脇本真之介 ワキ製薬株式会社 代表取締役社長
ミミズの力で世界の健康課題に挑む

1882(明治15)年創業のワキ製薬はミミズの医薬品の製造販売とミミズの研究を続けて70年、世界で初めてミミズの消化酵素をサプリメント化するのに成功したことで知られている。しかし、特許切れに伴う競合会社の市場参入によって売上低下、一時は倒産も危ぶまれた。その難局を5代目社長の脇本真之介氏は、新たなミミズ粉末を開発することで乗り切り、売り上げも従業員数も入社時と比較して10倍以上に成長させた。先ごろ、奈良県から上京し、本誌編集部を訪れた脇本真之介社長に事業の特徴と中国ビジネスの取り組みなどについて伺った。

古来より生薬として

親しまれてきたミミズ

―― 御社は「ミミズといえばワキ製薬」といわれる創業142年の老舗医薬品メーカーです。御社の医薬品の特徴と強みについて教えてください。

脇本 当社は製薬会社として、全国のドラッグストアや通信販売で扱う鼻炎薬、風邪薬、胃腸薬、ビタミン剤などを製造しています。その中で特徴的なのがミミズ酵素粉末です。

ミミズを乾燥させた生薬は、中国が発祥であり、「地龍(じりゅう)」と呼ばれ、熱を冷ましたり、中風を抑えたりする効果があるとされています。その地龍は、もとミミズの皮を使うのが主流ですが、当社はミミズの内臓部分に注目しました。ミミズの内臓にはまだ未知の酵素が隠れており、その酵素を抽出して製品化したのが、当社の製品の中で最も特徴的なものです。

ミミズの死骸を見たことがありますか? 干からびてパリパリになっているんです。しかし、水の中で死んだミミズは溶けてなくなるんです。それを見て私の祖父が、ミミズには何か特別な消化酵素があるのではないかと考えました。研究を進めた結果、脳梗塞や心筋梗塞、高血圧、糖尿病、そして中風や卒中、さらに認知症の予防に効果的な消化酵素を見つけることができました。

―― その原料(ミミズ)は輸入しているものですか、日本産ですか。

脇本 当社のものは日本産です。日本でミミズを育てて、そこから原料を作り、商品まで一貫生産しています。ミミズの飼育は他の場所で行い、それを仕入れて粉にし、その粉を販売するという会社はたくさんあります。しかし、ミミズの飼育から始めているのは、世界でも当社だけで、これは非常に珍しいと思います。

―― 日本で販売される漢方薬の原料は国産のものが多いのでしょうか。

脇本 いえ、それは圧倒的に中国産です。おそらく8割を超えています。

 

―― もし中国が日本に漢方薬の材料を輸出しないというような事態になった場合、どのようなことが予想されるでしょうか。

脇本 そうなれば、日本だけでなく世界中が困るでしょうね。現在、日本の製薬メーカーは漢方薬だけでなく、ビタミンやアミノ酸、酵素などの原料も中国から輸入しています。もし、それが止まってしまったら、まさに日本の医薬品業界は混乱し、崩壊するでしょう。ですから、手を取り合って、世界のために協力していくのが良いと私は思っています。

 

中国市場で

製品を知ってもらう意味

―― 御社は2016年9月に中国で開催されたサプリメント展示会にブース出展し、2023年11月には「第6回中国国際輸入博覧会」(上海)に出展しています。中国市場に進出しようと思われたきっかけは何ですか。その経緯と成果について教えてください。

脇本 今、世界を動かしているのは中国だと思っています。私は、中国という国が持つパワーや国民性が非常に好きで、やはり人口も多いし、そういうところを見たときに、中国市場で当社の製品を知っていただくというのは、世界にとっても非常に大きな意味があると感じています。

ですから中国市場でも積極的にやってみようということで中国での出店に挑戦しました。私は、過去に4回ほど中国を訪れています。北京と上海、あと2回は長春。面白かったのは長春です。漢方薬の大学があって、そこに勉強しに行きました。非常に思い出に残っているのは、大学の構内に漢方薬に使われる剥製などが置いてあって、虎の剥製などいろんなものが置いてあるんです。それには非常に刺激を受けました。

 

―― 中国市場では具体的にどの程度拡販されていますか。

脇本 今、中国に直接輸出しているのは、ミミズ酵素粉末だけです。一般の薬品などは台湾や香港を通じて入っています。少しずつですが、中国のマーケットスケールは非常に魅力的な市場ですので、今後は販売を強化して行きたいと考えています。

日中の企業が手を組んで

人々を幸せに

―― 現在、中国の医薬品市場の規模はアメリカに次ぐ世界2位です。今後、中国ビジネスをどのように位置づけ、進めていかれますか。

脇本 私が近年、中国に対して最も素晴らしいと感じているのは、中国で行った研究が他国の製薬メーカーやバイオベンチャーに売却されて、購入した企業がその後の研究を進めたり、逆にアメリカやドイツなどで行った研究の、後半部分を中国が購入し研究を進化させるといった、ライセンスインとライセンスアウトが活発に行われているところです。世界各国の企業と手を取り、世界中の方の健康に貢献しようというスケールの大きい思想は、非常に素晴らしいと感じています。

これから世界の医療を引っ張っていくのは、やはり中国だと思っています。 長い歴史で見ても、インドと中国が世界の経済の中心にいた時期がほとんどです。アメリカや西欧の国が世界の頂点に立ったのは、本当にここ数百年の間だけであって、それ以外はもう全部が中国、インドであって、最終的には世界経済というのは、この2国を中心に回ると予測しています。今後の世界経済の中心となるであろうAIの世界でも、インディアや華僑の方々が中心となって先頭を走っていますよね。

ですから、やはり中国の未来マーケット据えて、中国企業とパートナーシップ を結んで共同研究を行ったり、もちろんライバル企業は向こうにもありますが、どんどん交流の機会を持っていきたいと考えています。

世界を見たときに、医療には人々を幸せにできる力があります。そのためにも日中の企業が手を組んでウインウインの関係を築くことが出来れば、世界に対して大きな貢献が出来ると考えています

 

―― 漢方薬の効き目は東洋人と西洋人で違うということはありますか。

脇本 それはないと思いますね。ただ、病気があったら病気だけを見て、ここを治したらいいというのが西洋医学です。それに対して東洋医学というのは、病気になったら病気の原因は身体全部の中でつながっているから、全部を治さないとそこもよくならないよね、という考え方ですね。マクロとミクロの考え方が医療の世界にもあると言うことです。

便利な時代――健康に

どういう投資をするのか

―― 社長は「ミミズの力で世界共通課題の解決を目指す」と話されていますが、今後、世界にどのような貢献をしていきますか。御社の事業の将来展望をお聞かせください。

脇本 世界の社会経済を見たときに、これからはITやAIなどに注目が集まると思います。しかし、便利になればなるほど、逆に人間の身体には不具合が多く起きると思います。

例えば、交通の便がよくなって人が歩かなくなったので、足腰が弱くなったり、スマホやパソコンが普及することによって、目や脳に不具合が生じたり、実際にそういう障害も出てきています。便利になればなるほど、その反面、健康が損なわれていく。ですから、これからの時代というのは、健康にどういう投資をするかというのが非常に重要な時代になっていくのではないかと思います。

先進国では、当然ながらそういう患者さんが増えています。しかし、今後は後進国でも、食生活が変わっていく中で生活習慣病の患者さんがますます増えていくでしょう。そういうことを考えたときに、世界の医療は、これから飽和状態になって、医薬品も足りなくなってくるという未来が確実に訪れます。

そのときに、当社に何ができるのかと言えば私たちが長年研究しているミミズの力が役立つ時が来ると確信しています。ミミズの中にはまだまだ未知の成分があり、少なく見ても200以上の未知の成分があると考えています。当然その200の中には、既知の成分もあれば、まだ誰も気づいていない未知なる成分も存在するはずです。

その中で私たちが見つけた消化酵素というのは、今世界中で増えている生活習慣病の患者さんたちの、糖尿病、血圧、そして脂質異常症や認知症、こうした病気に対する適応力を備えていると考えています。ミミズの持つ機能性成分は、そうした力があるのだと、今後も世界に発信していきたいと思います。