2012年、中国の住宅事情が激変する!!
中国は『賃貸住宅』にシフトする!!
「賃貸と持ち家」はどちらが損か得か

「家」は幸せな家庭に不可欠

「カタツムリ 背中に重い殻背負い ノロノロ 地面を這っている・・・」これは中国の童謡の一節だ。

大人になるにつれ、この歌詞が頭に浮かんでくる。「家」というものが、若者にとっていかに大きな「重荷」になっているかがわかる。

はたして、家は買えるのか、もし買えたとしても借金を返せるだろうか。若者にとって不安はつきない。

 ところで、家とは何だろうか。ある調査によれば、8割の人が「幸福と家は関係がある」と回答し、その内の7割が家は「幸せな家庭」にとって欠かせないものだ、と考えている。

 ではこのような幸福観は、若者が自ら選んだものなのか、あるいは努力目標なのか。はたまた社会からのプレッシャーなのか。おそらく自分でもハッキリわからないといったところが本音ではないだろうか。

 この3月に入ってから各地の高層マンションの販売にハズミがついてきた。3月14日、両会(全人代と政協会議)の記者会見で、温家宝総理は「住宅価格はまだまだあるべき姿にほど遠い」と語り、「住居」とは何かを国民に問いかけた。そして、アパート住宅や借家住宅の利点についても言及。あらためて家とは何か、を若者たちにメッセージしていた。


天津。築山の上に立ってマンションを見ている子ども
 

キッチン一つで世界旅行

ある人気ネット評論家がネット上にこんな皮肉を。「0.5㎡にかかる金額があれば、日本、韓国、シンガポール、マレーシア、タイなどぐるっと一周して来られる。1~2㎡の価格でヨーロッパ、アメリカへ行って戻って来られる。もしあなたが数年間かけて世界中どこへ出かけたとしても、その代金ではキッチンひとつ買うことができないかもしれない。この事実に対してあなたならどうするか。そもそも、豊かさとは住宅の大きさや面積にあるわけではない。もちろん別荘を持っているから豊かだという証にはならない。やはり、どういった生き方をしているか、どんな感性を持っているかが肝心なのだ」と。

 そして、この評論家はもし「高価なマンションが負担になったときは、見方を変えてみるか、あるいは大きな気分になるかのどちらか」だと書き込んでいる。

 しかし、中原地産三級市場研究部の張大偉総監は、「現在の高止まりの住宅価格では、賃貸のほうが有利かもしれない」と分析する。

 張総監は記者に計算して見せてくれた。北京の賃貸と売家の比率はすでに5倍を超えており、たとえば130万元前後の家を3割の頭金、100万元は20年払いのローンにすると、月々の支払いは7000元を超える計算になる。この計算でいけば、同じ家賃で便利な場所に3LDKの豪華な家が借りられる。そうまでして持ち家を購入すべきかどうか疑問であるというのが張総監の分析である。

 

給料を超える返済額

  事実、ローンに苦しむサラリーマンは多い。とくに若い男性サラリーマンはムリをして住宅を購入している例が多い。2009年に卒業した陳峰さんは、生活だけでなく精神面でも辛い思いをしている。2011年の初め、彼はローンを組んで北京市郊外の大興区に未完成物件(注)を購入した。2013年に引き渡されるが、総額は123万元である。両親と親戚や友人の力も借りてやっと頭金を支払い、20年ローンで銀行から48万元借りた。このままだと、毎月の返済額は4800元になり、なんとこれは「自分の給料より多い」のだ。

 買った家はまだ引き渡されていないので、陳さんはまだ賃貸に住んでいるが、自分の給料では家賃と生活費を払うのがやっとで、これでは1000元残ってもローンの返済ができない、残りの住宅ローンは実家に頼っているのが実情だ。「考えてみれば親に大変申しわけない」と頭をかかえている。

 いってみれば「すねかじり」状態なのだ。2011年初めに実施された『人民日報』とそのニュースサイト『人民網』の合同調査によれば、「22%が銀行ローン以外に親からの援助をもらったと答えている。そのため住宅ローンのストレスはかなり激しい。ローンを組んだあと、35%の人が自分の生活レベルが下がったと感じており、11%の人が転職もできず、35%の人が節約しなければならないと考えている」ということがわかった。

 

住宅購入の平均年齢は27

 全人代常務委員の鄭功成さんは、そういう世相に対し「住居は最も高価な買い物です。当然ながら生涯計画を立てて購入しなければなりません。恐らく世界中どこの国でも、学校を卒業してすぐ自分の家を買うという例はめったにありません」と話す。

 ちなみに、外国の例では、はじめて家を購入する平均年齢は、フランスでは37歳、日本とドイツでは42歳で、アメリカは30歳以上である。北京では2010年の調査によれば、なんと初めて住宅ローンを借りた人の平均年齢は27歳である。先進国に比べ住宅を購入する年齢はかなり低いといえる。

 鄭さんは「高等教育を終えてすぐに家を買おうとするのはあまりにムリがある。理解はできるが、こんなことがいつまでも続いていけば住宅価格が高騰し、正常な価格に戻すことは不可能だ」と話している。

 

若者たちの焦りと不安

 だから「まず賃貸を借りてその後に住宅を買う、まず小さいのを手に入れ、後で大きくする、自分の能力を考えてから実行する、順序だてて徐々に進めていくこと」だと。専門家の誰もが住宅購入のコツをそうアドバイスする。

こういった道理は誰でもわかっている。しかし、現実は「賃貸がいやだというわけではないが、それにしても家賃が高い」というのが多くの借り主の心情だ。

 前出の陳さんも「ローン奴隷は良くない。条件が合えば私は賃貸住宅を選ぶ」と話す。それにしても、この1年半に彼は5回も引っ越しした。家主の値上げ、契約違反、洗濯機が故障して使えなくなったのに不動産屋に修理を拒まれた、隣人の衛生観念が悪いといった理由で引越したのだ。これではまるで“引越し貧乏”というほかはない。もし、そういったことがなければ賃貸でもOKという若者は増えてくると思うが、儲け第一の家主や不動産屋のおかげで、若者の借家希望に影響を与えているのだ。

 先の張総監も同意見だ。同氏の分析によれば、最近の中国における都市住宅の価格の値上がりは異常で、若者の間に「遅くなればなるほど買えなくなる」というパニックを引き起こし、同時に住宅の値上がりが、財産を倍増させるという誘惑を駆り立てている。しかも賃貸需要は多いが供給が追い付かず、家賃の高騰を引き起こし、しかもその値上がりが非常に速いといったことが起きてきていると指摘する。2010年4、5月から現在に至るまで、都市での家賃の平均値上がり率は20%に達し、部分的に30~50%に達するところもある。こういったことが起きる背景には、やはり、賃貸市場が整備されておらず、賃貸契約が拘束力を持たず、相応しい法律法規で管理を進めることができていないことにある、と。

 

「妻の母親の不動産市場」

 このほか、「家を建て不動産を持つ」という中国人ならではの文化的な伝統があり、不動産の有無が家柄の指標とみなしていることがある。たとえば若者の結婚にあたっては、「未来の婿が家を買えるかどうかは、自分の娘に対する愛情の表れです。家を買えば、嫁にやっても安心です」といった考えが優先するという。極論すれば、本人たちが結婚できるかどうかは、家をもっているかどうかにかかっているということだ。その際、モノをいうのは「妻の母の考え」だ。“妻の母”が「賃貸住宅では生活に不安に感じる」ということであれば、前倒しで家を買うしかない。これを称して「妻の母親の不動産市場」という。たしかに、世の中の流れはそうかもしれないが、しかし、こういう考えに「挑戦」する若者も増えている。若者は家を買わず、車を買わず、結婚式をせず、ハネムーンに行かず、結婚指輪さえ準備しない人も出て来ている。若者はそうした負担を減らして生活費に回し、物質を求めず愛情を大切にしようとするそんな動きも顕著になってきた。

 

政府の政策が住宅問題を解決

 ネット利用者にそのあたりを聞いてみた。どのような状況なら、「まず借りて後で買う」のかと質問をしてみた。調査の結果、30%のネット利用者が公的な賃貸住宅を切望し、政府が公共賃貸住宅を建設してくれることを望んでいる。公共賃貸住宅に入れれば慌てて家を買う必要がない。25%は家賃を安定させれば、パニックともいえる賃貸需要を緩和させることができるとし、20%は賃貸住宅市場の規模が問題で、家の数をもっと増やせば家賃はもっと安定するとしている。さらに17%は、長期的に借りられれば、引っ越す必要が減り慌てて家を買わなくなる、としている。

 健全な消費活動には、健全な消費環境が必要である。「住宅市場のコントロールには、販売市場のコントロールだけでなく、賃貸市場に対する管理規則を整備しなければならない」(前出・張総監)と話す。

 ドイツの法律では、もし家主との間で決めた家賃が「合理的な家賃価格」を20~50%オーバーしたなら、顧客は裁判所に提訴でき家主は敗訴した場合は罰金刑から懲役刑まで課せられる、とある。

 前出の鄭さんは、「政府は公共住宅の供給を増やすべきだ。大学を卒業してすぐ住宅ローンに追われる生活にさせてはならない。政府、社会、家長らはこのようなストレスを軽減させる努力をしなければならない。と同時に若者は落ち着いて、国が現在、住宅事情を緩和するために努力していることを見るべきだ」と話す。

 今年の政府活動報告では、「低所得者向け住宅の建設を継続させ、質の確保を前提に500万戸建設し、新たに700万戸以上を建設する」としている。これで低所得者向け住宅が2000万戸となる。

 鄭さんは、また次のように指摘している。もし、国の「十二五(第12期5カ年計画)」中の明確な目標が実現され、2015年までに低所得者向け住宅で、都市住民が要求する住宅の20%を満たすことができれば、当面の住宅問題を大幅に解決することができる。それは多くの低所得者家庭や仕事に就いたばかりの労働者に、相応しい居住環境を提供することになる、としている。

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(注)中国における住宅販売は日本と違い、躯体工事が終了した段階で購入者に引き渡すスケルトン(躯体)販売方式。トイレ、浴室、台所といった“水回り”にいたるまで、買い主の負担で内装工事をするのが中国の住宅販売のジョーシキ。ところが、住宅用の建材や建具、住宅設備などの規格化、工業化が進んでいないことや内装技術の低さから施主が、施工期間の1ヶ月余、毎日、注文しつづけるという事態になっている。

製図:有靖