中国アニメ漫画産業が日本から学ぶべきこと

今世紀に入る前後から、英国、韓国、日本の各国は次々と、米国文化・工業による大きな影響や国内経済の不景気に対応する目的で、文化クリエイティブ産業を国家発展戦略の重点に据えた。アニメ漫画産業は、その中でも特に中核プロジェクトとして位置づけられた。「期待の新星」である中国のアニメ漫画産業も、国情や市場環境と結合した発展の道を模索し、海外の成功事例を学ぶことに余念がない。

 
2014年7月に上海で行われたアニメ博覧会。コスプレ姿を見せている中国の若者たち

中国が参考とすることとは

中国のアニメ漫画産業は「何を学ぶか」「どのように学ぶか」に関しては、今もなお議論の余地があり、「手本とする」ことに潜む「偏り」が、逆に、中国のアニメ漫画産業の発展の足かせとなっている恐れがある。

「どのように参考とするか」は、「どのように理解しているか」によって決まる。今のところ、「海外の先例」に対する中国の理解は、「市場収益」という単一基準にしかフォーカスしておらず、これに制約を受けている。

たとえば、日本のアニメ漫画産業は、大きく分けて、「漫画」「アニメーション」「ゲーム」という3分野で構成されている。売上で見ると、ゲームは他の2つを大きくリードしており、漫画やアニメーションの数倍に達している。

アニメーションは、関連するキャラクター商品から多額の収入が見込まれ、それなりの収益が期待できる。このうち最も冴えないのは漫画だ。売上だけで見ると、漫画は、アニメ漫画産業という大きな業界の片隅にいる「老人」のような存在だ。高い技術レベルが要求される訳ではなく、収益も低い。このため、日本のゲーム、アニメ、関連商品の開発などの分野は、中国アニメ漫画産業が重点的に学ぶべき対象となり、国産アニメ漫画の戦略配置にも多大な影響を及ぼしている。

一部の企業はすでに、漫画ではなくアニメ漫画関連業務を、重点開発分野に組み入れている。言い換えれば、中国が実際に参考としているのは、日本アニメ漫画産業で最も収益が多い部分に限られている。

企業が収益を重視することは当然であり、それほど非難すべきことでもない。だが、産業の全体戦略から見ると、産業チェーンのいかなる要素も、単独で発展することは不可能であり、それぞれが発揮する効果は、産業チェーン全体の運行状況や市況と密接に関連している。

単純に「利を追い求め損を避ける」考え方やそのような考え方から派生する水平方向のシフトは、実のところ、目まぐるしく成長する国際アニメ漫画産業に内在する論理、特に文化的論理を軽視する振る舞いといえよう。

 
2014年10月30日に行われたAPECの記者会見。各国の指導者を紹介するアニメが放映された

日本アニメ発展の背景

また日本を例に挙げるが、日本で毎年出版される漫画雑誌や漫画本は、膨大な量に上る。書店からコンビニまで、駅構内のスタンドから露店まで、漫画は日本国民全体の読み物となったと言っても、決して誇張ではない。

日本の至る所で、多くの人々に愛読されている漫画は、日本人の審美観に深く影響している。日本のアニメに導入されている「リミテッド・アニメーション」という技法は、簡略化された抽象的な動作を表現する手法であり、漫画の影響を受けたものだ。

このような新しいアニメ形式は、ライト・ノベルの誕生と流行を生み出した。漫画を読みなれた読者しか、ライト・ノベルの人物や背景をありありと思い浮かべることができない。

漫画、アニメーション、ライト・ノベルといった産業チェーン川上・川下の各要素は、互いに影響を及ぼし合い、互いに成長を促し合い、三者は協力して力を出し、全方位に影響を拡大させてきた。

また、これによりアニメのイメージが人々の心に深く浸透し、アニメ関連商品の大ヒットに結びついた。日本のアニメ漫画産業の繁栄の背景には、漫画文化が初期に大きく発展し、成熟した読者が控える市場が確立したことがある。経済効果だけを指標としていたなら、日本のアニメ漫画産業と日本文化の中での漫画の大きな役割は、陰に覆い隠されてしまっていただろう。

文化産業が他の産業と違うところは、市場に売り出す商品が、決して普遍性を備えたものだけではなく、商品という形の背後にある、思考・感情・観念・記憶などをも含み、蓄積された文化をクリエイティブに開発・転化したものであるという点だ。受け手の文化的背景に浸透するものでなければ、製品と市場の効果的な結びつきは実現し難い。

 

文化を育てる観点が大事

実は、中国のアニメ史にも、素晴らしい先例は少なくない。

上海美術映画製作所時代のアニメは、中国アニメのひとつの「黄金時代」を築いたといえ、何代もの人々に影響した。アニメに盛り込まれた様々な要素は、中国人の思考・感情・観念・記憶に深く浸みこむことで、観衆を魅了し、感動を与えた。同時に、アニメを受け入れる土壌が培われた。

業界の戦略配置における産業チェーン各要素の役割を理解するには、産業という枠から飛び出し、文化を育てる製品の本質的意義を考察する必要がある。この主張は、中国の文化産業にとって、重要な警鐘と言えるだろう。

アニメを制作する力を備えたテレビ局、映画制作会社、アニメ漫画企業がますます増えるにつれ、制作班の知識的な背景や文化的訓練が狭まってくるようではいけない。

経済収益だけを目標に発展を目指す一部企業は、頭を冷やして考えを改めるべきだ。文化は、単なる産業化経営の産物ではない。産業発展の環境や条件である文化は、正しい理解と尊重を得られなければならない。