多くの若者が一人暮らしを選ぶのはなぜか

現在の部屋に住み始めてほぼ3年になる楊さんは、一人で暮らす感覚がますます気に入っているという。楊さんは一人暮らしの長所を数え上げ、「家中の明かりを付けっぱなしにしておけること、音楽を流しっぱなしにできること、寝たいときに寝られること……」などと話した。

 

一人で暮らし、二つの目は眠りたい時に閉じ、三食ともデリバリーで、四季を通じて淘宝(タオバオ)で買い物……これがおそらく一人暮らしの人の生活の様子だろう。

民政部がまとめた統計では、2018年に中国には一人暮らしの成人が7700万人以上いて、そのうちの20%が深圳、北京、広州、上海に分布する。この数字は今年、9200万人になる見込みで、その大多数を若者が占める。

多くのSNSやニュースサイトには、「一人暮らしのアドバイス」などの話題がよく登場し、そこではネットユーザーが自分の一人暮らしの経験を他のユーザーと共有している。一人暮らしの若者数人に取材したところ、彼らの暮らしの様子を間近で知ることができた。

 

一人暮らしは快適か

前出の楊さんは2017年に大学を卒業して、北京の事業機関に就職した。19年に2年間住んだ寮を出て、一人暮らしを始めた。

現在の住まいは50平方メートル余りあり、完全に自分好みのインテリアにすることができ、共同の台所やトイレで誰かと順番を争うことはない。「一人暮らしは本当にいい」と言う。

一人暮らしの人が1千人いれば、暮らしに対して1千通りの感じ方がある。ただ全体として言えるのは、「気まま、独立、気楽」が、若者の一人暮らしを選択する理由ということだ。

とはいえ大勢の若者の一人暮らしは受け身の選択であり、やむを得なかったからというケースもままある。

仕事が忙しいので、多くの若者が自分一人でいることを選ぶようになる。若手作家の馬歓さんは取材に答える中で、「北京・上海・広州・深圳などの大都市では、若者は仕事のプレッシャーが大きく、テンポが速く、友達も多くない。仕事の後や週末には一人でいたいとより強く願う」と述べた。

オフラインでは一人、オンラインではみんなと

ますます多くの若者が一人暮らしを選ぶのはなぜだろうか。

自由を愛する、独立した空間がほしいなどは、一人暮らしを選ぶ積極的な理由で、主体的な一人暮らしと言えるだろう。一方、受け身の一人暮らしをする人の圧倒的多数は「社交恐怖」が原因だと言える。

王さんもそうした傾向があるという。友達を誘って集まりたいとしているが、その日が迫ると、後ろ向きな気持ちになる。

「一番最初に感じるのは面倒ということ、そんなにたくさんの人に会いたいと思わないし、何かあれば微信(We Chat)でやりとりすればいい。集まりに参加しても、自分はとても静かにしている。知らない人のいる集まりには抵抗を感じて、うちにいた方がいい」と言う。

以前の統計では、一人暮らしの若者の「オフラインでは一人、オンラインではみんなとわいわいやるのが常態」という様子が明らかになった。

SNSアプリが高度化・バージョンアップすると、それによってもたらされたのは一部の人の「社交レベルの低下」だ。微信で話せることであれば電話をかけない。文字を打てるなら音声を発信しない。集まりではいつも黙々と食べ続ける……。

北京大学の靳戈研究員の分析では、「社交不安がある人は、人とつながりたいとは思うが、結局つながるのが怖くて、一人でいることを選択する。人とつながるのが怖くて後ろ向きになるので、一人でいる状態を長く続けることになり、状況を改善するために努力しようと思わなくなり、さらに後退する可能性がある」と分析した。

社会環境の変化が一人暮らしを助長

社会環境の変化が若者の一人暮らしの選択にも影響を与えている。

これまで、中国人は家族で集まって生活するのを好み、「大家族」をよしとする伝統的な観念が根強かった。しかし社会の発展に伴って、「大家族」の観念はその土台が徐々に失われた。

靳氏は、「計画出産政策により中国の家族構成は『3人家族』が現れ、都市化のプロセスで建設された各戸が独立したスタイルのマンションが、『大家族』がそのよりどころとしてきた空間的基礎を消滅させた。また現代の若者は『共働き家庭』で育ち、家庭での活動時間はかつてより少ない。空間と時間と2つの要因により、『大家族』の生活シーンはますます過去のものになり、一人暮らしが若者の期待するライフスタイルになった」と分析した。