中国美術オークション20年史

7月、2012年春のオークションシーズンも終わろうとしている。過雲楼の蔵書で貴重な古書が2億1600万元(26億5700万円)で成約され、李可染の『万山紅遍』も2億9325万元(約36億円)で売買されたとはいえ、いまひとつ盛り上がりを欠いた。新しい物、事が生まれると言われる壬辰(みずのえたつ)年の春季オークションは上向きとはいかなかった。

1992年に本当の意味で中国初の美術品オークションが開かれてから、20年がたった。この20年間、中国経済の台頭が数多くのチャンスをもたらし、美術品オークションはまさに時宜を得て、無から有へ、小から大へ、未経験から基本的な規格化へと発展した。同時に、美術品の価格も幾何級数的に上昇し、人々を泣かせたのである。

 

新中国のオークション第1

1992年10月11日、北京の日中青年交流センターの世紀劇場で「1992年北京国際美術品オークション」が開催され、各方面からの注目を集めた。当時は100名の治安警察官、65名の武装警察官、72名の各国語通訳が配備されたという。

参加者はチケットを買って入場したが、豪華カタログと記念冊子、記念品を含むそのチケット価格は450元 (約1万円。当時の全国の都市住民の平均月収は約170元〈約3900円〉)。全世界の500を超えるメディアが報道した。

当時、国家文物事業管理局の副局長だった張徳勤氏は、「オークションは国際的には珍しいものではありませんでしたが、われわれにとっては未曾有の新しい経験だったので、模索と実践が必要でした。模索の道と足跡は、時間の量から体現されるはずです。歴史が公平な評価を下してくれるでしょう」と語る。

4カ月後、上海朶雲軒美術品オークション公司が設立され、1993年6月には上海朶雲軒の初回のオークションが開催された。このオークションの5000冊のカタログは3日間でなくなり、オークションの入場券も80元(約1500円)で入手が難しかった。成約額は835万元(約1億6000万円)で成約率は74.5%だった。

朶雲軒のその回のオークション手数料は200万元(約3840万円)で、同年の朶雲軒における1年間の利潤が60万元(約1150万円)未満であったことからも、これは当時としては間違いなく天文学的数字だった。

オークションを見学していた秦公、王雁南、米景揚は次々に北京に戻り、急いで自分のオークション会社設立の資金集めをした。これらが現在の北京翰海、中国嘉徳、北京栄宝というオークション会社である。

 

富豪神話の時代

1993年、馬未都は小冊子『馬説陶磁器』を出版した。この中で彼は半分冗談で、乾隆期の宮廷陶磁器の良品であれば、将来10万元(約190万円)以上で売れる、と予測した。現在、「清三代」の陶磁器の成約価格はすでに彼の予測の100倍以上になっている。

1995年6月22日、中国オークション業協会が北京で設立された。12月には国家文物局が中国嘉徳、北京翰海、北京栄宝、中商盛佳、上海朶雲軒、四川翰雅の6社に美術品オークションの管理独占営業を許可した。1997年、中国は『オークション法』を施行、美術品のオークションには法律の後ろ盾ができた。

2003年、新型インフルエンザの流行により、北京の春季オークションは2カ月遅延され、7月に春季の3回のオークションが開催された。4日間で、成約率90%以上、80%以上の新顔がオークションに参加し、3億元(約42億円)の成約額、という3つの記録が生まれた。ここから中国美術品市場は迅速な上昇軌道に乗ったのである。

2008年の金融危機でも中国美術品市場は大きな影響を受けなかっただけでなく、「億元」時代へと歩みを進めた。株式市場や不動産市場が不景気であるために多くの資金が美術品市場へ流入してきた。金融資本の介入により、収集は業界の中だけにはおさまらなくなり、インフレに抵抗して多くの人が関与するものとなった。

中国コレクター協会の会員中、企業家が2割以上を占めているという。企業家がオークションに参加すれば出品価格も自然に高騰していく。超高額の美術品の一つひとつ、富豪伝説の一つひとつが、中国美術品オークションを神話の時代へと突入させた。

 

20年の節目に立って

中国経済全体が発展していく過程の中では、美術品オークションは小さい業界にすぎない。しかし、この業界は美術品市場の価格の逆行、中国美術の法規の整備、大衆に対する美術教育については一定の役目を果たしている。

美術品の価値は価格と等しいわけではないが、価格は最も普遍的、最も直感的に人々の美術品を愛する心を覚醒させる方法である。よって、メディアが発達した環境で、全国民の美術知識の普及は未曾有のレベルに達している。

近年、美術品オークションは非難される部分も多い。金融資本の介入は、美術品のコレクションの属性をますます希薄にしている。市場に出ている偽オークションと偽物は全体を曖昧模糊にしている。

投機中心、人為的な転がし、頻繁な転売……美術品市場は「億元」、「超高額」、「急騰」、「高収益率」という華やかな言葉に囲まれ、一夜にして富豪になるという夢を抱いた人たちが次々に屍を乗り越えて進んでくる。

20年という節目にあって、中国美術品オークションは不作の年に遭遇している。これが人々の熱狂を覚ませるかどうかは分からない。中国嘉徳の寇勤副総裁は、現在の美術品市場は総体的に健康ではあるが、一部「炎症」を起こしており、対症薬が必要であるとしている。

この「薬」とは長期的な公的美術教育かもしれないし、法律法規の整備かもしれないし、健全な社会道徳と信頼関係かもしれない。

オークション20年、文化があり、富がある。模索中であり、発展中でもある。20年、これは節目でもあり、また起点でもある。

※円は当時のレートで換算