青木 玲二 東横イン取締役
観光を発展させて、豊かな中日友好関係を

日本のどの都市でも、「東横イン」の看板を見かける。1986年1月に創業したホテルで、今では日本の大きなビジネスホテルグループだ。本社が東京と横浜の間の蒲田にあるので、「東横」という名前がつけられたという。中国市場に魅力を感じて、瀋陽に中国で一番目の「東横イン」をオープンした。

先日、北海道札幌の「東横イン」を中国人観光客専門のホテルとして、通訳を配置し、食事に工夫をこらしている。中国市場を開拓しているのは、「東横イン」ホテルグループの青木玲二取締役で、日本の観光業界で40年以上活躍されている。中日の観光業に独自の見解をもっている青木玲二取締役を取材した。

 

日本は中国人観光客に入国ビザを免除すべき

―― この数年、中日両国は観光の制限を緩めて、新政策を多く打ち出しています。特に、日本政府はこの3年間、観光ビザの発給条件を緩和してきました。観光業のベテランとして、この変化をどうみていますか。

青木 中国の方からすれば、日本の観光ビザの発給に不満を持っている観光客が少なくないようです。ですが、日本もこの3年間努力をしてきて、ビザ発給を簡素化し、条件を緩めています。

現在、中国の観光客は沖縄から入国すれば、数次マルチビザを取得できる。その後、自由に日本のどこへでも行けます。これは中国人観光ビザにおける大きな変化です。  

ビザは互いに平等なはずです。日本の観光客がノービザで中国に入れるのなら、日本も中国の観光客にノービザで日本に来てもらうべきです。今年は日中国交正常化40周年ですが、我々観光業界はこのチャンスを生かして、政府に新しい決断を促したいですね。

 

日本のホテル文化を中国に

―― 2010年8月に東横インは瀋陽にホテルをオープンされましたね。今後、韓国や欧米にも進出される予定だと伺っておりますが、中国市場開拓の目的と今後の目標を紹介してください。

青木 中国は世界最大の市場であるとともに、成長がもっとも速い市場の一つです。日本のホテル業界は成熟期に入っています。東横インは日本に240のホテルを持っていて、ほとんど日本のどこにでもあります。世界の市場にも進出したいと思っています。

実は、東横インの日本語の発音は数字の「1045」と同じで、我々東横インの最終目標は、世界中に1045万の客室をつくることです。現在、日本に240、韓国に6のホテルがありますが、日本には5万室ができています。目標達成までにはまだまだ長い時間がかかります。ですから、中国に大きな期待を抱いています。日本のホテル文化も比較的成熟してきました。文化交流として、「女将」のホテル文化を中国にも持っていきたいと思っています。

 

中国観光客の接待は難しくない

―― 2010年6月、東横インは瀋陽でホテルを開業する前に、札幌に中国人観光客向けのホテルをオープンされましたが、どうしてですか。

青木 その頃、ちょうど政府が中国人観光ビザを緩和したので、チャンスだと思ったのです。中国映画『非誠勿擾(邦題:狙った恋の落とし方)』の影響で、北海道に中国の観光客がたくさんやって来るようになりました。そこで、中国人向けのホテルを開業することにしたのです。

このホテルには、中国人スタッフも配置しました。言葉に困ることのないように、ホテルのあちこちに中国語の案内表示があります。朝は中国の方の好きなお粥を用意しています。

日本のマスコミに報道されましたが、中国のマスコミも取材にきています。東横インが中国人向けのホテルを開いたことは、日本の旅行業界の発展にもつながります。中国人観光客の受け入れは想像するほど大変ではないと、他の旅行業界の方も思うでしょう。

 

中国観光客にいかに便宜はかるかが大切

―― 2011年の「3・11大地震」発生後、否定的な世論のために、日本に来る中国人観光客が大幅に減少しました。中国人観光客を呼び戻そすために、東横インの方針に変化はあったのでしょうか。

青木 「3・11大地震」と福島第一原発事故以降は、中国だけでなく、世界中の観光客が日本から遠ざかりました。今はだいぶ戻ってきました。こうしてみると、中国人観光客の戻り方が一番速かったですね。

2012年の旧正月以前に、日本に来る中国人観光客数は地震前のレベルに戻りました。ですから、福島第一原発でもたらされたマイナス面の影響はだんだんと少なくなっています。中国人観光客の方は安心して日本においでください。

 政府の新たな戦略では、2020年までに日本を訪れる外国人観光客が2500万人に達することを目標にしています。2020年までに2500万人になるには、この2、3年に毎年、日本を訪れる外国人観光客が1000万人に達しなければなりません。もし、中国人観光客が大勢来なければ、この目標は実現できないでしょう。中国人の海外旅行の数は、1年に延べ7000万人にもなるそうです。この7000万人のうち、毎年10%が日本に旅行に来てくれたら、2020年までの目標は問題ないでしょう。

では、いかにしてこの700万人の観光客を日本に呼び寄せるのか。私は真剣に考えましたが、それにはいくつかのことを解決しなければなりません。ひとつは放射能汚染による食品の安全問題です。中国人観光客の方も食品の安全性を心配されているので、日本はこの問題を早く解決してほしいし、情報をきちんと公開してもらいたい。

また、言葉の問題については、中国人観光客を受け入れるホテルは努力しなければなりません。スタッフを研修させるとか、自動翻訳機を配備するとかして、言葉の問題を解決すべきです。

日本でも多くのところで、銀聯カードが使えるようになったので、中国人観光客の方たちにはとても便利になっていますし、これからもっと早く広まっていくでしょう。ですから、中国人観光客の受け入れには、大きな障害がなくなってきたと思っています。

 

観光が地方経済を振興させる

―― 今はほとんどがツアー旅行ですが、今後は個人旅行も増えてくると思われます。旅行先も大都市から地方に変っていくでしょう。全国チェーンのホテルにとって、各地の旅行社、レストラン等と提携して発展していく良いチャンスだと思いますが、どう考えていますか。

青木 日本の経済は低迷状態にあり、日本のGDPは20年前と同じで、この20年間の成長はほとんどなかったということです。我々がよく口にする「失った20年」です。特に地方経済の停滞は大きな問題です。何とかして地方の経済を振興させなければなりません。地方の経済が振興すれば日本経済も活性化されます。

東横インに泊まれば、外国の観光客が地方で消費することになり、現地の経済は刺激されます。今ちょうど、地方の市長さんや商工会の方たちと話し合いを進めているところで、東横インと協力していただいて、地方経済を振興させたいと思っています。

 

観光を発展させ、日中文化交流を推進

―― 2012年は中日国交正常化40周年の佳節です。中国と日本はこの機をチャンスに、それぞれの歴史と文化の背景のもとで、産業界の交流を促進しようとしていますが、どうみていますか。

青木 今年は日中国交正常化40周年にあたりますね。日中友好関係も新しいスタート地点に立ったと思います。日中両国は戦略的互恵関係にあります。これは安倍首相が在任中に締結され、これまでいろいろありましたが、中日は戦略的なパートナーとしての意義について、コンセンサスを得ています。

つまり両国には共通の経済的利益があります。さまざまな問題があっても、それらを克服して共通の利益を追求していくことが、中日の戦略的互恵関係といえます。

私はホテル業界で長く働いていますから、この時代は日本にとっても中国にとっても、観光業界に新しい認識が必要だと感じています。先ほどお話したように、経済交流の発展に伴って、文化交流も自然についてきます。

これは、一種の「国民外交」というか「草の根外交」ですよ。こうした外交は国と国の交流を支えています。観光も人の交流で、人と人の交流は大きな役割を果たすものです。

観光業を日中文化交流の一部分とみれば、日中友好関係に新しい内容が加わり、日中の戦略的互恵関係の基礎となるでしょう。