北京でタクシーを拾うのは何故こんなに難しい?

昨今北京では、タクシーを拾うのに30分は待つことが「当たり前」になっており、通勤ラッシュの時間帯や雨、雪などの悪天候の時には、タクシーを捕まえるのはまったくマーク6(香港のジョッキークラブが運営するロト)に当たるのに等しいとさえ言える。2012年12月に中国社会科学院が発表した『公共サービス青書』は「タクシーの乗車難」問題は都市生活の中ではより一般的になっており53.77%の人がタクシーを拾うのに10分以上待たなければならないとしている。調査が行われた38の大都市の中で、北京はタクシーの拾いやすさでは28番目だが、同様な大都市である天津や上海には遠く及ばない。タクシーの乗車難問題は、徐々に“都会病”の1つになりつつある。

2013年に入り、北京のタクシー乗車難問題という話題は多くの庶民の注目の的だ。この問題に注目しているのは北京市民だけではなく、頻繁に北京を訪れる華僑や在外華人も続々と不満を吐露する仲間に加わり、自らの経験に照らして北京のタクシー業界に存在する問題を指摘するとともに、今後の解決に向けた応援メッセージを発している。 

タクーGET奮戦記

◆揚子岩シ

在米中国人の程汝剣さん(男性)は何度も北京を訪れているが、タクシーに関する不愉快な経験も忘れがたい印象のひとつだ。ある時タクシーの中に携帯電話を忘れたことがあり、後から友人の携帯を借りて電話してみると、程さんの携帯はすでに電源がオフになっていた。もう1つの経験はラッシュ時にまったくタクシーが捕まらなかったことだ。

程さんは「北京に来るたび、別の会社が車を手配してくれるのでわりと便利ですが、もし自分1人で出かけようと思ったら、そうは簡単にはいきません」と言う。

だが、程さんは実はタクシー運転手の苦労がよく分かっているのだ。北京の交通渋滞は誰もが知るところで、ラッシュ時にひとたび渋滞にはまれば1時間、あるいはそれ以上で、乗せられる客の数も限られ、時間ばかりが過ぎていく。タクシー運転手は「目を覚ますと、会社に払う管理費のことが頭から離れず、渋滞にはまるくらいなら、いっそラッシュがおさまるまでどこかで油を売っていて、その後に少しでも多くの客を乗せた方がましだ」と嘆く。

程さんは「タクシーが乗車拒否をするもう1つの原因はタクシー代が安いことですよ。米国なら初乗り料金が12ドル(約1100円)で、その後1キロごとに2ドル(約180円)だから、計算してみると中国よりはかなり高い。だから、米国では多くの人がタクシーに乗りたがりません。だって、レンタカーが1日40~50ドル(約3700~4600円)ですから」と言う。

程さんは「もう1つの原因は、つまり車が多すぎることです」として「自家用車が多く、公共交通機関の客を奪っている。それがそのままラッシュ時の渋滞につながるので、タクシーは自ずと客を乗せたがらない」のだと見ている。

金を払って買ったのは“不愉快な思い”

◆馬英(ニュージーランド、北京在住)

北京の「タクシー乗車難」については、私はすごく深刻な体験をしました。ある時、友人がオーストリアのウイーンから北京に戻って来て、空港から「亜運村」(1990年の北京アジア大会の会場として開発されたエリア)までタクシーで帰る時、友人が乗るなり、運転手から「こんなに長い時間待って、たかだか数十元の商売じゃ、まったく割に合わない」と恨み言を言われたそうです。友人は「亜運村」までの道中ずっと運転手によそよそしい態度をされたので、会社に戻るなり、「この次は、やっぱりあなたが迎えに来て。あのタクシーったら、ほんとにお金を払って不愉快を買ったようなものよ」と私に言ったのです。

またある時は、ドイツから戻った人が首都空港に着いた時にはすでに夜中の1時過ぎで、彼は私に迷惑をかけてはいけないと、自分でタクシーを拾ってホテルに戻ろうとしたんです。でも、まさかまるまる3時間待って、たった1台のタクシーしか来ないなんて思いもよらなかったんです。首都空港は北京の窓口である以上に中国の窓口です。外国人に中国に対する良い第一印象を持ってもらいたいなら、タクシーの管理レベルをもっと引き上げなければ……。

私が思うに、北京のタクシーの管理水準は中国の他の都市に比べれば少しはましです。でも、中国全体、あるいは世界の模範になろうと思うなら、改善すべきところはまだまだたくさんあります。

例えばタクシーの予約やクレームの電話番号はまだそれほど普及しているとは言えないし、予約しても時間どおりにタクシーが来る確率もそれほど高くはありませんしね。ただ、そうは言っても私、今後については変われると自信を持っています。以前は公共交通機関がなっていませんでしたが、今は随分良くなりました。公共的な環境衛生もお粗末でしたが、現在はかなり良くなっています。力を入れさえすれば、「タクシーの乗車難」も過去のものになるでしょう。(取材編集 汪霊犀)

タクシー運転手の悩み

◆柴さん

今年49歳で、15年タクシー運転手をしています。勤務は昼夜通しで、相棒と交代でそれぞれ1回24時間の勤務です。車の管理費は毎月7200元(約10万8000円)で、相棒とシェアしていますから、私は毎月15日間働いて会社に3600元(約5万4000円)払いますが、それには毎日240元(約3600円)稼がなきゃなりません。それに食事代や、車の維持修理費があって、交通違反をしないという前提で、毎日少なくとも700元(約1万500円)稼がないと粗利が出ません。一生懸命に1カ月やっても儲けは3000~4000元(約4万5000~6万円)です。会社は運転手が流出しないように、運転手が入社すると1台当たり2万元(約30万円)の保証金を取るんですが、これが運転手にはプレッシャーになっています。嫌がらせが心配で、人に喋るわけにはいかないし。

◆張さん

私はタクシーを運転して10年以上になります。それまでに多くの仕事をしてきましたが、タクシーの運転は結構いいと思ったんです。家は北京郊外の農村で、この仕事で兄と姐に家を建ててやりました。タクシーの運転は1カ月に2000~3000元(約3万円~4万5000円)の儲けになり、多いときは4000元(約6万円)以上にもなるので、近所の連中と比べれば満足のいくレベルです。私はシフト制の夜勤をやっていて、毎日午後の3時、4時から翌日の早朝3時、4時まで運転しています。休めるのは1カ月に2~3日で、休みを惜しんで働いています。管理費とガソリン代に追いかけられていて、休むと収入が減りますから、とても休めませんよね?

ガソリン代も馬鹿になりません。自分の取り分はその次です。運転してもしなくても、私と相棒の管理費は1日200元(約3000円)以上で、1日運転すればガソリン代は300元(約4500円)以上になります。月に1人当たり700元(約1万500円)ほどのガソリン代補助はありますが、焼け石に水で、プレッシャーはやはり大きいですよ。

私は会社では「和諧」チームに属していて、このチームは会社の顔ですから乗車拒否をしたことはありません。会社のチェックも厳しくて、先日、会社の上部がまた規定を出して、乗車拒否には厳罰を課すことになったんです。どうして乗車拒否なんてできます? でも、自分でも分かっています。もし渋滞が激しくてそれほど稼げなくても、ガソリン代だけは結構かかりますからね。ついでに言えば、今のシフト勤務には確かに問題もあります。実のところ北京市内のタクシー運転手には郊外の人間も多くて、交代の時間になって運転手が帰宅しようとする場合、家とは反対方向へ行く客は願い下げだというのも素直な気持ちです。でも、もし乗車拒否に対する処分が厳しすぎると、運転手は交代時間が近づいたら「回送」表示を出して客を乗せないようにし、多くの客がタクシーがつかまらないようになります。これは「和諧」じゃないですよね。