中国でドキュメンタリーがヒットする理由とは

中国医薬をテーマにした中国のドキュメンタリー番組「本草中国(The Tale Of Chinese Medicine)」が5月20日から毎週金曜日に放送されている。神秘的な中国医薬が生き生きと描かれる同番組は瞬く間に人気を集め、中国の伝統文化である中国医学の継承者が堅く守る信念や彼らの生薬のような素朴でピュアな感情に、視聴者は心を打たれている。

また今年初めには「我在故宮修文物」というタイトルのドキュメンタリー番組が予想外のヒットとなり、ネット上でも大きな話題となった。全3回の同番組では、北京の人気観光スポット・故宮の文化財を修復する職人とその過程に迫っており、高視聴率を記録。ネットユーザーの間では、「故宮の人材募集広告」と称された。

このことから2012年と2014年に放映された料理ドキュメンタリー「舌で味わう中国」が大ヒットし、ドキュメンタリーブームを巻き起こしたことが思い出される。同番組は、中国各地のグルメをさまざまな角度から取材し、その背後にある儀式や倫理、民族の特徴などを紹介し、視聴者は今までなかったフレッシュな感覚で同番組を楽しんだ。


「本草中国(The Tale Of Chinese Medicine)」のポスター

多様化する視聴者のニーズ

「中国ドキュメンタリー発展研究報告2016」によると、15年、中国のドキュメンタリー業界への投資は30億2400万元(約484億円)に達し、総収入は46億7900万元(約749億円)と、14年に比べて大幅成長となった。ドキュメンタリー専門のチャンネルや衛星チャンネルのドキュメンタリー放送時間は同年、前年比0.8%増の計約7万6400時間、そのうち、初放送の番組は同比3.9%増の計約2万4000時間だった。ドキュメンタリーのクオリティも改善しており、多様化する視聴者のニーズに対応できるようになっている。

中国伝媒大学電視学院の秦瑜明教授は、「ドラマ、バラエティ、ニュースなどは常に中国で主要な地位を争ってきた。メディアを総括する中国国家新聞出版広播電影電視(ラジオ・映画・テレビ)総局が、テレビや映画の低俗化に歯止めをかける『限娯令』を制定したり、1本のドラマ作品を二つの衛星放送局だけに放送させる『一劇両星』政策を打ち出したりしたことがかえってドキュメンタリーにとっては、発展のための理想的な空間を生み出すことになった。バラエティ番組には、視聴者を楽しませるという位置付けがあるが、視聴者には文化やアートに対するニーズもあるため、ドキュメンタリーはちょうどそのニーズに応えることができる」と、前述のドキュメンタリー番組が人気となったことは決して意外でないとの見方を示した。

特筆すべきは、ドキュメンタリーの視聴者が若年化し、若者の間で人気となっている点だ。「我在故宮修文物」は、1990年代生まれの人々が利用するユーザーのコメントが画面上に流れる動画共有サイトで人気となり、「舌で味わう中国」から生まれた「舌尖スタイル」というナレーションを真似ることも若者たちの間でブームになった。


「我在故宮修文物」のポスター

視聴者の心をとらえるカギ

これまでにも、故宮関連のドキュメンタリーは数多く製作されてきた。なかには、巨額のコストをかけた大作もあり、撮影画像もとても美しい番組だった。しかし、それらは単に故宮を紹介する百科事典のようで、「人」に対する関心はなく、一般視聴者との交流ルートを断ってしまうような番組ばかりだった。一方で「我在故宮修文物」の蕭寒監督は取材に対して、「文化財そのものより、それを修復する職人に注目するほうが、より新鮮であり、最終的に、視聴者から大きな反響があったのも、登場した職人たちに対してだった。彼らは視聴者から大変好ましい評価を得ている」と話している。あるネットユーザーは、「修復職人たちは、文化財を修復するだけでなく、実際には、現代社会に生きている人々の浮ついた心を修復してくれている。職人たちは、毎日、1年中、こつこつと一つのことをしている。そのような精神は現代社会では非常に欠けており、尊敬に値する」と評価している。

秦教授は、「どんなジャンルのドキュメンタリーにも、人情に関わる描写が必要で、それにより人々は現実の世界を一層知り、それを見直す機会を与えられるのだ」との見方を示す。


「舌で味わう中国」のポスター

ドキュメンタリーの製作には「匠の精神」が不可欠

じっと腰かけに座って、細かい作業を黙々とする。ドキュメンタリーの中で描かれる、そんな文化財の修復職人や中国医薬の専門家のプロフェッショナルな姿勢に、多くの視聴者が感動を覚えた。このようなドキュメンタリーをカメラで記録したスタッフらも、そのような精神を追求し、実践しているのではないだろうか。

「我在故宮修文物」を製作するために、製作チームは5年の歳月を費やして調査、研究を進め、4カ月連続で密着撮影を行い、それをわずか3話(計150分)のドキュメンタリーにまとめた。

「舌で味わう中国」を製作する前、製作チームは1995年から2011年まで、中国語版の人文地理学関連の書籍を全て買い、素材を収集し、ドラマとなるストーリーを探した。

中国医薬の材料は、特殊な環境で育つため、「本草中国」の製作チームは、蛇や虫などに悩まされる山奥に何日もこもって撮影した。時には、地滑りや土石流などの危険とも隣合わせだった。

ドキュメンタリーの製作に10年以上携わっている韓芸さんは、「匠の精神」には、「黙々と一つのことを行い、信念を貫く」という側面と、「向上に向上を重ねる」という側面があると指摘。「ドキュメンタリーの製作にも、『匠の精神』が欠かせない。ドキュメンタリーの製作には時間がかかり、素材の收集、実地調査に始まり、一つのシーンを撮影するために何日も費やすこともよくある。また、ドキュメンタリーで取り上げるのは一般的に普通の人々なので、カメラが回っていると、本能的に警戒心が働き、不自然になってしまう。そのため、辛抱強く彼らと接し、少しずつ慣れてもらう必要がある。そうしなければ、リアルなシーンを撮影し、真のドラマを見つけ出し、優れたドキュメンタリーを製作することはできない」と語っている。