椎名 保 公益財団法人ユニジャパン副理事長 、髙木 文郎 事務局次長TIFFCOM事業ディレクターCOO
魅力的な中国の映画市場

東京国際映画祭(TIFF:Tokyo International Film Festival )に併設のコンテンツマーケットTIFFCOMと、東京国際ミュージックマーケット(TIMM)、東京国際アニメ祭(TIAF)との合同マーケット“Japan Content Showcase 2017”(10月24日~26日)は、コンテンツの垣根を越えたアジアを代表する国内最大の国際コンテンツ見本市である。今年は会場を池袋に移し、いっそうの飛躍をめざしている(TIMMは渋谷会場で10月23日~25日)。主催するユニジャパン(UNIJAPAN)にマーケットの現状について伺った。


撮影/本誌記者 郭子川

新たに池袋から発信する

—— 2017年から会場を池袋に移転して開催されますが、TIFFCOMとはどのようなイベントなのか。それを主催するユニジャパンについてもご紹介いただけますか。

高木 TIFFCOMは2004年に東京国際映画祭の併設マーケットとして生まれ、今年で14回目を迎えます。東京国際映画祭を世界に伍する映画祭にしていくため、必要不可欠なイベントとして生まれました。映画のほか放送番組、6年前からは、音楽(TIMM)やアニメーション(TIAF)のマーケットと合同開催することによって、マルチマーケットの姿をとるようになりました。

去年までは台場でやっていましたが、会場が非常に手狭になってきました。これは独自のコンテンツマーケットが、世界中の人たちから支持を得て、アジアを代表するマーケットに成長することができたおかげだと思います(2016年は21カ国から356団体が出展)。

池袋に場所を移したのは、池袋のある豊島区が国際アート・カルチャー都市構想を持っていたことからです。池袋を国際的な文化の発信地にするために、いろいろなホールだとか映画館だとかをこれから造って、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催までには全部を完成させる計画を進めています。そして、国際的なイベントであるTIFFCOMを池袋で開催するのなら、街としても応援するというお話をいただきました。

—— TIFFCOM 2017の魅力、コンセプトは何ですか。

高木 場所が変わったことで魅力を増していると、来ていただく方に思っていただくことが大事です。池袋の会場は周りにいろいろな新旧の施設があり、海外から来ていただく方々に、日本の衣食住のカルチャーを楽しんでいただけると思います。展示会場は池袋のサンシャインシティの中にありますが、同じサンシャインシティの中にホテルも、ショッピングモールも、いろいろな日本独自のカルチャーを体感できるような施設も数多くあります。そこが去年と環境的に違うところです。

中身の部分では、TIFFCOM、JCS (Japan Content Showcase)自体の価値も年々変化してきています。最近顕著なのはIP(Intellectual Property 知的財産)です。原作であったり、マーチャンダイジング(商品化)だったり、映像作品にする前段階のコンテンツ等々、いろんなビジネスが混在しています。パッケージ化された作品以外の商談の場としても活用される方も増えてきています。

そういう傾向を受けて、今年はよりそこにフォーカスした形で、IP関連のセミナーを数多く企画し、また実際にIPの商談の機会も求めている出展者のブースには、わかりやすく「IPマーク」をつけるようにしました。


公益財団法人ユニジャパン副理事長 椎名保

海外に進出する日本のアニメ

—— 日本の映画市場の変化について、どのように分析されていますか。

椎名 日本映画といったとき、やはりアニメが非常に特徴的なものとしてとらえられています。もうアニメは日本のサブカルチャーではなくてメインのポップカルチャーです。ここ10年ぐらいを見てみると、興行収入ベストテンの中で半分以上、ベスト20でも10本以上、みんなアニメです。海外でも評価され、認知されています。

昨年、中国で『君の名は。』が100億円のヒットを飛ばしました。今までは中国の人に聞くと、みんな『クレヨンしんちゃん』とか、『名探偵コナン』とか、そういう話にしかなりませんでした。あとは知名度の高い『ドラえもん』。こうした日本のアニメは、中国で日本以上の成果を挙げています。それに加えて、『君の名は。』は若い人の支持も得ました。日本の市場が変わっていると思われるかも知れませんが、それは日本のアニメが海外に出ていったということだと思います。

—— 日本のものを初め、多くの外国映画が中国市場に入っていますが、今の中国市場をどのように見ていますか。

椎名 中国市場は、世界第1位のアメリカ市場に肉薄しています。これはもう時間の問題で、いずれ世界一の市場になるでしょう。ところがアメリカ市場というのは、ほかの国の映画を受け入れません、「アメリカ・ファースト」ですから(笑)。アメリカ映画だけで、字幕のついたものは見ません。そういうお国柄です。これは別に日本だけの問題ではなくて、どこの国もアメリカ市場には入っていっていません。

ですから、中国がアメリカ以上の映画市場になろうというのは、ものすごいチャンスです。そこにすごい魅力があって、最近のハリウッド映画は、全部中国人が出てきます。何か1つ、要素として中国というのを入れれば、中国でのヒットの重要なポイントになるのです。それだけアメリカも中国市場をねらっています。われわれ日本にしてみれば、言葉の問題はありますが、同じような顔じゃないですか(笑)。それぐらいの親和性があるわけですから、より日本の映画や、日本の俳優は中国市場で受け入れられると思っています。

中国を中心に変わる映画市場

—— 近年、日中合作の映画づくりが増えていて、『レッドクリフ』や高倉健さんが主演をされた『単騎、千里を走る。』は日本でも有名です。日中間のコンテンツビジネスが盛んな中で、今後どのような形態での映画づくりが増えていくと思いますか。

椎名 日本映画が中国に入る方法は3つあって、1つは日本映画そのものが上映されること。2つ目は合作。3つ目は、日本映画のリメイク、つまりキャラクターや原作を使用することです。中国市場に入っていくやり方は様々ありますが、その3つのことが並行して動いていくと思います。

逆もまた同じで、100%中国産の映画がいいことも当然ありますし、合作で日本人が出ているというのもあります。あるいは中国の歴史もの、日本においては『三国志』は必ず当たるみたいな話があります。

日本と中国は、国同士で見たときに必ずしも蜜月の関係ばかりではありません。政治的にはどこかで常に牽制し合っているように見えますが、映画の文化においては、一緒にやっていけるようにしなければいけないと思います。

—— アジア諸国とのビジネス展開の展望について、どのようにお考えですか。

椎名 これまでどおりの展開でしたらダメです。日本国内だけ見ていたら、もう伸びていきません。日本映画の興行収入は、30年間ずっと2000億円で推移して、ちょっと良くて2200億、決して3000億になりません。それでも、アメリカに次ぐ2番目の映画市場で、映画を見る国民であると見られています。

そこに今度は中国が第2の市場になってきました。経済の発展に伴い、中国人も余裕が出てきたといいますか、見る環境が整ってきました。大きな市場になってきています。そうすると今度は、日本が考えなければいけないのは、アメリカ市場には入れなかったけれど、中国市場には入っていける。中国人も外国の映画を受け入れる。字幕でも見る。だから市場は中国を中心に変わっていきます。

—— 中国に一番期待することは何ですか。

椎名 「オープン」です。今はまだ規制があります。映画は国産のものが見られればいいというような、あるいは経済や政治に対する影響も考えてのことだろうと思いますが、もう世界一の映画大国になるのですから、オープンに、横綱相撲でドンと構えて受けるといいますか、映画が自由に見られる環境をつくってもらいたいと思います。

中国で日本映画の上映会に行きますと、今の日本の若者が見ないようなクラシックな日本映画、例えば小津安二郎とかがすごく人気があります。観客も満席に近く、日本人より詳しい人もいて、驚かされます。


公益財団法人ユニジャパン事務局次長TIFFCOM事業ディレクターCOO 髙木文郎

消費者に向けた形も

—— ビジネスチャンスがあり、希望も大きい、やりがいのあるお仕事ですね。

椎名 あまり知られていませんが、10年ぐらい前から、コフェスタ(JAPAN国際コンテンツフェスティバル)というのをやっています。日本のコンテンツをもっと海外に広めようという海外発信力強化支援プロジェクトです。毎年、9月、10月ぐらいの時期に、音楽、ゲーム、それから映画、テレビ、そうしたもの全部を含めたコンテンツ祭ですが、盛り上がりに欠けています。実は、TIFFCOMもその一環で、コアイベントのひとつです。

コアイベントは他にもあり、東京ゲームショーなどはすごい人気です。JCSではTIFFCOM 、TIMM、TIAFの3つをやっていますが、これはBtoB(企業間取引)のマーケットです。ゲームショーはBtoC(企業と消費者の取引)ですが、アニメビジネスでも一般の人に向けたBtoCの形も一緒になると、非常にインパクトがあります。JCSもそのように変わっていかなくてはいけないと思っています。