「しょっちゅう鍵をかけるのを忘れるが、全く気にしない」、「知り合いでなくても、顔を合わせたら笑顔で会釈する」、「ドアをノックされればすぐに開ける、相手が誰か尋ねもしない」、以上3つは最近ネット上で広く話題になっている『日本に長く住んで養われた40の悪い習慣』というブログの抜粋だ。作者は早稲田大学を卒業した「留学帰り」。取材で分かったのは、多くの留学帰りが「信じる」という話題について話す時、海外の人と人の間の信頼関係についておしなべて肯定的意識を持っている、ということだった。
《編集部から》
本誌創刊以来、我々は継続して留学帰りの人の起業や就業の中での喜びや心配事に注目し、彼らの転身と成長を目にしてきた。
間違いなく、留学帰りの人々は中国経済発展の面でかけがえのない役割を果たしている。同時に、留学帰りは異なった文化の養分を吸収しており、自身のグローバルな文化体験を通して国内外の文化交流のきずなや架け橋となっている。彼らの観念と発想が我々に与える影響、社会の価値観に対する作用も同様に軽視できないものだ。
留学帰りがどう見るか、どう思うか。これが「留学帰りの起業」2013年版が探る新たな方向である。
「鍵をかけない」vs「ドアを開けない」という現象
2013年初め、中国社会科学院は『社会意識白書』を発表したが、それは現代の社会意識の特徴と発展の形勢・存在といった問題を全般的に分析したものである。明らかになったのは、中国の現代社会全体では「信じる」ことが下降傾向にあり、人と人との間の不信感がいっそう拡大している。「世間のほとんどの人は信じられる」と考える人は半分もおらず、見知らぬ人を信用するというのは2~3割だけだった。「帰国してから、心理的に馴染めない感じがする」、「はっきりと表れているのは、外出する時、鍵をかけたかどうか何度も確認してしまうこと」、「一人で家にいる時に、ドアをノックされてもドアを開けられない」。帰国してちょうど半年になる小戴如さんはそう言った。
「鍵をかけない」と「ドアを開けない」、この2つは明らかに異なるスタンスだが、異なる2つの文化の「信じる」ことの最低ラインを映し出している。もう帰国して何年にもなる小劉は、「実際には、国内と海外の差がそれほど大きいわけではなくて、帰国したばかりの時は少し適応できなかっただけなんです。そのころは、まだ見知らぬ人に笑顔を向ける習慣が残っていたのですが、ほかの人からは変だと思われていました」と言う。ここまで話して、小劉は仕方ないというように肩をすくめた。「中国にいる時は、ずっと『見知らぬ人と話してはいけない』、『見知らぬ人から物をもらってはいけない』といった観念を抱いていました。この観念がどうやって養われたのかははっきりしませ。みんなそうですよ」。そういった国内外の「違い」が形成される原因について話が及ぶと、小劉は「実際、海外でも詐欺はあるし、窃盗もありますが、海外では社会環境全体がそんな感じだったから、あっちではだんだんに彼らの生活様式と信用に関する様式に慣れたのだと思います」と言った。
「信用」の危機を果敢に認めよう
廈門大学教育研究院副院長、廈門市留学生聯宜会秘書長の楊広雲氏はロシアに5年間の留学経験がある。「私はあるとき、ロシアの電車の中で1人の中国語に興味を持つ女性と知り合い、それから20~30年来の友人です。これは、現在の中国社会ではおよそ起こり得ないことです」と言った。楊氏は、市場経済の発展に伴い、一方で中国社会の経済発展レベルは迅速に向上したが、もう一方で社会の価値観の危機も無視できないと考える。モラルの低下や浮わついた社会気風が、現在の信じる行為に関する危機の大きな原因を作り出している。
米国での勉学・仕事の経験が10年以上ある清華大学社会学部の鄭路准教授は、米国の人と人の間の信用度は中国と比べて高いと考える。「米国では宅配の配達員が通販の商品を届けに来て、それがノートパソコンといったものでさえ、留守であると玄関の外に置いていきます。心配する必要はないのです」。しかし帰国後、鄭氏は中国国内の「信用すること」に対して憂いと驚きを感じた。「海外では、通りすがりの人が私の子どもに友好的態度を示したり、私に子どもに関することを尋ねたりするのは、ごく日常的なことでした。でも現在中国国内でこのような状況に遭遇した時には、まず、この人は人身売買業者ではないだろうかと考えてしまいます」。
英国からの留学帰りの白頴(仮名)さんは、「人との交際のプロセスで、外国の人は『見知らぬ人を信用できる』と判断する傾向が強いが、中国人は逆です。この信用に関する危機は楽観視できない」と考える。
愚痴をやめ、自分から始める
国内の「信用に関する危機」を認めることが第一歩で、海外で信用文化を体験してきた留学帰りの人々がもっと当事者としての精神を発揮して、中国社会で「信用すること」の再建に努力すべきだ。
楊氏の話では、中国には、例えば「知人知面不知心(表面からでは人の本心は分からない)」といった、他人に対する警戒心を促す格言が多いが、それに比べて欧州では類似の格言はそれほど多くはない、という。これは一面では国内の信用教育の欠如を映し出している。それはつまり、留学帰りの人々に信用することの大切な役割を提唱するのを邪魔しなければ、社会的にもお金をかけずに、我国の信用文化に影響が広がるということなのだ。
廈門大学新聞伝播学院の邱鴻峰准教授は、「中国国内では、人と人の信用度は相手によっても異なり、各人の自分に対するモラルのレベルにも人それぞれの要求を持っている。まず、自分が誠実になれば、人からも徐々に信用されるようになる。人を非難するより、まず自分から始めた方がよいと私は思う」と言う。留学帰りたちは、スタンスと意識を調整して愚痴を言うのをやめることを学び、まさに自分から始めて、社会の「信用文化」を向上させるといった、然るべき役割を発揮すべきだ。
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