自然エネルギーの利用拡大で活路を見出そうとしていますが、電力不足の解決策として、どういう考えをお持ちですか。

 千葉 これは確かに重要な課題です。政府の関係者とこの事について何回も話し合いました。今、日本で、すぐ原発にかわる電力がありますか。ないですよね。他の自然エネルギーを利用して電力を補うにしても、時間が必要です。それまでに、できることから始めなければならないのです。

3·11大震災の2年前に統計をとったことがあります。たとえば、もし全国の電球をLEDに切り換えたら、日本は少なくても二カ所の原子力発電所を減らせるという結果がでています。

このデータは、経済産業省に渡してあります。できる事から始めるべきです。例えば、省エネの方面から始めるとすれば、電球を全てLEDに切り換えることなどがあげられます。これも政府の課題の一つです。

 現実には、日本の企業や会社の多くはまだ蛍光灯を使い、LEDの普及率は全国で15%にもなっていません。今年から来年にかけて2年間で、日本は普及が速まるでしょう。

ですから、我々も消費者の購買コストを下げるように努力しなければなりません。そこで、我が社はビジネスモデルをつくりました。

まず、LEDを顧客の皆さまに配布します。とにかく使っていただくのです。そして、実用的だと感じ、電気使用料が本当に下がった時に、顧客が節約できた電気料の中から一部を徴収させてもらいます。この仕組みが日本で成功したら、私たちは自信をもって世界に広めていきたいと考えています。

 

        日本の企業は決断の速さに負けた

 ―― 最近、中国は目覚ましい経済成長を遂げ、GDPで日本を追い抜きました。日本の競争力が低下した原因はどこにあるのでしょうか。

千葉 先ほどもお話したように、日本は技術面でまだ保守的です。1960年代の高度経済成長以降、産業の発展が停滞しています。よいアイディアがあっても、日本の企業は、生産するかどうかを考えたり、判断するのに時間がかりすぎるのです。

企業の管理方式も保守的で、大きなプロジェクトでは、印鑑を押すだけで10人以上も必要です。さらに会議で検討しなければならない。その点、中国ではスピーディに決定し、すぐに生産に入ります。決断力と行動力が違います。ですから、日本の企業はこの決断の速さという点で遅れている、と私は言いたいですね。

つまり、同じような新しい技術があっても、日本がどうしようかと迷っている時に、中国はもう着手しているのです。日本の技術は進んでいるし、開発部門の人員も優秀ですが、実際に生産にかかるまでが遅い。中国は新しい技術があれば、すぐに生産に入ります。日本はこの点で負けているのです。

もう一つは、日本経済は安定していますが、コストが非常に高いことです。

現在、日本の省エネ産業は、若い人材の育成に力を入れています。「花形産業」として将来性もあるので、若い人材を必要としています。日本は中国と共に努力し、両国は互いに排斥することなく、手を携えて共に発展していくべきです。

 

        技術の輸出は製品の輸入と結びつく

―― 今年は日中国交正常化40周年です。中国でのビジネスチャンスも増えると思いますが、今後の新たな取り組みについて。

千葉 まず、日本の省エネ産業をリードする企業として、中国のLED工場建設に協力していきたいと思っています。ハイテク技術を中国と分かち合い、普及させていきたいと考えています。

そして、品質・生産管理の面で、日本の大企業の高度な管理方式を、中国の工場管理に運用したいと考えています。最新の省エネ技術を中国へ輸出し、中国の省エネ製品の質が向上したら、「MADE IN CHINA」の製品を日本に逆輸入したいですね。日本も品質がよくて値段が安い省エネ製品を必要としているのです。