1億の都市移住農民工は市民に変われるのか

1億人とはいったいどんなものなのか。一国の人口にたとえるなら、それは数的には世界12番目の大国であり、南米の総人口の4分の1を占め、さらにオセアニアの人口の3倍になる。

そして中国で1億人とは、中央農村工作会議が2020年までに解決しようとしている都市に定住する農業転移人口数でもある。

これほど大規模な人口の定住は必ずや複雑かつ困難なプロセスを伴うだろう。どうやってこの1億人を定義し、公共サービスなどの均等化を実現するかは中央と各地の具体的な政策を待つ必要がある。

だが、専門家の見るところ、現在正に進行中のこの大規模な転換は、順調に進めば中国の経済、社会、文化ないし政治にプラスに影響し、中国の都市化のプロセスの中で新しい力となるだろうことは疑いの余地がない。

 

「意志があり、能力がある」農民工を都市に定住させる

「あなたは都市に定住したいか?」。故郷を離れて働く農村戸籍者の態度はさまざまで、矢も楯もたまらないという者もいれば、成り行きを見守るという者もいる。

実際、農業転移人口の意向は今回の都市への定住を解決しようとする過程では最も重要な要素だ。中国国務院発展研究センター農村経済研究部の何宇鵬副部長は「この1億人の区分けは、まず、その意志があるのかどうか、次に定住の条件に適っているかどうかを見ます」と語っている。

知る限りでは、現状の2億人の農業転移人口の内、70%前後が都市に定住する意志を持っている。その内、何宇鵬副部長の見るところでは新たに生まれた世代である「80後」、「90後」、および家族ぐるみで都市に移った者の定住の意志がより強いという。

中国国家衛生計画生育委員会が発表した『中国流動人口発展報告2013』もこの観点を裏付けている。データでは、現状の流動人口の主流は新たに生まれた世代で、2012年の流動人口の平均年齢は28歳だ。

報告は、彼らが都市に流入するのは単に稼ぐだけのためではなく、今後の発展に多くの期待を持っているためだとしている。また移住モデルで見ると、家族ぐるみが主で、この傾向は新たに生まれた世代の流動人口の中では突出している。

定住の条件も同様に重要だ。国家行政学院経済学教研部の張占斌教授は、「定住の意志があり、その能力があることがこの1億人の核心的な特徴です。『能力』は相対的なもので、個人差と、定住したいと思っている都市が設けているハードルに応じて決まります」としている。

これより前、中央都市化工作会議は各タイプの都市の定住基準を明らかにしているが、それはすなわち「鎮と小都市の定住制限を全面的に緩和して制度化する。中規模都市の定住制限を秩序立てて開放する。大都市の定住条件を合理的に確定する。特大都市の人口規模を厳格にコントロールする」というものだ。

張占斌教授は「次の段階では県クラスの市、地クラスの市、極端な場合には一部の省都がいずれも規制を緩めて、農業転移人口の流入を歓迎するかもしれません。ただ、北京、上海などの特大都市の場合はそれは困難です」と話す。何宇鵬副部長は「中西部地域は東部地域よりも条件面では緩いが、異なったレベルの都市の間でも差はあるだろう」と述べている。

実は、各地ではこれより以前にすでに関連する試みを行っている。広東省を例にとると、2010年には農民工のポイント制都市戸籍獲得工作を展開し、学歴、技能、保険への加入状況など多数の指標に条件を細分化し、合計で60ポイントを満たせば即定住できるようにしている。

何宇鵬副部長は「中央が統一するという精神の下で、次にそれぞれの地域が打ち出す細則を見る必要がある。これらの細則がこの1億人の条件を具体的に区分けするだろう。安定して就業し、安定した住居を持っていることを前提として、さまざまな都市がさまざまな付帯条件を付けることは構わない。例えば社会保険の加入年数などだ」としている。

公共サービスの均等化が鍵

統計は2012年末時点で中国の都市化率がすでに52.75%に達していること示しているが、清華大学中国経済データセンターが発表した調査レポートは、戸籍で見ると、非農業戸籍人口は全国の総人口のわずか27.6%に過ぎない。清華大学社会学部の李強学部長は、これは中国の現状の戸籍管理改革が人口の事実上の都市化に大きく後れを取っていることを表しているとしている。

これより前、農民工が1片の戸籍のために「都市に留まれず、故郷にも帰れない」という困難な状況が繰り返し新聞に取り上げられ、特に新世代の農民工にこの現象が突出していた。

清華大学「新たに生まれた世代の農民工」課題チームの研究では、新世代の農民工の内の44.0%は農業に従事した経験が全くなく、44.1%の人間が時折農業に従事し、常に農業に従事している者の割合はわずか11.9%に過ぎないことが分かっている。

多くの農民工は自分自身を都会の人間だと思っているが、都市戸籍そのものに公共サービスが付帯しているため、都市に移り住んで働いている者の多くが、たとえより多くの金と時間を費やしても、依然として同等の市民待遇を受けられない状況が生まれている。

山東省安丘大勝鎮の村民、孫偉さんは故郷から青島に移ってすでに8年働いている。現在の年収は約20万元(約342万円)で、青島市でも中の上の水準に属している。

彼は記者の取材に、「以前は意識していませんでしたが、結婚して子どもが生まれて初めて、身を以て戸籍の重要性を味わいました。現在、子どもは公立の学校に上がれず、もっと費用の高い私立の幼稚園に通うしかありません。それに何の手続きをするのにも、故郷に帰らなければならず、多くのことに悩まされています」と率直に語っている。

何宇鵬副部長は、基本的な公共サービスの均等化を実現することが1億人の都市への定住を解決することの最大の目的だとしている。定住とは、すなわちこれらの農業転移人口が速やかに市民待遇を受けられるようにするための効果的な方法なのだ。

ところで、農民工の定住コストはどれほどなのか。

広東省総工会の陳宗文常務副主席によると、総工会の試算では農民工1人当たりの定住に、都市は100万元(約1711万円)のコストが必要だという。公共交通、病院、学校などの公共サービス施設はどれも相応に増やさなければならない。戸籍を解決しても、仮に公共サービスと社会保障が追いつかなければ、依然としてこの1億人の市民待遇問題は語りようがないといえるだろう。

この問題の解決には政府、企業と個人など、多方面で力を合わせることが必要だ。張占斌教授は「中央の移転支出と市民化を結び付けることが地方に対する激励になります。現地政府と農民工が所属する企業も費用を負担すべきです。さらに農民工自身の努力が加わって、この問題はようやく円満に解決するのです」と語っている。

この過程では地方政府は短期的に一定のコストを支払う必要がある。しかし、張占斌教授は「もしこれが順調に進めば、経済社会の発展にとって巨大な推進作用となります。1億人が生み出すニーズは経済成長のパワーになるでしょう」としている。

この他にも、都市と農村を分け隔てする考え方も必ず打破しなければならない。李周さんは記者に対し「1億人が都市に定住するのと同時に、体制の3つの欠陥を克服しなければなりません。第1は農民工と市民工の同一労働別賃金、第2は農民と市民の住民権利格差、第3に建設用地の都市と農村での価格格差です」と語っている。

真の市民になるにはまだ長い道のり

「1億人の都市への移住は、単に戸籍上の数文字を改めるだけではなく、彼らを真の市民にすることです」と張占斌教授は語っている。

重要なのは、この1億人を本当の意味で都市生活に溶け込ませることだ。李克強総理はこれより前、「新型都市化戦略を詳述した際、およそ2億6000万人の農民工の内、意志のある者を徐々に都市に溶け込ませることは長期にわたる複雑な過程であり、就業支援も必要なら、サービス保障も必要だ」と語っている。

李周さんは「数の上での人口転移をどうやって質的な人的資源に引き上げるか、それも政府が早急に議事日程に組み入れるべきテーマです」と語っている。

こうした「新市民」にとっては、都市に溶け込む過程は絶えず自分を向上させる過程でもある。張占斌教授は「彼らは、周囲の都会の人間が、生活が安定して車を買い、コンピューターで作業をしているのを見れば、自分もそれに加わりたいと思うのは当然です。農業転移人口が都市に溶け込み、もしその過程が上手く進めば、ますます多くの人の気持ちを都市に引き付けることになるでしょう」としている。

李周さんは「将来的に1億人の都市への定住は中国に巨大な変化をもたらします。そのことで現代農業の発展条件が著しく改善され、都市人口の高齢化が効果的に抑制され、さらには都市と農村の格差がいっそう縮小される点に表れます」と言う。

だが、専門家は「公共サービスの均等化推進というのは、この1億人が解決を必要としている問題だけにとどまらず、それ以外の1億人以上の農業転移人口に対する基本的公共サービスも同様に重視しなければなりません」と警告している。

李周さんは一方で、「戸籍制度改革を深める主要な任務は都市戸籍に付帯する福利を剥がし続けること」だとして「次の段階は都市戸籍の重要性を弱め、都市と農村の戸籍の制度的な差別を徐々に撤廃することです」と語っている。

注意すべきは、記者が取材を進める中で、東部の省の多く、例えば山東省、江蘇省などの農業転移人口が、いずれも「自分たちは農村戸籍を残したいと願っています。それは都市で働けるのと同時に、依然として土地も保有しており、さらに新型農村養老保険制度や新型農村合作医療制度などが日々改善されてきているからです」と語っている点だ。

山東省安丘大勝鎮の村民、劉哲さんも、既に?坊の町中に家を買い、安定した仕事もあって、「より生活条件が良い」都市で生活し続けるつもりだが、「家にはまだ土地があり、戸籍を都市に移すのは割に合わない」と考えている。

戸籍を都市に移すか農村に残すかを問わず、膨大な数の農業転移人口が中国の都市を根底から変革することは疑いない。

李周さんは、農民はこれまでに土地の請負経営権、非農業生産に従事する権利および都市に移って働く権利を獲得する度に奇跡を起こしてきたとして、「中国の改革の成果は、中国の経験が数億の中国人の偉大な創造に源を発しています。政府がもしも農民に都市を経営する権利を付与したら、農民は都市化の新たな力になるでしょう」と語っている。

(注)旭日陽剛:農民工出身の男性2名のユニット。別の歌手が数年前に発表した『春天里』をカバーし、社会の格差や悲哀を嘆く歌へと印象を変えて人気が沸騰した。