深刻化する中国のDV問題

全世帯の3割で暴力行為

中国でもドメスティック・バイオレンス(domestic violence=DV)が深刻になってきている。最近、英語学習法「クレイジー・イングリッシュ」の創始者である李陽(リー・ヤン)が妻子に振るったDV事件が報じられ、議論を呼んでいる。

ドメスティック・バイオレンスとは、同居関係にある配偶者や内縁関係の間で起こる家庭内暴力のことである。近年ではDVの概念は同居の有無を問わず、元夫婦や恋人など近親者間に起こる暴力全般を指す場合もある。

中国のある統計によれば、全国2億7000万世帯の3割が何らかのDVに直面し、悩んでいるという。殴打などの暴力行為だけでなく、家庭内のいじめといったことが表面化してきている。

とくに問題になっているのは、日本でのDVと同じく相手の人格を否定するといった暴言を吐くといったことや、何を話しても無視される、殺してやるといった言動で脅かす精神的暴力や、避妊に協力しないといった性的暴力だ。

こういったDVに対し、昨年10月までに80以上の国や地域が関連する法律を制定している。隣の韓国では11年6月に、DV及び児童虐待への効果的な対応、被害者保護の強化等を定めた「家庭暴力犯罪の処罰等に関する特例法一部改正法律案」及び「児童福祉法全部改正法律案」が可決された。

2010年に韓国女性家族部が実施した「家庭暴力実態調査」によると、前年1年間の女性への身体的暴力被害率は15.3%であり、日本やイギリスの5倍相当だという。

日本でも01年に配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律が可決されたが、背景にはやはり、配偶者(事実婚を含む)や恋人などからのDV、ストーカー行為などが増えたからだ。

このように韓国、日本でもDV問題が国政の場で取り上げられ法律にもなっている。ところが、中国ではまだ、このDVを取り締まる法律も、相談したり保護するシステムもない。そこで、今回の特集として、読者からの声をリポートしてみた。

 

たびたび暴力をふるうボーイフレンドと手を切るべきか?

李さん、女性、29歳、外資系企業の秘書、ボーイフレンドと交際2年余り。1年前に二人は結婚を約束し、マンションを購入。だが、内装のことで口論となり、彼は公衆の面前で彼女を激しく小突いた。李さんはその場に転倒したが、彼は助けようともせずにその場を立ち去ってしまった。李さんは人に助けてもらって起き上がった後、恐怖に震えながら屈辱と怒りでいっぱいになり、耐えきれずむせび泣いた。

男の名は汪、32歳、政府機関に勤め2年前に副所長となった。文章がうまく人柄は穏やか、誰もが将来有望と認めていた。そんなわけで李さんは数回のデートで彼と結婚の約束をするまでに。ところが、付き合ううちにだんだん彼がとても気難しい人間であることが分かった。

彼も隠さずに、自分の父親は「老三届(文革が始まったとき高校1~3年生)」で、下放から都会へ戻った後ずっと順応できずしだいに気性が荒くなったこと、幼い自分と弟はいつも父親に殴られていたことなどを告白した。そして学校でPTAの会合が開かれたとき、先生が彼のことについて触れるやいなや、父親はいきなりみんなの前で彼にビンタを食らわした。

彼は学校中の先生と同級生が自分が殴られる場面を見ていたと思い、恥しくて頭を上げられなかった。このことで彼は父親を恨み、心に誓った。よーし、一生懸命勉強して、立派な男になるぞ、将来家を持っても決して妻子にはつらい思いをさせないぞ!と。

そう誓ったはずなのに暴力を振ってしまった。彼は深く後悔し、その晩彼女の家を訪ねて謝った。顔を真っ赤にしてひたすら頭を下げ、自分を責めている姿を見て、李さんは自分もあのとき冷静さが足りなかったと反省した。二人は自分が間違っていたと互いに責任を認め合った。

しかし李さんは、ここから悪夢が始まるとは思いも寄らなかった。以後、口論するたびに彼は殴り、あとで後悔して謝った。しかしだんだん謝らなくなり、逆に彼女が自分をかっと怒らせたと言い張るようになった。

男は身長180㎝、初めのうち彼女は仕返しをしていたが、すればするほど彼は激しく怒り、激しく殴るようになった。後に彼女は彼が怒るのを見て、我慢して黙り込むのをやめて、逃げ出すようになった。

その後二人はまた大ゲンカになった。今回は以前より激しく殴られ、腕や脚に青あざができ、腰はまっすぐ伸ばせなくないほど痛む。李さんは怒りのあまり別れることを申し出て、両親にも伝えた。父親は血相を変えて怒り、彼を呼んで話し、殴るなと厳しく伝えた。その後、彼は二度と手を下さないようになった。しかし李さんは二人の関係がずいぶん冷えたと感じた。また何か問題が起こらないかびくびくするようになった。

彼は予定通り結婚できるよう頑張っているのだろうが、結婚後以前の態度がぶり返したら、また彼が殴る時のあの恐ろしい顔を思い出すと、李さんは一日中彼と一緒にいたいと思わなかった。しかし彼との交際はもう2年以上で、彼に対する感情も深まり、自分にとってはトータルでは大変良いし、自分もときにはわがままなこともある。

国慶節には結婚したいと思っているが、それにしても2カ月あまりしかなくなった。李さんはあれこれ心配で睡眠や食事もよく取れず、出勤してもボンヤリし、何度もミスをしていた。そこで、2ヶ所の専門家を訪ねアドバイスをお願いしてみた。

ひとりのコンサルタントは、わがままな性格を直させ、二人でしっかりコミュニケーションをとるようにアドバイスしてくれた。そしてもうひとりは、李さんに2度と「オオカミの巣」に飛びこまないようにアドバイスした。どうすべきか。李さんの心は激しく揺れ、悩みを深めている。

 

虐待被害者を法律で保護しよう

■王行

北京紅楓女性心理コンサルタントサービスセンターの創設者

 北京紅楓女性心理コンサルタントサービスセンターは92年、中国初の女性ホットラインを開設し、04年にはDVの専用番号を開設した。大まかな統計だが、紅楓センターではこれまで2600本以上のDVの電話相談を受けてきたが、「どんなDVが女性に対し最も傷が深いのか」「彼女たちが最も必要としているサポートは何か」ということがより明確になってきたという。

 そして、多くの虐待被害者が、暴力がなくなり穏やかな結婚生活を続けることを望んでいるという。しかし、法的サポートや十分な司法関与、社会システム救済チャンネルが不足していると指摘している。

 DVには様々な形がある。センターでの代表的な60例を選んだ分析では、そのうち20%が性暴力を受けている。こうした暴力は被害女性の心を最も深く傷つけ、ときには生きていく希望を失い、自殺を選ぶといった例もあったそうだ。またそうした女性は、自衛のために殺人を犯すこともあるという。いずれもDVが死をもたらすという悲惨な例ではあるが、一連の行為はことごとくDVが引き金になっており、暴力という連鎖の中で、回避することができなかった結果である。

 虐待を受けている女性が最も必要としているのは法的な保護である。暴行者に対し法的な制裁を与えてほしい、裁判所にサポートしてもらいたい、生命の安全、保護が受けられる場がほしいと願っているのだ。つまり、彼女たちは自分ではどうすることもできず、司法と警察に助けを求めているのだ。

 現行の法律では、司法が定めるDVには身体的な暴力と精神的な暴力しかなく、経済制裁や性暴力は含まれていない。また、軽いDVについては法的関与が乏しく、女性たちからは「いったいどれだけ殴られたら取り締まってくれるのか、障害が残った場合だけようやく来てくれるのか」といった怒りの声も。というわけで、しばしば女性みずからが警察に通報したり、婦女連を訪ねたり、裁判所に離婚を訴えたりといった行動が目立ってきている。といっても彼女たちの行動には限界がある。

 そして、婚姻中の性暴力に対する罰則の強化をDV法に盛り込んでほしいと願うものだ。被害女性および家族の生命の安全を保障するために、本人だけでなく親や電話による接近禁止命令を出したりといった保護令を実施してもらいたいものだ。できれば、一時的に身を隠す“駆け込み寺”のような、そして自立を促すようなシェルターづくりも検討してもらいたい。あらためて皆でDVの問題に真摯に取り組み男女平等、男女共同参画という社会の実現をはかってもらいたい。(葉暁楠 整理)

 

暴力男性とは結婚しない

イリグイ(蒙古族)の新婚さん

内蒙古シリンゴル盟某職場職員

 先月結婚したばかりで、まだ新婚の喜びにひたっている。でもいつまでも熱愛が続くわけではない。夫婦生活のマンネリ化などによってつまらないケンカをすることもあるはず。だがお互いがコミュニケーションさえしていれば、夫婦円満ということに。

 だが、もし問題が解決できなかったらどうするか。愛し合っている二人が声を張り上げて相手を責め、相手が自分に対し無関心だと恨み、言い争って相手の感情が傷つくのを省みない。そして怒りが頂点に達して手を挙げるということにも。大抵の場合は腕力の強い夫が妻を殴ることになる。

 ところが、夫に殴られた女性が婦女連や町内会を訪ねることは少ない。自分の夫に殴られたことなど、誰が他人に知られたいだろうか。殴られて鼻や顔に痣をつくり腫れたりしても障害者にさえならなければ。そう思うのが自然の感情である。

大半の女性は「離婚したくない」、しかし「家に帰れば相変わらず殴られ、ひどい場合は以前よりもっときつく殴られる」という状況もある。ではどうしたらいいのか。柳に風と受け流し、我慢して黙っているだけでいいのか。

だから女性にとって何よりも大切なのは、どんな時でも「自尊、自信、自立、自強」精神を樹立することである。教養を高め、仕事の能力を高め、経済的にも自立することだ。「結婚したらすべて夫や子供のために生きる」という考えは捨てるべきだとこの夫婦は話す。

 そしてつづけて、DVはすでに重大な社会問題になっているので、「家庭の醜聞は外へ広げない」という観念は時代後れである。だからDVに遭った時は躊躇なく相談することだ。DVに直面したら、もう沈黙しないことだ。DVの悪夢から逃げ出せといいたい。

 どんなに条件がよい男性だろうと、DVの傾向があれば、その人とは結婚してはいけない、と思う。DVは心理的な病気である。軽くても心身の健康、家庭の和やかさに影響を与え、重ければ刑事犯罪を引き起こし、社会の安定と調和に影響を与える。この際、社会全体がみんなで働きかけ合ってDVを止めさせ、小さな家の平和を大事にすべきだとこの夫婦は訴えている。(賀勇 整理)

 

DVに遭っても手段がある

鄭来枝59

河南省南陽市宛城区茶庵郷の農婦

 うちの村じゃDVなんて日常茶飯事だ。村人はずっと男尊女卑の伝統のなかで育ってきた。村には、「3日殴らなければ、屋根瓦を剥がす」、「もらってきた嫁、買ってきた馬、上に乗せなければ殴る」といった言い伝えがあり、それを信奉している。「天からは雨、地には流れ、夫婦ゲンカは恨みを残さず」、女性側の両親などは「ベッドの上の方ではケンカしても、ベッドの下の方では仲がよい」などと考え夫婦の揉め事には関与しない。これらはみなDVを生み出し助長する原因となっている。

 「私は性格がきついので、絶対にDVは許さない」という鄭さんだが、「二人が暮らせばわがままになるのは当然だ」と話す。だが、「困るのは、亭主が腹を立てても私を言いまかすことができず、手を伸ばして胸を張り殴ろうとすることだ。私はキッとにらみつけて、私ら平等だ、どっちが偉いなんてないんだ。わたしだって畑で稼ぎ、家へ帰りゃ、洗濯やご飯作りをしなきゃならない。やることはいっぱいで、苦労は多い。もしあんたが私にひどいことをするなら、苦労はできても我慢はできない。私は馬鹿にされるほど弱くはない、我慢できなきゃすぐ実家に帰るか、天の果てまで逃げて行くよ。生きていけないことなんてないよ」と。すると、「亭主は驚いてダマった。けれど、すぐに手を挙げてきたので、掻いてくれるのだってダメだ」といったら胸がスーッとしたという。

しばらくしてまた問題が起きた。亭主が怒って手を上げようとしたが、私がすぐ怖い顔をして泣きわめき、「殴るならやりな、片輪にすればいいさ、そうすれば子供を産む必要もない、罰を受ける必要もない」と叫んだという。そこで鄭さんは「まず女の弱さを見せ、弱さの中に強さがあり、女の苦労がどれほど大変かを、彼にわからせた」。それを聞いて彼はこっそり逃げ出したという。

村には夫婦ゲンカして身体じゅうが傷だらけになり、村の党書記や派出所の駐在さんを驚かした夫婦がいたという。さっそく、その現場に亭主を引っ張って行き、DVがいかに醜くて、夫婦がケンカしても暴力では解決できないということを知ってもらったそうだ。もちろん、役所も介入してくるし、メンツを失う。厳罰が下されれば、銃殺されるかも知れないということを感じてもらったという。

ダンナは怒ると鄭さんに口も利かなくなることもあるそうで、そんなときは「あんたのそれは無言の暴力だ。裁判所に訴えに行く」と脅すと、「話したくないだけなのに裁判所が裁くのか」って。このやりとりのおかげで鄭さんは殴られるのを防ぐことができたという。

「あんたが殴ったら、私はあんたを120発殴る」と。そしてあるとき、いつものように怒り出したので、「119発殴れば!」と言って、「119で火を消して!」と言うと、彼はニガ笑いをして手を挙げることはなかったという。

夫婦で暮らすには、ときにはこういったウイットも大切ではないか。問題にブツかったらまず和解することが大切だ。もちろん、殴られて傷つけられれば、一生を台無しにしてしまう。場合によっては法的な責任を相手に取ってもらうことも必要ではないか。(魯釗 整理)

 

女房を殴っていい理由はどこにもない

劉彭

1980年代生まれの夫、北京の某メディア社員

もともと、「クレイジー・イングリッシュ」の李陽はまじめで通っていたが、彼のDVの醜聞を聞き、すっかりイメージが逆転した。DVを働く人は本当の男ではなく、動物に近いと思う。

夫婦の間に矛盾があるのは当然で、ケンカをするのも普通で、それは一種のコミュニケ―ションである。しかしもし手を出せば、道理も通らなくなる。李陽は人の前では立派な男で、他人と問題を起こしても殴り合いにはならないと信じている。外では我慢できるのに、家の中ではどうして我慢できないのか。どんなにケンカの理由がたくさんあろうと、妻を殴ってよい理由は一つもない。

男として一家を構えたからには、その家を背負い、自分の妻を風雨から守り、安心させ、自分の亭主は立派だと思わせなければならない。和やかな家庭とはそういうものだ。お金がなくても、才覚がなくても、顔が人並みでも、ただ日々をきちんと暮らしていけ、まじめに仕事をし、家庭のためにたゆまず力を尽くす、そういう男性こそ尊敬に値し、学ぶ価値がある。もし夫が女房を殴る状況になったら、その家庭はもはや存在の必要性もない。彼は男として当然もつべき、弱いものを守るという気概や人格を失っているのだ。

ここ数年、DVに関するニュースをいつも目にする。経済がこんなに発展しているのに、よい男はどんどん減り、国家のためにという男性も少なくなってきている。また、国家がDVを制裁することに真剣に取り組むべきで、その法律・法規の整備をしなければならない。彼女たちは好きでDVを受け我慢しているわけではない。かさねて早急な法整備、行政上の保護をお願いしたい。そうでなければ、DVの被害者が自身で身を守るしかなくなる。たとえば、離婚にあたっての状況証拠を自分の力で集めたりするといったことも起こる。これでは、いつまでたっても被害者は救われない。