誰のため、何のために留学するのか
――今、問われる海外留学の心構え

 

――悲しいニュース

 2011年3月31日、上海浦東国際空港の到着ロビーで、日本に留学している24歳の青年汪某は迎えに来た母親を何度も刺して重傷を負わせた。10月31日、裁判所の一審判決は被告人汪某に懲役3年6か月の刑を言い渡した。

 この事件は社会にショックを与えただけでなく、留学生の「心の健康」というテーマにスポットが当たり世論を引き起こした。

 

――誰のための留学か

 「本当は国を出たくなかった。留学は両親の念願だった。実現することが二人の希望だった」。2011年夏、大学を卒業した王さんは最終的に両親の願いを実現する道を選び、イギリスに留学した。「もし私が留学しなかったら、両親はきっと悲しんだことだろう」。王さんの両親が最も重要だと考えているのは、海外で学位を取得することだそうだ。

 王さんの両親と同じような考え方をもつ保護者は少なくない。報道によると、湖南省岳陽市湘陰県に住む20歳の女性鐘晶緯さんの両親は、早くから彼女を留学させるつもりだった。「うちの親は親戚の子がみな留学しているので、私のことも外国に出さなければと考えていた」。

 今年の10月で日本での留学生活は2年が過ぎた。「私はずっと故郷コンプレックスを断ち切れなかった。もしできるなら、私は中国で大学に入り、中国で仕事に就きたい!」。

「留学させられる」子どもが、低年齢の留学生グループの中にはもっと多く見られる。先月10月中旬、筆者は北京、青島、西安など7都市の『中国国際教育展』を見てきたが、子どもより留学願望を強く抱いている保護者の姿が多かった。

「張り合うべきではない。どこそこの家が行くならうちも行かなければ、などと言うのはいけない」と中国留学サービスセンターの白章徳主任は指摘し、「低年齢の子が国を出て勉強することについては、もっと考えなくてはなりません」と語った。

留学に関する専門家は、「低年齢の留学については保護者が学生本人の意見を尊重する必要がある。もし本人が行きたくないのに両親が固執するなら、子どもは留学してから海外の環境に順応することが難しくなり、本人も環境に慣れようとせず、ほとんどは勉強を中断して帰国するということになります。これはお金の損失だけでなく、大切な子どもの学習チャンスと学習に一番良い時間を失うことになるのです」と語る。

 

――「包囲される」心

 イギリスでの留学生活を描写したモノクロのイラスト文集『逃げ場なし』は、海外帰国組の陳広頤さんが書いたものだ。以前インタビューを受けた際に「留学は、みんなが想像しているようなかっこよくて明るく美しいものではありません。どんな留学も海外の学生はみな楽ではないのです。その間の苦闘と苦渋はただ自分の心の中だけにはっきり残っています。中国国内の環境と比べると、外国では時にはもっと厳しく過酷です。これから留学する学生は、十分に心の準備をしてから出かける必要があります」と語っている。

 ここに、オーストラリアに留学した中国人学生に焦点を当てて行ったインターネットの調査がある。余暇時間にどこにも出かけず常にインターネットとDVDで時間をつぶす者は26%。心の内をさらけ出せる恋人を探し当てられない者、その道を探っている者は17%。勉強、仕事あるいは経済的プレッシャーで不眠症になった者は16%。「よく食べ、よく寝て、いたって快調」を自認する者はわずかに7%だった。

 スイスに留学したことのある陳さんは「留学生によっては美しい願望を抱いて、この“包囲される”留学に歩を進める。留学前は理想の光の輪がかかっているのが当たり前だから、それが心の落差を生み出しやすくする」と話す。

 上海社会科学院青少年研究所の楊雄所長はメディアのインタビューに対し、次のような意見を述べた。完全な教育というものは、家庭教育、学校教育、社会教育のこの3つの要素が重なり合ってできるもので、どの要素が欠けても、子どもの心の健康に影響を与えるだろう。そして、「世論は留学が成功したか否かの評価を喧伝するが、帰国組に対するステータスがいささか誇張されていて、それが留学生の心理的期待を増大させ、彼らの海外での生活や帰国後に容易に心理的落差とバランスの消失を生み出すことになるのです」と語る。

 

――留学前に何度も再考すべき

 統計によると、1978年から2010年末まで、中国のさまざまな分野での留学者数は総計190万5400人に達している。これから先も中国からの留学者数は増加し続けるだろう。

 「留学熱」は相変わらず高く、ますます多くの学生が海外で勉学に励む道を選ぶようになった。留学に関する専門家は、心の不健康を防ぐために出国前に「心の訓練」を始めなければならないとアドバイスする。

客観的な心理状態で留学に向かわなければならない。海外に学問を求める目標を計画するときには長期的な展望・作戦を持ち、同時に逃げる余地を与えて、負ける心構えもきちんとしておかなければならない。

 陳さんによると、留学を成し遂げる人のほとんどは、困難に対処する準備を十分に行い、留学する目標をはっきりさせている学生だという。「最も大事なのは、自分が留学で何をしたいのかはっきりさせること」と陳さんは明言する。

 たとえ準備が十分になされたとしても、留学生は海外で困難に出合うし、決して避けることはできない。啓徳教育北京支社社長補佐兼業務総監の王楠さんは、「ほとんどの大学はどこでも国際留学生組織を持っていて、学生のいろいろな問題解決の援助をしています。もし学生に経済面や生命の安全面で厳しい問題に直面したときには、現地の中国大使館や領事館に連絡してほしい」とアドバイスしている。