大阪の老舗

大阪といえば、美食で有名である。中国人は「民は食をもって天とする」のように、食を大事にする。大阪人は「食い倒れ」といわれ、食にこだわる。「食い倒れ」とはおいしい物をみれば何もかまわず、帰りの電車の切符が買えなくても、財布の底がみえても、破産しても、食べることにお金を惜しまないという意味だ。

大阪人は食通なので、街のどこにでもおいしい店がたくさんある。なかでも有名なのが「日本の台所」といわれる道頓堀である。

道頓堀は全長約2.5㎞で、有名な繁華街、心斎橋と隣接し、大阪名物のたこ焼き、お好み焼きから、海鮮料理、ふぐ料理まで、いろいろな店が集まっている。人目を引くのは飲食店の看板で、俗っぽいものから趣きのあるものまでさまざまだ。

道頓堀の南には17世紀に建てられた法善寺がある。法善寺の門前には長さ80m、幅3mの石畳の細い道があって、「法善寺横町」と呼ばれている。ここには、伝統的な日本料理の老舗がある。にぎやかな道頓堀の人ごみで、「法善寺横町」はタイムトンネルのように、穏やかで静かな17世紀の江戸時代に連れていってくれる。

「法善寺横町」で有名なのが「夫婦善哉」の店。創業は明治16年(1883年)で、もとは「お福」という汁粉の店だった。「お福」では、高級小豆の「丹波大納言」を約8時間かけて炊いた後、さらに約1晩寝かす。こうすると、小豆に砂糖の甘さが良くしみて、しっとりした甘みがでてくるとともに、小豆の形がくずれることなく、ハリが生まれるという。

「お幅」の善哉は1人前なのに、他の店と少し違い、2杯のお椀に分けた善哉がお盆にのってくる。お椀1杯では注文できない。最初の頃、客は不思議に思って、「なんで2杯もあるの」と女将さんに聞いた。すると、女将さんは「夫婦なんですよ」と、笑いながら答えた。そこで、「お福」の汁粉は「夫婦善哉」と呼ばれるようになった。

実は、これは大阪商人の智恵なのだ。一人分の椀の善哉を2つの小さな椀に盛って、盆の上にのせたのだが、このほうが少し多めにみえる。さらに、「夫婦善哉」という名が、「お福」の汁粉を有名にしていったのである。

今では、「夫婦善哉」はカップル円満のシンボルになっている。夫婦円満、恋愛成就を望む人は、法善寺横町で「夫婦善哉」をきっと食べることだろう。