新型肺炎の拡大阻止で中日関係が好転

「山川異域、風月同天」(住む場所は異なろうとも、風月の営みは同じ空の下でつながっている)。年が改まって以来、中国では新型コロナウィルスによる肺炎が猛威を振るっている。その中で、千年前に艱難辛苦を乗り越えて鑑真和尚を日本に渡らせたこの一句は長く人口に膾炙している。長年中日友好を進めてきた鳩山由紀夫元首相は揮毫の際にこの句をしたため、さらに名前の「由」を「友」と書き換えて署名している。

鳩山元首相のこの一字の書き換えは、かつて周恩来総理が両国の交流史を論じた際、「友好は2000年、対立は50年」と語ったことを思い起こさせた。つまり、漢の武帝が紀元58年に日本に金印を賜った時から数えれば、中日両国はすでに2000年の交流の歴史を刻んでいることになる。連綿と続く長い歴史の中で、不幸な戦争の時期はわずか50年にすぎない。友好が中日交流史の主流であり、頂上を流れる主旋律なのである。

ここまで書いて、以前取材した村山富市元首相のことも思い出された。数年前、村山氏は自転車に乗って町で買い物をしていたが、現在ではほとんど車いすで出かけるようになっている。96歳となった村山氏は首相在任中、自ら日本の中国侵略戦争について詫びた。首相退任後は長きにわたって日中友好協会会長を務め、中日友好促進のために尽力した。現在、村山氏は大分の自宅で中国のネット動画のカメラに向かって、お国なまりで「頑張れ武漢!頑張れ武漢!」と話しかけている。

細川護煕元首相は10年前に訪れた武漢と長江を思い起こして、中国メディアに対し「武漢や中国の多くの地方で多くの皆さんが新型肺炎に苦しんでいます。私は皆さんの生活が一日も早く落ち着き、元に戻ることを心から祈っています」と語った。

中国に対する応援は、日本の引退した政治家たちだけにとどまらない。1月23日、武漢が封鎖され中国は緊急事態となった。日本の国会で安倍首相は「万全の対策をとり、国内の検疫体制を強化し、新型肺炎の感染拡大を防止し、同時に全力で中国の肺炎との戦いに協力する」と述べた。

2月10日、自民党の二階俊博幹事長は記者に対し、中国の新型肺炎拡大防止を応援するため、自民党は「支援金」を出すと発表した。この「支援金」は自民党所属の国会議員の3月分の歳費から5000円を集めるというもので、二階氏は「お隣に何かあった場合に支援するのは当然のこと」と述べた。この81歳の自民党幹事長は2月7日、連立与党の公明党の斉藤鉄夫幹事長とともに中国大使館を訪れ、「まさかの時の友は真の友という。日本は国を挙げて、全力で中国にあらゆる支援を行い、中国とともに肺炎の感染と戦う」と表明した。

長い間、中日交流史において「国を挙げて」という言葉を聞くことはなかった。今回、中国での新型肺炎発生の際に日本が「国を挙げて」支援するとしたことで、間違いなく新時代の中日関係に大きな暖流が注ぎ込まれた。

二階幹事長は、自民党内だけではなく、国会と政府でも努力し、さらに東京都の小池百合子知事にも中国支援の行動を起こすように提案した。その結果、小池知事は中国へ防護服2万着を寄贈した後、すぐに10万着を追加で寄贈した。

孔鉉佑駐日大使はこれらの措置に対し、感慨深くこう語った。「重大な災害があるたびに中日両国はいつも互いに見守り合い、同舟相助け合っている。感染発生を受け、日本政府と地方自治体、与党、社会の各界からいち早く見舞いの言葉をいただき、雪中に炭を送るということで、極めて重要な時に支援に乗り出し、防疫のための大量の物資を提供し、中国の感染に対する戦いを全面的に支援してくれている。われわれはこれを称賛し、感謝を表明する」。

2月4日には中国外交部の記者会見上、日本国民への感謝が伝えられている。中国外交部の華春瑩報道官は国内外の記者に対し、以下のように述べた。「今回の感染発生以来、日本の政府だけでなく、社会各界も中国に多くの同情、理解、支持を表明している。感染の発生を受け日本政府は中国を全力で支援することを表明した。日本政府と多くの自治体、企業が進んで中国にマスク、ゴーグル、防護服などの防疫物資を寄付している。武漢向けの物資の箱には『山川異域、風月同天』、『豈曰無衣、與子同袍』(衣がないなどというのはやめよう、あなたと一緒にこの服を共有しよう)と励ましの言葉が書かれていた。ネットでは日本のドラッグストアに『中国加油(頑張れ)』、『武漢加油』の貼り紙がある写真も見た。東京スカイツリーを赤と青にライトアップし、武漢の肺炎拡大阻止への祈りと応援を示してくれた。一部の国で見られる極端な差別的発言に対し、日本の厚生労働省の官僚は記者会見で、『悪いのはウイルスで、人ではない』と強調した。また、学校が保護者に対して子供たちが中国武漢に対して悪意を持たないように伝えるようにという手紙を出したとも聞いた」。

そして、「中国の多くのネットユーザーも私と同じように日本人民の温かい言葉や行動に留意していると思う。感染と戦う困難な時に他国の人々の同情や理解、支持に心から感謝し、心に銘記する。ウイルスに感情はないが、人には感情がある。疫病は一時のもので、友情は永遠だ」と述べた。

華春瑩報道官は日本で人気がある。文字は顔のようで、声は心を動かすという。華春瑩報道官の日本に対する謝意の表明は瞬く間にネット上の話題になり、日本中のさまざまな端末の画面に拡散され、日本列島を駆け巡った。2月5日には日本の主流メディアでも「感動」、「感謝」というタイトルで報道された。

中日関係史において、「感謝」という共通の言葉は普段ほとんど見られないし、その意味は重い。40数年前、中国が改革開放政策を実施した際、日本は日本円による政府開発援助(ODA)の形でサポートし、大きな成果を上げた。しかし、この資金を使った建設プロジェクトの完成後、中国側からは「ありがとう」の言葉はあまりなかった。長い間中日友好活動に従事している著名人は、恨みを込めて「日本は中国に『申し訳ない』と言わず、中国は日本に『ありがとう』と言わない」と語った。

明らかに中日交流史において、「歴史」は「今日」に深く影響を及ぼしており、「今日」と「歴史」は複雑にからみあっている。いかに暗い歴史を深く心に刻みつけ、歴史の教訓を汲み取り、光り輝く責任のある歴史を創造するかが、中日両国間に存在する重要な課題となっている。

2月10日、安倍首相の後継者と目される自民党の岸田文雄政調会長は、以前大臣を務めた外務省、厚生労働省などに赴き、肺炎拡大防止に従事する職員等を激励した。岸田氏は「皆さんが寝食を忘れて仕事をしていることに心から感謝する」と述べ、職員たちにインスタントラーメンと栄養ドリンクを差し入れた。このニュースは実際、日本政府の多くの公務員たちが国境を超えて肺炎拡大の防止という戦いに身を投じているという重要な情報を浮かび上がらせた。

先日、中国大使館のホームページでニュースが発表された。日本社会の中国に対する大きな支援を示したものである。そのニュースでは、2020年2月7日までに、日本の各界からはマスク633万8000枚、手袋104万7000組、防護服とアイソレーションガウンは17万9000着、ゴーグルとフレーム7万8000個、防護帽1000個、靴カバー1000枚、防護靴3000足、大型CT機器1台(300万人民元、約4180万円相当)、体温計1万6000本、消毒液1.15トン、消毒粉末1トン、消毒用品2000個、累計の寄付総額は3060万2000万人民元(約4億8200万円相当、このうち約4億7525万円相当は人民元、675万円は日本円)に上った。

2月12日、松山バレエ団は新型肺炎と戦っている中国国民に動画を通じて深い哀悼の意を表した。清水哲太郎総代表,森下洋子団長と団員らは中国の国家を歌い、「私たちは中国を愛しています!武漢がんばれ!中国がんばれ!人類がんばれ!」とエールを送った。

中国からの留学生・王琴さんが、マスク購入にまつわる話を聞かせてくれた。彼女がマスクを買いにドラッグストアに行くと、日本人の店長に購入制限をしていると言われたが、マスクは中国に寄付するためだと英語で告げると、店長は購入制限をなくしてくれ、さらに「明日の朝9時半にマスクが入荷するので、優先的に購入してかまいません。あなたが買わない分を販売しますから。うちの店は3店舗あるので、もし必要があれば私に連絡してください。頑張って!」と言ってくれた。彼女が清算を済ませて帰ろうとすると、日本人の高齢の男性が「おじゃましてすみませんが、あなたは中国人ですか」とやさしく聞いてきたので、うなずいて「はい」と答えると、男性は買ったマスクを彼女に渡して「今買ったばかりのマスク3袋ですが、差し上げますので受け取ってください」と言い、さらに中国語で言った。「中国加油!武漢加油!」。

このような感動的な、心温まるエピソードは今の日本社会の至るところで見られる。

日本に30年住む華人メディアの記者である私は、2008年の四川大地震の際に日本がいち早く救援隊を派遣したことを思い出した。日本の救援隊が現場で亡くなった人に頭を下げて黙祷している写真は長い間画面に取り上げられた。また2011年の東日本大震災の際、中国は迅速に救援隊を派遣し、彼らは停電して真っ暗な岩手県の被災地に入り救援活動をおこなった。

「救援外交」は中日関係の中でホットなキーワードとなっている。それは、中日両国社会の現実――災害時に現れ、中日関係の最新の課題となっており、いかに協力して災害に対応し、共同で疫病に立ち向かうという新時代の中日関係を構築するための切り口を増やしたのである。

外務省関係者によると、現在日本側は春に習近平国家主席を国賓として日本に迎える準備をしており、それには中日両国の指導者が署名する政治文書の準備も含まれている。今、日本側は習近平主席の提唱する「人類運命共同体」建設の重要性を深刻に受け止めており、今後中日両国が疫病の拡大防止で協力するという内容も入れたいとしている。

このたびの新型肺炎の流行は、明らかに中日関係の政治主導と制度設計をさらに触発した。歴史がそれを証明するだろう。