「吸えと言われても吸わない!」
まだ遠い中国のたばこ規制への道のり

「公安等の執行部門はたばこ規制対策を講ずる」

「禁煙外来に保険適用」

「公衆トイレを禁煙に」

近ごろ発表された『北京市たばこ規制条例』(草案)がパブリックコメントを募り、その内容が公開された。5月26日、北京で100名余りの有志が、公園やオフィス街など人の集まる場所で、『吸えと言われても吸わない!』とのスローガンを掲げて、たばこ規制キャンペーンを行った。

 5月31日に25回目を迎える「世界禁煙デー」。今年のテーマは“たばこ産業の干渉を阻止しよう”だ。

中国のたばこ規制への道のりは――。

 

たばこ規制9年の効果は?

 たばこによる被害を減らすために、中国は2003年に『たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(WHO FCTC)』に署名し、たばこの規制に着手して9年が経つ。

 ここ数年の中国のたばこ規制活動にはめざましい進歩がある。2011年3月、中国衛生部が公布した『公共エリア衛生管理条例実施細則』には明確に、同年5月1日から、室内の公共の場での全面禁煙が提起された。

「第12次5カ年計画」綱要にも「公共の場での禁煙を全面的に推進する」とある。その後、国はたばこ規制の実施計画とスケジュールを発表し、それに沿って、直轄市・省・市は5年以内に公共の場での100%禁煙を実現することとしている。

 この公布を受けて、地方でのたばこ規制への動きも活発に展開されている。北京、上海、杭州、銀州、広州、天津等で相次いで法令が公布され、たばこ規制は法制化の過程に入った。

 「たばこ規制は総体的には大きく進展しているが、依然として喫煙派との激しいせめぎ合いがある」と中国疾病予防コントロールセンター副主任で、国家たばこ規制?の楊功煥主任は明かす。

たばこの規制を始めて9年、中国の喫煙率は高いままだ。現在、国内の喫煙者は3億2000万人で世界の喫煙人口の3分の1を占めており、およそ7億4000万人が受動喫煙を被っている。

中国のたばこ消費量は減るどころか増えており、2005年に世界の消費量の3分の1だったものが、現在では48%にまで達している。

 

法令をどう根付かせるか

 法令公布後、いかにそれを根付かせるかが課題となっている。深?市衛生・人口計画生育委員会の張丹副主任は次のように指摘する。

「現在、たばこ規制条例は、全体的に執行や取締りの面で行き詰っている。たとえば、1998年の深?特区たばこ規制条例では、執行の主体は衛生行政管理部門としているが、市の行政監督所は、自分たちにはその行政機能はないと言う。喫煙も痰を吐くのと同様にどうやって証拠をとるのか、既存のたばこ規制条例でも明確に定められていない」

 「現在、国が定めた公共の場での禁煙法令はない。地方レベルの法令では運用性が弱い」と清華大学法学院の王晨光教授は指摘する。法律としての効力が弱い、抽象的だったり、スローガンで終わっているものが多い、など地方でのたばこ規制の立法には多くの問題点がある。違反者を誰が取り締まるかが重要な課題である。

 中国控煙協会の許桂華常務副会長は、管理体制の問題がたばこ規制の最も大きな障害となっていると言う。「現在、たばこ専売局とたばこ会社の二つが一つのセクションで看板を別にしており、政府の管理・監督を困難にしている」。

 「たばこ産業は、政府の財政収入にとって大口の納税者であり、政府は手を下しにくい」と楊主任は指摘する。

資料によると、中国のたばこ産業による税収総額は、長年、各産業のトップを占めている。2011年のたばこ産業全体での税収額は7529億5600万元(約9兆円)に達した。同時に、多くの地方政府にあっても、たばこの税収が頼みの綱となっている。たばこ産業が唯一の中心産業となっている生産地さえある。

 

力を結集し、たばこ規制を

 「国内のたばこ規制活動には依然として多くの問題点があるが、継続して前進させなければならない。それには、多方面の力を結集する必要がある。すなわち、政府による法律の執行、行政による監督、市民同士の忠告である。その上でさらに、モニタリングを行い、メディアが報道することによって目標を達成することができる」と楊主任は提議する。

 「根本からたばこ規制を行うには、まず、たばこ生産者と消費者とたばこ規制組織を分けなければならない。対立する者同士が同じ部門に所属していては、厳格な規制は不可能である。政府とたばこ企業の利害関係を断ち切る必要がある」と、中国工程院・院士(アカデミー会員)の鐘南山氏は指摘する。

 「禁煙法令を『張り子の虎』にしてはならない。禁煙活動を執行する主体を明確にすべきである。職責をはっきり区分することで、『懲罰』と『問責』が作用し、禁煙ははじめて法令として運用される」と、中国社会科学院法学研究所の黄金栄副研究員は説明する。

 同様に国民全体が参画することが重要である。シンガポール保健推進局の洪合成主席執行官は「たばこ規制の効果を得るには社会全体を動かさなければならない。国民の意識を高め、禁煙を規範化するのではなく禁煙環境の商業価値を企業に推奨することが必要だ」と語る。現在、シンガポールは世界でも喫煙率が最低の国の一つになった。中国はそこからヒントを得ることができるかもしれない。