16兆円市場に成長か
中国の若者が牽引する「睡眠経済」

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睡眠法

「90後(1990年代生まれ)は健康診断の結果報告を見る勇気がない」に続いて、最近は「今時の若い人の睡眠」が人気の検索ワードになっている。

 睡眠障害のある若者が年々増え続け、睡眠をサポートする商品の爆発的流行をもたらし、「睡眠経済」が生まれた。2020年の市場規模は4000億元(約6兆5000億円)以上に達し、2030年には1兆元(約16兆円)を突破する見込みだ。健康という視点からみると、飲食と運動に次いで、睡眠は3番目に高利益商品が生まれる可能性のある分野だ。

 

睡眠にお金を払うのは誰か

「2019年中国睡眠指数報告」によると、全国には睡眠障害を抱えた人が少なくとも3億人はおり、中でも90後の若者層が深刻な状況で、そのうち4分の3が夜11時以降に就寝し、3分の1は1時以降に就寝する。特に北京、上海、広州、深圳の一線都市の状況がより深刻だという。

中国睡眠研究会が発表した「中国青年睡眠現状報告」では、回答者で「睡眠の質を自分でコントロールできる」とした人は10.2%にとどまったと同時に、「休む時間が不規則で、体内時計が安定しておらず、眠る時間がまちまち」とした人は60%を超え、「しっかり規則的に休んでいる」は10%に満たなかった。

仕事のストレスによって若者の眠りの質が低下しただけでなく、眠り方と携帯電話などの電子製品も眠りの質に影響する要因となっている。

よく眠れない若者が、まさに睡眠関連商品の消費の主力だ。京東ビッグデータ研究院が発表した「2019―2020年オンライン睡眠消費報告」によれば、消費データでは、睡眠関連消費の取引額の増加率が最も高いのは95後(1995年から1999年生まれ)のユーザーで、彼らには仕事や生活を向上させたいというニーズがあり、睡眠関連消費をする人が多いという。

天猫のデータでは、2019年の「ダブル11」(11月11日のネット通販イベント)期間に、睡眠サポート商品を購入した人は2018年同期比で174%増加し、このうち00後(2000年代生まれ)の増加率は434%に達した。

 

睡眠サポート商品が続々登場

淘宝(タオバオ)で「睡眠サポート」をキーワードに検索すると、関連商品を扱う店舗が480店以上あり、心地よい睡眠に誘う香り袋、メラトニンのサプリメント、中医薬の酸棗仁(さんそうにん)、安眠スプレーなど数十種類の商品が売られている。

たとえばサプリメーカーの黄金搭檔の旗艦店で販売されている39.9元(約650円)のメラトニンのサプリは、リアルタイムの月間販売量が4万点を超え、累計評価件数が18万1000件に達した。

中国で初めて人工知能(AI)睡眠サポートロボットを発表した衆徳智能の創業者の賈相晟氏は、「子どもは眠れなければおもちゃがあるが、大人には睡眠をサポートするちょうどよい商品がなかった。睡眠サポートロボットは大人を新鮮な気持ちにし、心の隙間を埋めてくれ、早くぐっすりと眠れるようにしてくれる。睡眠ロボットは大人の『ゆりかご』だ」と話した。

ここ数年、睡眠サポート商品はハイテク化しており、価格もますます高くなっている。市場でよく見かける睡眠サポート装置の場合、価格は100元(約1600円)ちょっとから数千元、1万元(約16万円)ほどと様々だ。高額でも消費者は躊躇せず、各ネット通販サイトで1万点以上売り上げた商品も少なくない。

 

睡眠経済が静かに台頭

世界保健機関(WHO)は「ぐっすり眠れること」を健康の重要な指標としている。睡眠のためならお金を使おうとする人が増えた背後には、睡眠や健康がより一層重視されるようになったことがある。

よい眠りに対する差し迫ったニーズが中国の大規模な睡眠産業市場を生み出した。大まかな統計では、中国の広い意味での睡眠市場(寝具や家具などを含む)の規模はすでに1兆元(約16兆円)に達している。

ますます拡大する睡眠市場を前にして、関連企業の起業が相次いでいる。調査会社の天眼査がまとめたデータでは、現在の市場には「睡眠」、「スマート睡眠商品」、「睡眠サポート」のいずれかを掲げた企業が200社以上ある。そのうち半分以上が2015年以降の創業だ。

これと同時に、中国内外の多くの大企業も次々に睡眠市場に力を入れるようになった。ノキアはフランスの健康機器メーカーのウィジングズを買収すると発表。またアップルはフィンランドの睡眠自動記録アプリ会社のベディットを買収した。さらに蒙牛や旺旺、娃哈哈、コカ・コーラなどの企業も次々に睡眠サポート飲料を発売するなど、睡眠ビジネスはますます拡大している。

データをみると、2020年、中国の睡眠経済の市場規模は4000億元(約6兆5000億円)を超え、2030年には1兆元(約16兆円)を突破する見込みだ。

「オンライン報告」によると、睡眠サポート類の生活雑貨のうち、手軽な安眠スプレーは2019年の取引額が2018年の33倍に増えた。市場の基数が大きい足湯用入浴剤とアロマ類商品の取引額は同50%以上増加した。

購入者をみると、26―35歳の若いホワイトカラー、大学生、大学教員、小都市居住者がこうした小型の睡眠サポート商品を最もよく買っている。

業界関係者は、「全体的な流れをみると、消費者の睡眠消費に対する要求は、眠りの状態のチェックから眠りの改善へと変わりつつある。ハイテク度の低い日用品から医学的根拠のある先端的な商品へと変わりつつある」と話した。

 眠りの状態をチェックするブレスレットのほか、各種の睡眠サポート装置、重力布団、微妙な温度調節が可能な羽毛布団、ブルートゥース瞑想ゴーグル、スマート睡眠ゴーグルなどが2019年の「ダークホース」になった。

データによると、70後(1970年代生まれ)と80後(1980年代生まれ)がハイテク睡眠サポート商品の主力購買層だという。

全国衛生産業企業管理協会睡眠産業分科会の汪光亮執行会長は、「中国の睡眠市場はまだ十分に開発されておらず、産業構造が定まっていない新たなブルーオーシャンだ。質の高い眠りに対する消費者のニーズがますます明確になり、従来型ホームテキスタイルが産業化されて高度化し、睡眠医学とスマート技術が学際的に融合するのにともない、睡眠産業はこれから中国の健康消費分野の新たな経済成長源になるだろう」と述べた。