「中国人1人が1年に読む本は4.3冊」は本当か?

「2011年に中国人が読んだ本は1人当たり平均4.3冊で、韓国の11冊、フランスの20冊、日本の40冊、ユダヤ人の64冊に比べて極めて少ない」――ある時期以来、この論文はさまざまなメディアで繰り返し引用され、私たちを考えさせるだけでなく、苦々しい思いをさせているといっても過言ではない。いったいこの数字はどうしたことか。中国は本当に「年間に1人が読む本の数が世界でも最も少ない国のひとつ」になってしまったのか。こうした問題について、中国新聞出版研究院国民読書研究促進センターの徐昇国主任に取材した。

「4.3冊」という数字はどうやって出て来たのか

徐昇国主任の回答は「2011年に中国の18歳から70歳の国民1人が読んだ従来の紙の本は平均4.35冊で、これは私たちのセンターが行った第9回全国国民読書調査で出た結果です」というものだった。中国新聞出版研究院は新聞出版総署に属しており、第9回全国国民読書調査は2011年の年末に行われ、2012年4月23日の「世界読書デー」の前夜に調査結果が発表された。

徐昇国主任の説明によると、全国国民読書調査は1999年に始まり、現在は毎年1回実施されている、国民の文化的消費に対する長期的な継続調査だ。CTR(央視市場研究股?有限公司)やホライゾン・リサーチなどの専門調査機関が参画し、国際的な社会調査の標準的なシステムを採用して全国29省、自治区及び直轄市の50前後の都市で、住民を対象にした世帯調査を行い、2万前後のサンプルを収集する。調査アンケートは図書、定期刊行物、音声画像、インターネット、携帯電話などのキャリアとチャネル及び公共的読書サービス、読書週(月)間、農村図書館などの項目をカバーする設定になっており、すでに中国国民の読書傾向を測る風向計となっている。

この数字がさまざまなメディアで「世間に対する警鐘」として使われているのとは異なり、専門家の目には「4.35冊」という結果は特に驚くには当たらないようだ。徐昇国主任は「2010年の調査結果は4.25冊で、2009年は3.88冊、2008年は4.75冊でした。ですから、全体的な傾向としては変動しながらも安定しています。ただ、楽観はできませんが」と語っている。彼は、「読書量が落ちているのは全世界的な傾向で、この点を危惧しているのは中国人だけではありません。ただ、世界的に比較すると、中国が低いのは確かで、古い伝統文化を持つ国、礼儀の国としての地位にふさわしいものではありません。現在の読書のトレンドや読書しようとする雰囲気は1980年代にも及ばす、『知識無用論』がますます激しくなって来ているように思います。読書量が少ない、とりわけ若い人が本を読まないというのは私たちが実際に目にし、感じることです」と語っている。

中国にはいつになったら全国的な読書奨励プロジェクトが生まれるのか

外国では読書振興は「君主の仕事」とされ、米国、フランス、ドイツ、日本などの国では元首や王室が読書を奨励している。英国政府は数千万ポンドを「ブックスタート」事業に割り当てて補助を行い、母親一人ひとりと幼児児童に絵本やペン、ステッカーなどが入った贈り物をしている。このプロジェクトはすでに世界20以上の国と地域で取り入れられ、中国香港、台湾などでも導入されている。英国には他にも「1ポンド書籍購入計画」があり、すべての子どもが1ポンドを受け取って書店で定価1ポンドの指定図書を購入する。

中国国内には現在、政府がサポートするこの種の全国的な活動がなく、往々にしてある一部の地域に限られている。例えば北京読書月間、上海読書月間、深?読書月間、蘇州読書節、陝西三秦読書月間、湖南三湘読書節、広州嶺南読書節、新疆天山読書月間、内蒙古草原読書節などだ。

他にも、一部の社会基金が慈善方式で読書の分野に手を染めている。例えば段永平の「心平基金」が学校に読書室を建てた例などがそうだ。「三葉草(クローバー)読書会」などの民間読書会も続々誕生している。さらに一部の商業機関はビジネスの形で読書の分野に参入している。例えば「南方分級読書研究センター」、「親誓母語読書センター」などが創設されている。このほか、中国少年児童出版社、接力出版社や21世紀出版社などの出版組織も中国少年児童出版社が創設した青少年読書体験大世界などのような新しい業態、方式で次々と読書を促進している。

しかし、これらだけではまだまだ不十分だ。徐昇国主任は「上は政府の役人、指導者、出版社、文化部門から、下は母親、赤ちゃん、子ども、学生まで、皆が読書に対する考え方を変えるべきで、国は読書をひとつの国家戦略に据え、早期に国家読書節や国家読書基金を設立するべきです」と語り、聶振寧、馮驥才など全国人民代表大会の代表や政治協商会議の委員がこれまでに何回も提案していることを明かし、一刻も早く承認されるよう希望している。

急成長の電子書籍はなぜ含まれないのか

近年、専門家も予想しなかったほどの勢いで電子書籍が急激に成長している。1999年の全国国民読書調査結果によると、当時のインターネット人口はわずか3%で、デジタル読書については調べる術もなかった。2011年にはインターネット人口は54.9%に増加し、デジタル読書率は40%、携帯電話による読書率は27.6%に達している。だが、第9回全国国民読書調査の結果では、2011年の国民1人当たりの平均デジタル読書率はわずか1.42冊だ。

徐昇国主任は、「デジタル読書を従来の紙の読書と合わせて計算できないのは、デジタル読書の統計が『冊』単位でカウントできず、一部分の章や段落だったりする可能性が多いことです。また、デジタル読書と従来の読書の二つの間には大きな差があります。例えば、携帯電話で読むのは本よりも新聞や雑誌だと考えられること。従来の紙による読書の測り方ではデジタル読書の読書量を測ることができないのです」と語っている。

「デジタル読書は価値や意義があり、もちろん大いに注目し、測定するべきです。しかし現在のところ世界中でデジタル読書に注目している結果としては、デジタル読書の良し悪しは簡単には言えないのです。デジタル読書は今のところ、従来の読書に取って代わることはできません。何故なら、まだ明らかな欠点があるからです。例えば子どもの視力を損なう可能性。ハイパーリンクがあるために往々にして読者の注意力が分散され、読書それ自体に集中できないこと。デジタル読書は断片的になったり、流し読みになったりしやすいことなどです」と、徐昇国主任の見方は非常に慎重だ。数年前、iPadが世に出始めたばかりの頃、iPadは読書の敵だと言った人がある。ある意味で、それは決して人騒がせな言葉ではないかもしれない。

莫言のノーベル賞受賞は国民を読書に向けるのにどれほどの効果があるか

聞くところでは、出版社の「精典博維」が莫言の作品の版権を3年間押さえ、この3年間で20作品を収めた『莫言全集』を出版するという。定価は700~800元(約1万円前後)で、100万セットを売る目論見だという。これについて徐昇国主任は「全集というのは主に蔵書目的ですが、仮に1セットの内の1冊を2人の人が読んだとすると、最終的にはその年の国民の読書率を0.001押し上げることになります。つまり、もし1人当たりの読書量を4.35冊から4.36冊に引き上げようとした場合、莫言が約10人必要なことになります」とはじいて見せた。もちろん、これには古い本を読み直したり、莫言の小説を単行本やデジタルで読んだ場合は含まれない。

世界の出版界についてみると、新しい超ベストセラーの誕生が読書を喚起するのは珍しいことではない。例えば英国の女性作家J.K.ローリングの『ハリー・ポッター』シリーズ7冊はすでに70以上の言語に翻訳され、200以上の国々で数億冊を売り上げているが、その内1冊が出版されただけでも世界中の出版界に激震が起き、もしその年に新作が出なければ、世界中の出版界の総売上は減少することになるのだ。

徐昇国主任は、現在ある部門が莫言のノーベル文学賞受賞を契機として、国民の読書ブーム、読書のファッション化を進めることを計画中だと語り、「程度の如何にかかわらず、これはひとつのチャンスです」と語っている。

しばらく前、徐昇国主任の所属する部門が中央文明委員会と共同で全国各地のさまざまな業界・業種の1万人を対象に1冊の本を贈呈する活動を展開したが、この1万人が最も欲しいと答えた書籍の統計結果は彼らを驚かせた。『百年の孤独』、『平凡な世界』そして『紅楼夢』がトップ3を占めたのだ。徐昇国主任は、国民がこれほど文学作品を読むことを好み、しかも読みたい作品の水準がかくも高いということは、文学を読むことを通じて国民全体の読書水準を押し上げるという、国民の読書の前途に確信を持たせるものだと考えている。