亀田製菓は「亀田の柿の種」ブランドで世界中に知られる有名な菓子製造企業で、同社の代表取締役会長CEOを務めるのが、本年来日40周年を迎えるインド出身のジュネジャ・レカ・ラジュ氏である。少子高齢化と人口減少の影響を受け、労働力不足に直面する日本企業は今、どのようなビジネス戦略が求められているのか、日本で働く外国人労働者へのメッセージ、そして今後の中国ビジネスの取り組みなどについて伺った。
―― 日本には320万人を超す在留外国人が暮らしていると言われていますが、企業にとって、外国人を雇用するメリットとデメリットをどのように考えていますか。
ジュネジャ 日本は今、少子高齢化と人口減少の影響を受け、労働力不足に直面しています。この課題に対応するため、日本企業はますます多くの外国人労働者を受け入れるようになっています。
日本はものづくりの国で、素晴らしい技術を持っていますが、世界に進出する上で、いろんな知恵や多様性、異文化理解が必要になってきます。海外に進出する際、日本人がいくら優秀だったとしても、やはり言葉の障壁がありますし、外国の社会や文化への理解も必要になります。外国人労働者の受け入れは、単に労働力不足を補うだけでなく、新たな知識、多様性を日本企業にもたらし、国際的な展開に貢献できます。
しかし、外国人労働者の受け入れはメリットだけではなく、いくつかの課題も伴います。文化や言葉の違いは、職場でのコミュニケーション障壁を生じさせる可能性があり、また、日本の生活様式やビジネス慣習に適応することにも課題があります。これらの課題に対処するため、日本企業は、外国人労働者の受け入れ体制の整備をしておく必要があります。
このように、外国人労働者は日本の労働市場にとって重要な存在であり、日本経済の持続可能な成長に貢献しています。外国人労働者の適切な受け入れと支援は、もはや選択ではなく、日本が国際社会で競争力を保つために不可欠な戦略となっています。
―― 先日の日本経済新聞の取材に対し、「米国にはアメリカンドリームがある。日本にそこまでの夢を描く魅力があるだろうか」と問いかけました。
ジュネジャ 現在の英国首相(リシ・スナク)はインド系ですし、アメリカのカマラ・ハリス副大統領もインド系のハーフです。そのことが決してマイナスには取られていない。現地メディアからも「この人は変化を起こしてくれる」と期待されている。このように、アメリカには、インド人や中国人のCEOがたくさんいて、GAFAをはじめ巨大な経済を支えています。インド人がCEOになっても国民は不思議に思わない、当たり前という認識です。
Googleのサンダー・ピチャイCEOはインド系アメリカ人ですが、ベジタリアンで肉を食べない。イギリスのリシ・スナク首相は赤い紐のブレスレッドを手首に巻いていますが、これはヒンズー教に由来するものです。それぞれが自身の宗教やアイデンティティー、文化を大切にしながらCEOや首相になっています。それを私は「ドリーム」と呼んでいるのです。インド人が日本の首相になることは、今は無理ですね(笑)。将来的には分かりませんが…。
日本は素晴らしい国で、私は大好きです。接客が丁寧だし、清潔ですし、マナーもすごくいい。食事もおいしい。そして、何よりも日本はものづくりのメッカです。
外国人労働者にも将来、この会社の社長になれますよ、という夢を見させてあげることが大切です。夢がないと将来が不安で、日本で働くことをやめてアメリカに行こうとか、ステップアップしてほかの国に行こうとか考えるようになります。私自身そうでしたが、日本はとても魅力のある国ですが、なんといっても、日本に残って夢をつかむというプランがあれば、日本で頑張れるのです。
―― 本誌の読者には在日中国人ビジネスマンが多いのですが、会長ご自身の日本体験から、彼らへのアドバイス、メッセージをいただけますか。
ジュネジャ 私は40年間日本で生活する中で、日本だけではなくアメリカやヨーロッパ、そして中国、インドなど、世界中で企業経営に携わる機会を得たことは、とてもラッキーだったと思っています。
そうした経験から言えることは、ビジネスマンは自らの枠を超えたことを考えることが大事で、決して指示待ち人間になってはいけないということです。上司から言われたことをそのままこなすのなら、普通のサラリーマンでも、同じことなら日本人もできます。中国人、インド人、いろんな国の人々にそれぞれの強みがあり、その強みを生かすべきだと思います。
私は「夢を持ち続けていればいつか必ず実現する」と社員にいつも話しているのですが、自身のアイデンティティーを大切にしながらも、新しい環境に適応する柔軟性を持ち、そのうえで、自らをアピールし、積極的に提案を行うことで、自分のキャリアを形成し、夢を実現することが可能になるのです。
最も重要なのは、プラス思考を持ち続けることです。文句を言うよりも、どのようにして状況を改善できるかを考え、努力することです。好奇心を持ち続け、学び続けることで、新たな可能性が開かれます。
外国人ビジネスマンは、日本での生活やビジネスで直面するであろう挑戦を恐れず、それを乗り越えることで得られる経験と知識は、自身のキャリアにとって計り知れない価値が生まれます。夢を持ち続け、それに向かって努力してほしいと思います。
―― 外国人労働者が一番心配なのは人間関係だと思いますが、これについてどのようにお考えですか。
ジュネジャ おっしゃるとおり、人間関係はとても大事です。お互いに好きになれなかったりすると、ストレスがたまります。ですが、自分から前向きにアプローチすれば相手も変わってきます。
私は縦型の組織があまり好きではありません。役職とか、女性、男性とか、国籍などにこだわらず、人間ですからお互いにリスペクトしましょうという考え方です。CEOの言うことを全部聞きなさい、というのはアウトです。強権的なリーダーは大きな変化を起こすので、組織の強みとも言えますが、そこには横のつながり、ネットワーク、バランスが絶対に必要です。ですから、「横のつながり」を重視し、階層にとらわれないフラットなコミュニケーションを奨励しています。
―― 御社は「グローバルフードカンパニー」を目指し、中国市場向け販売も強化しているようですが、今後、中国ビジネスにどのように取り組まれますか。
ジュネジャ 目覚ましい経済成長を遂げた中国の巨大なマーケットは決して無視できません。2003年に中国・青島に製造拠点として「青島亀田食品有限公司」を設立し、近年は中国市場向け販売を強化しています。中国ビジネスの成功の鍵は、単にコスト競争力を追求するのではなく、市場のニーズを深く理解し、現地の消費者に合った商品を提供することだと考えています。
そのために、中国の消費者がどういう食感、どういう味が好きなのか。そしてWTP(willingness to pay)、すなわち商品に対する支払意欲を満たすためには、どのように魅力的な商品を開発すればよいのか、適切なマーケティング戦略と、コアコンピテンシーが重要になってきます。当社はライスクラッカーで世界一を自負していますので、当社の商品を一度食べると、美味しくて病みつきになるはずです(笑)。
海外市場への進出において重要なキーワードは「健康」と「環境」です。世界は今、健康志向の高まりと環境保護への意識が強まっています。これらの要素を商品開発の核とすることが重要だと考えます。
当社グループの存在意義は、お米の恵みを美味しさ・健康・感動という価値に磨き上げ健やかなライフスタイルに貢献することです。そして、“美味しく からだに良いものを選び、食べ、楽しむ、健やかなライフスタイルへの貢献”という“Better For You”の観点から商品を提供しています。
さらに、米菓を通して世界中の人々に健康や幸せをお届けするライスイノベーションカンパニーを目指すことをビジョンとして掲げています。米の力でどんどんイノベーションを起こして、世界に進出します。中国市場も同様です。
それから、日本人のクラフトマンシップ、日本人のものづくりは世界一だと思っています。その技術を世界中に持っていきたい。そのために私たちはこれから何ができるかを考えています。
―― 日本人はなぜこのように素晴らしいものづくりの技術を持っているのだと思いますか。
ジュネジャ 日本人の性格だと思います。たとえば、「食感」を表す用語は日本語に445種類もあり、英語だと77しかありません。食感に対する日本人の意識の高さ、細かさが伺えます。また、車や電化製品の技術を見ても、軽く考えずに愛着をもって深く入り込む日本人の精神、責任感を感じます。それはすごくいい所だと思います。
取材を終えて恒例の揮毫をお願いすると、「ジュガードJugaad」と書かれた。「ヒンディー語で、逆境をチャンスに変えるという意味です!」と語るジュネジャ氏の笑顔が印象的で、亀田製菓のお菓子が中国人のソウルフードになる姿が目に浮かぶようだった。
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