中国アニメは独創性を育てられるか

「樹に登る豚を描いてもらえませんか」と浙江省達海文化産業有限公司の鄭敏理事長はあるマンガ家に尋ねたことがある。マンガ家は描けなかった。ならば見たこともないような大きな耳を使って樹を登る豚なら――。

「これが独創性ということです」。先日、杭州で開催された第8回中国国際アニメ・マンガフェスティバルで、鄭理事長はこう語った。

 国家ラジオ映画テレビ総局の統計によると、2011年に中国で放映されたアニメの時間総数は26万分(約4300時間)で、これは日本のおよそ3倍であり、アニメ作品の生産総額は600億元(約7500億円)だった。

しかし、日本の年間1兆6700億元(約20兆億円)という産業規模や、ディズニーの年間生産総額400億ドル(3兆円)に比べると大きな開きがある。量は多いが質は低いという現状から依然抜け出せず、独創性に欠けるというのが大きな弱点だ。

 専門家は、「現在政府が行っているアニメ産業への支援策を見直すべきである。総体的な支援から人材育成、独創性を伸ばす支援へ方向転換し、様々な文学形態に疎通し、独創性を呼び覚ますことで中国のアニメ産業は量から質へ転換できる」と指摘している。

 

中国のアニメ作品は

ほとんどがワンパターン

「アングリーバーズ」の杭州でのオープン、米国の「ドリームワークス」の浙江省での人材発掘、日本の集英社の中国でのマンガエージェントの養成……。

そして、今回のフェスティバルの来場者数は延べ208万人。そこでの146億元(約1800億円)のプロジェクト契約などから、中国のマンガ・アニメ産業の発展ぶりが見てとれる。

 しかし、国家ラジオ映画テレビ総局の金德竜副編集長は「生産量では、中国は世界一になったが、中国のアニメ作品には思想性、芸術性や鑑賞上の魅力が一体になった作品は少なく、平凡な作品がほとんどで、国際レベルからはいまだ遠い」と指摘する。

「国内アニメのほとんどは国外に出しても放映されないでしょう。子どもに見せるアニメで『死ね』などという言葉づかいができますか。血生臭い格闘シーンもそうです。それに比べて、米国アニメ『スポンジ・ボブ』の格闘シーンなんて楽しいものです。たった一発で相手を倒すんですから」

世界初の青少年向けチャンネルである米国の「ティーンニック」の簡寧慧中国総支配人はこう語る。

 かつて欧米や香港、台湾で200作余りのアニメ作品の製作・演出に携わり、ここ数年、多くのアニメ作品の審査をしてきた馮毓嵩氏は次のように言う。

「子ども向けの作品の中には、あろうことか、“黒老大”(暴力団のボス)や飛び降り自殺、三角関係、腹の探り合い、陰険狡猾な人物やストーリーを描いた有害無益なものがある」

 現状からは思いもよらないが、かつて中国アニメの全盛期には、世界で二作目の長編アニメ『鉄扇公主(日本名:羅刹女)』が制作された。ディズニーの『白雪姫』(1937年)に遅れることわずか4年だった。日本アニメの生みの親である手塚治虫にも影響を与えたと言われている。

 

独創的な作品の創出に

政府は支援すべき

中国アニメ作品の年間生産量はこの8年間で、放映時間総数は約90倍に増えた。発展速度を速めたのは、2004年に国が始めた一連のアニメ支援策である。市場での初期段階には大きな効果をもたらした。

しかし多くの専門家は今日、この政策は平等な支援になっていないと指摘する。「果実を求めていたのに雑草も伸びてしまった」と馮氏は嘆く。

 「量が多いのは悪いことではない。良い作品は100に一つだ」と玄机科技有限公司の総裁で、フル3Dアニメ『秦時明月』の沈楽平監督は語る。

現在6000ものアニメ制作会社が存在するのは、政府の政策によってファッション、日用品、おもちゃ業界までもがアニメ業界に参入したことによる。

 看過できないのは、多くの企業が確実に政府の支援策に寄りかかって、潜在能力を掘り起こす機能を失っている点だ。沈監督によると、現在アニメ制作の最高の報奨金は1分間3000元(約3万8000円)である。

1分間100~200元(約1250円~2500円)で製作して、テレビ局に安価で販売したり、無料提供したり、時には補填までして稼いでいる企業もある。「市場分析の努力もしないで、政府を食い物にしている」と沈監督は嘆く。

 業界関係者は、政府は現行の政策を見直し、時間に応じて報奨金を出す「アニメ作品放送奨励策」を徐々に廃止していくべきで、支援対象を選別しなければならないと考えている。

浙江工業大学芸術学院の常虹院長は「一番最初に、あるテーマに沿ったオリジナル作品を作った個人や企業こそ支援すべきだ。限りある資金は独創的な作品創出に投入すべきだ」と訴える。

 さらに沈監督は「第三者による市場の調査・研究を行い、データに基づいてこれまでの作品を評価し、専門家の審査を経て、その企業を支援するかどうかを判断すべきで、ただ時間数だけを見るべきではない」と指摘している。

 

マンガや文学作品との連携

 ドイツの漢学者であるヴォルフガング・クービン氏は次のように語る。

「現代の中国の多くの小説には“愛”が欠けている。魯迅には大きな“愛”があったから『孔乙己』が書けた。これはアニメにも言えることで、責任感のある作家なら思いやりがなければならない。日本のアニメ『ちびまる子ちゃん』には複雑なストーリーはなく、ただ“愛”を教えている。中国アニメの欠点は説教じみていることだという批判もある。良いアニメ作品に教訓は不可欠であるが、肝心なのはその表現方法の巧みさであり、アイデアである」

 よいアイデアは「(ストーリーを)変化させること」とも言える。台湾のマンガ家・?言中氏の『笨賊一?筐』は大陸で8年以上連載されており、ストーリー展開が激しい。彼は改編『アラジンと魔法のランプ』を例に、いかに原作を変貌させるかを次のように説明する。

「そそっかしい魔人は、出現するやアラジンを踏みつけて、ご主人様どこですか?と聞いたり、アラジンが魔法のランプをしびんに使ったりする。魔人は責任逃れがうまく、呼ばれて出てきた後も別のランプを擦ってもう一人の魔人を呼び出し、皆でたらい回しにするんです」 

 欧米や日本などアニメが発展している国で、最も成功したテレビアニメやアニメ映画は、宮崎駿氏のような大物監督が独自に製作したもの以外は、ほとんどマンガや小説を原作としてアニメ化している。

 沈監督は「現在、年間26万分ものアニメ作品の中に、人気の児童文学、ネット文学やマンガをアニメ化したものはほとんどない。実は、そういった市場は読者の評価や好みの情報を提供してくれており、ストーリー性や独創性に富んだ作品が多いのだ」と示唆している。