特別寄稿
中国の小康社会の全面的実現
孫 大剛 中国駐新潟総領事

 

1979年12月、鄧小平氏が当時の日本首相大平正芳氏と会見した際、初めて「小康」(ややゆとりのある)という言葉を用い、中国の発展の青写真をまとめた。日本語にも「小康」という言葉があり、意味合いに差異はあるが、その「わりと良い状態」という中心的意味では共通しているため、これにより大平正芳氏もすぐさま「小康」という言葉を理解し、鄧小平氏にあなたと中国国民が一日も早く「小康」になるよう祈りますと述べたという逸話がある。それ以来、この「小康」という言葉は中国経済、政治、文化、社会、そして生態(エコロジー)の段階的発展目標としてますます注目を浴びている。

「小康」という言葉の語源は中国の古典『詩経』にあり、この本の中国文学における地位は、『万葉集』の日本文学における地位と似ている。同書に「民マタ労(つか)レタリ、小康スベキニ汔(ちか)シ」という一節があり、大意は「庶民は大変苦労しており、少し安楽にさせるべきだ」というもので、中華民族が古くから追求してきた理想的な社会像を表している。中国共産党が「小康」の概念で発展目標を示したことは中国の実情にかなっており、また最も幅広い国民に理解、支持されやすいことである。それが政策目標として確立された日から、小康社会という千年の念願は中華の大地で一歩一歩現実に変わった。

2021年7月1日、中国共産党創立100周年にあたり、習近平総書記が党と人民を代表し、中国の小康社会の全面的実現を厳かに宣言した。「中国人民のために幸福を図り、中華民族のために復興を図る」という中国共産党の初心と使命が、堅実に中国の人々の生活の質を向上させた。貧困脱却堅塁攻略では、絶対的貧困の問題を歴史上初めて解決した。40年余りの間に8億余りの人口が貧困脱却を実現し、「国連持続可能な開発のための2030アジェンダ」の貧困削減目標が10年前倒しで実現された。個人所得では、過去2年、中国国民1人あたりの国内総生産(GDP)が連続で1万㌦の大台を突破し、2020年の中間所得層が4億人を超え、1人あたり可処分所得が約5000㌦に達した。社会保障では、世界で規模が最も大きく、カバー人口が最も多い社会保障システムが完成した。国民健康保険加入者が13億人を超え、国民年金保険に10億人近くが加入した。生態環境では、過去10年で森林資源の増加面積が7000万㌶を超え、増量は世界一となった。2019年の炭素強度は2005年に比べ約48.1%減少し、2020年の削減目標が前倒しで達成された。

これらの成果は、中国共産党の堅固な指導と中国国民の弛まぬ奮闘を抜きにしては語れない。基本計画の策定から具体的実施まで、道筋・方法の模索からさまざまな矛盾・問題の解決まで、中国共産党は全国の各民族の人々を引率し、数十年の大変な努力を経て、「第1の100年奮闘目標」(2021年・中国共産党創立100周年)――小康社会を全面的に実現させた。今は社会主義現代化国家の全面的建設という「第2の100年奮闘目標」(2049年・中華人民共和国成立100周年)に向けて意気昂然に邁進している。

中国共産党は建党から100年、つねに最も幅広い国民の根本的利益を代表し、終始変わらず国民の幸福をはかり、中国国民の揺るぎない信頼と支持を得てきた。これは「小康」の目標を実現するための重要な基礎となってきた。米ハーバード大学が2003年から2016年まで中国を対象に長期調査を行い、厳しい学術審査を通して、2020年に研究結果を発表した。それによると、中国共産党の指導のもと、中国政府は中国国民の間で長期にわたり非常に高い支持率を誇っており、国民の政府に対する満足度は86.1%から93.1%に上った。今年5月、カナダ・ヨーク大学の最新調査で、98%もの中国人が中国政府を固く信じていることが明らかになった。 

小康社会の全面的実現という成果はまた、中国と世界各国のポジテイブな相互作用〈インタラクション〉、共同発展を抜きにしては語れない。長期にわたり、中国は「志を同じくし道が一致するのはパートナー、小異を残して大同につくのもパートナー」を貫き、イデオロギーで線引きせず、共通利益をつながりに、ウィンウィンの協力を原則にして、各国との友好協力関係を発展させるようにしてきた。いまや中国は日本を含む120余りの国と地域の最大の貿易相手国となっており、世界の経済成長への寄与率は長年にわたり約30%に達している。「中国の発展には世界が欠かせず、世界の発展にも中国が必要だ」と言える。

小康社会の全面的実現はゴールではなく、新たな生活、新たな奮闘の出発点である。中国はなお世界最大の発展途上国であり、発展が不均衡、不十分である問題を解決し、人間の全面的発展を実現し、全国民が共に豊かになるようにすることは依然として任重く道遠しである。新たな旅立ちに向けて、中国共産党は依然として中国国民と風雨を共にし、苦楽を共にし、全国の各民族の人々を率い、社会主義現代化国家の建設のため長期間たゆまず努力しなければならない。

「小康」は中華民族の「大きな夢」につながる一方、中国の各家庭の「小さな幸せ」にもつながっている。中国国民が「小康」の夢を追う時代に、日本社会にも村上春樹氏が綴った「小確幸」〈小さくはあるが確固とした幸せ〉のようなライフビジョンがある。中日両国は社会制度、発展段階などで違いがあるが、両国国民の幸せな生活に対する憧れには本質的な差はないと思う。重要な隣国同士である中日双方が互いを包摂し、相互に理解し、共に手を携えてウィンウィンの関係を築き、より一層成熟・安定した中日関係によって、中日両国及び両国国民によりよい幸福をもたらすよう心から期待している。