松本 守祥 日本アジア投資(JAIC)社長
日中間M&A ビジネスは WIN‐WIN ビジネスであるべき

日本アジア投資株式会社は1981年創立以来、新たな産業の育成と産業活性化の支援を経営理念として、資本運用を通じて日本とアジア各国の橋渡しをしています。中国企業の今後の課題、日本企業の将来の方向性などについて、6月21日午後、私は30年という豊富な海外投資の経験を持つ松本守祥・日本アジア投資株式会社社長にお話を伺った。

 MA ビジネスは一種の相互補完経済

—— 松本社長はM&A ビジネスは実は一種の相互補完経済(WIN‐WIN ビジネス)とおっしゃっています。中国は前世紀70年代終盤の改革開放から今日までの歩みの過程において最も顕著だったのは日本企業による中国企業の合併や買収でした。それが今では中国企業による日本企業の合併・買収という現象が現れた。しかし日本社会はこれに対して心理的に強い抵抗を覚えているようです。メディアも盛んに「中国が日本を買収する…」といった報道を繰り返していますが、どう思われますか?

松本 第一は、昔日本が中国企業を買収していたのは日本の経済発展の実力を表わす現象であり、日本経済が海外発展を求める道でもありました。例えば製造業において日本はコストの高い国ですから、80年代のプラザ合意以後の円高を受けて、製造業は日本での発展に行き詰まり海外に出て行かざるを得なくなった。海外企業の買収はその結果です。第二は、現在の中国は30年来の改革開放政策による経済発展を経て資本を蓄積しています。一方、日本の一部の中小企業は、技術力はあっても市場シェアの成長が鈍化しつつある会社もあります。ビジネスの最適化の方法として中国企業による日本企業の買収は一定の必然性があるでしょう。これが市場経済における一種のトレンドであることは誰の目にも明らかです。第三に、一部の日本人が本能的に抵抗を感じるのは、すべてが悪意から来るのではなく、「日本の空洞化」を恐れての事だと思いますが、それはグローバル化による経営環境の変化への認識不足と考えます。

私達は投資に携わる一企業としてもっと多くの失敗事例を知り成功の鍵を創造できるパートナーとして日中の実力ある中小企業が互いに投資し合い提携し合併し合う新しい補完関係の構築を促進したいと思っています。

 中国による日本企業の買収は現地化が必要

—— 中国企業が海外で合併・買収(M&A)を行なうに当たっては、日本のバブル経済時代の教訓に学び、闇雲な行動は謹むようにと指摘する専門家がいますが、松本社長は中国企業が注意すべき事は何だと思われますか?

松本 それは正しい考え方であり、注意すべきだと思います。つい先ごろ、日本経済団体連合会の会長が中国企業による日本企業の買収に言及して、「ゆっくりと進めてほしい」と述べられましたが、私はこの「ゆっくりと」は決して拒絶ではなく、中国企業が投資に飛びつくのではなく一歩一歩着実にビジネスを展開してほしいという善意のアドバイスだと受け止めています。

中国企業が日本企業を買収した後には、如何に管理し、如何に人を用い、如何に現地の法律や商業習慣を遵守するかという課題が存在します。例えば日本企業が中国へ行って企業を買収したとして、その後もし完全に日本のやり方を中国に持ち込んで、中国人を日本企業のやり方に嵌め込んでしまおうとしたら、きっと問題が出て来るでしょう。同様に、中国企業が日本企業を買収或いは経営に参入したら、その生産拠点が日本にある以上、日本の社員を上手く雇用しなければならず、単純に中国企業の成功事例を日本に移植するのとは訳が違うのです。このようにしてこそ、その企業が生産する商品のブランドとしての価値や生産技術を徐々に自分の物とすることができるのです。

一言で言えば、中国企業が日本で成功するには「現地化」という問題に直面するでしょう。

 中国人社員の採用と中国語学習という戦略

——御社グループには中国人社員が21名いらっしゃると聞きましたが、これらの中国人社員は日中両国のM&Aビジネスにおいてどのような役割を担っておられますか?また彼らの課題は何ですか?

松本 この2、30年来の中国を含む海外での事業展開を振り返ると、日本人と中国人が如何に心を通じ合わせるかは、確かに容易なことではなかったと強く感じます。M&Aで最も大切なのはその過程ではなく、その後の経営と発展だと思います。この時、買収された企業の現地スタッフを信用できなければ、企業を買収したとしても成功は難しいでしょう。私の会社も必要としている中国人社員は単なる通訳ではなく、専門的知識を持ち、社員として協力できる人材です。

つまり企業のグローバル化とは社員の多国籍化の実現にかかっているのです。目下のところ社長である私を含む日本人社員の三割以上が中国語の学習に取り組んでいます。これもわが社の国際人材戦略の一つです。

 日本を代表して進める中国戦略

——松本社長はアメリカで長年プライベートエクイティに携わって来られたそうですが、今は主に中国を対象にプライベートエクイティ、M&Aビジネスに従事しておられます。ご自身が蓄積されたご経験の中で最も重要なのはどんなことだとお考えですか?

松本 私たちJAICも、1997年のアジア金融危機、2007年のサブプライム問題、2008年の地球規模の金融危機リーマンショックを経験し、世界が益々小さくなっていると感じ、国家間の国境を越えた企業提携の必要性を強く感じています。現在わが社は中国法人「日亜投資諮詢(上海)有限公司」を立ち上げ、北京、上海、蘇州、瀋陽、天津、香港、台北に現地法人或いは支店を持っています。このような投資会社はまだ少ないと思いますが、こうしたやり方は日本企業の将来の方向性を示しているということです。