2012年の美術品オークション市場
ブームは沈静化へ

 2011年の美術品オークション市場は前半好調、後半はやや失速気味といった感じで終わった。2012年の春季オークションも間もなく開幕するが、市場はどんな動きを見せるのだろうか。

 

右肩上がり続く

 中国の美術品オークションは2008年後半から2009年前半にかけて金融危機の影響を受けたものの、2009年秋季からはずっと右肩上がりで、2011年春季まで4四半期連続で倍増を続けた。2011年春季は2007年秋季以来のピークとなり、オークション各社が相次いで創業以来の好業績を上げている。10社の成約額合計は205億900万元(約2640億円)に達した。

 2011年もやはり中国書画がかなりのシェアを占めた。10社が出品した348点の1000万元(約1億2000万円)を超える作品のうち、近現代画は207点、成約額は57億4900万元(約740億円)。張大千、斉白石、徐悲鴻、李可染、傅抱石、陸儼少、黄胄といった有名どころの作品が大部分を占めた。

 2012年もこうした構図は変わらないとみられている。その理由としては、中国書画は中国にとって最も重要な伝統芸術で、現存するものも多い。そして、歴代の大家の知名度も高く、芸術的価値も高い。また、焼き物などと違い、取引市場が中国国内に集中しており、鑑賞しやすくコレクターも多い。入門者が最初に手を出すのも中国書画といった場合が多い、などである。

 2011年、オークション会社10社が開いた「磁器や玉の骨董品」を専門に扱ったオークションは計52回。成約数は4396点(組)で出品数全体の7.71%、成約額は43億7100万元(約562億円)で市場全体の11.75%を占めた。

そのうち、中国嘉徳(チャイナ・ガーディアン)の「慎徳明道――五台山人の清道光御瓷コレクション」「東波齋の瓷コレクション」「皇朝盛世――宮廷御瓷萃珍」、北京保利(ポーリー)の「海外の宋元明清玉器コレクション」「天漢瑶瓊―海外?の中国玉雕芸術精品コレクション」「大明・格古」、西?印社の「中国当代玉彫大師作品」などがかなりの高額で落札された。2012年は書画以外に青銅器、磁器などがコレクター垂涎の品になると予想されている。

 このほか、各オークション会場では家具や古琴、アンティーク家具、切手や古銭、紫砂家具などの人気も大幅に伸びており、これまでは単に頭数を揃えるために出されていたような作品が主役級となったり、ほとんど出ることのなかったような作品も頻繁に姿を現すようになったりしている。

 

成約額も順調な伸び

 近年の美術品オークション市場は高級品や名品を扱うことがトレンドとなっているようだ。2011年春季オークションで落札額が100万元(約1280万円)を超えた作品は5726点に上り、2010年より2260点増えた。5726点のうち、1000万元以上は533点(前年比188点増)。5000万元以上は45点(同11点増)、1億元以上は13点(同2点増)で、この19年来で高級美術品の数が最も多い年となった。

 著名作家の名品のみを集めたオークションも人気が高い。例えば、中国嘉徳の「中行廬の画コレクション」「秋齋の画コレクション」「シンガポール陸儼少の名品5点」「真如精舎の画コレクション」「紫泥公社の近現代紫砂臻品コレクション」「?明室の明式家具コレクション」「五台山人の清道光御瓷コレクション(一)(二)」「食筍齋の中国近現代書画コレクション」、北京保利の「好蔵之――郭瑞騰博士の中国伝統書画コレクション」「集粋楼の中国近現代書画コレクション」「真如精舎の近現代書画コレクション」「郭秀儀生誕100周年珍蔵書画」、北京翰海(ハンハイ、中国最大国営オークション、Beijing Hanhai Art Auction Co.,Ltd)の「孫佩蒼家族の徐悲鴻油画珍品コレクション」「趙慶偉の挿画・連環画手稿コレクション」、北京匡時(カウンシル・オークション)の「虚懐の近現代書法コレクション」、北京華辰の「竹韵軒の中国書画コレクション」「冉氏書廬の中国書画コレクション」、上海?雲軒の「寥天楼書画」、西?印社の「閑居堂の中国書画コレクション」など。

 2012年は著名作家のコレクションや歴史的な名品のみを専門に扱うといった信頼性とブランド力がさらに重要になってくる。美術品を扱う投資家や投資機関はどんどん増えているが、彼らにとっての最重要任務はリスク回避。鑑定技術やシステムがしっかり整っていない中で、出所が信頼できる作品を購入対象にしたがるのはごく当たり前のことだろう。投資目的で購入する人にとって、その作品や購入する行為自体が一定のブランド力や宣伝効果を持っていれば、価値が上がるし、転売もしやすくなる。

 

勢いよく台頭?

 近年の成約数から見ても、出品物のレベルから見ても、中国の美術品オークションの国際的な主導権はすでに中国に移行したといってよいだろう。北京はニューヨーク、ロンドン、香港に次ぐ世界4大オークション会場の1つに数えられるまでになった。

2011年の欧州美術博覧会(The European Fine Art Fair)で発表された「世界芸術市場レポート」は、中国の芸術市場は現在すごい勢いで台頭しており、一躍、世界第2位の地位に躍り出たと報告している。

 近年、中国の美術品オークション市場は1四半期ごとに急拡大を続けているが、実はその増加幅は下降傾向にある。2012年の中国経済には多くの不確定要素が存在し、国内総生産(GDP)成長率も下方修正された。

M1(現金通貨+預金通貨)の増加率も貨幣政策の緩和に従い、相応の減少はあると思われる。経済や資金の情勢は今のところまだ先が見えない段階だが、2012年の美術品オークション市場は成約額の面で大きな成長は期待できないだろう。美術品の価値や信用面に対する社会全体の認識が深まるにつれ、2012年は美術品オークションのブームが沈静化に向かうのではないだろうか。