米国株式市場の2つの大誤算

米国の株式市場には現在、二つの大きな誤算が存在している。一つは、米連邦準備制度理事会(FRB)が今年連続で利下げを行うかもしれないという楽観的すぎる予想、もう一つは、利下げが米国株に有利に働くと市場が誤って認識していることだ。

最近の雇用と経済のデータは市場の予想を上回ったが、それでも市場はFRBが今年連続で5回、合計1.25%の利下げをおこなうと予測している。しかし、最新の声明文や連邦公開市場委員会(FOMC)の会合から判断すると、FRBの利下げペースは市場の予想よりも遅くなる可能性がある。

雇用、インフレ、GDPなどのデータが好調であるにもかかわらず、これらは利下げへの楽観的な予測の裏付けとはならない。FRBは特に雇用市場の回復力から、慎重な姿勢を崩していない。

これまで、FRBが利下げを開始すると米国株は本当の危機に直面する傾向がある。FRBの連続利下げは通常、雇用市場と経済状況の急速な悪化を伴うのだが、現在の労働市場と経済データは、年5回の利下げはおろか、利下げ自体の条件も満たしていない。

次に、市場は利下げが米国株にプラスになると誤解している。実際、長期的な高金利の期間には、米国株は絶好調だった。利上げの終盤では、テクノロジー、金融、消費財が牽引し、上げ幅とセクターのパフォーマンスは過去のパターン通りだった。しかし、一旦FRBが利下げに転じると、それは米国経済悪化の兆しを意味し、米国株の下落を招く可能性がある。

しかし、現在の市場はFRBの利下げに賭け過ぎており、投資家は利下げによる好影響を過大評価している可能性がある。2023年末までに、米国株ビッグ7の平均株価収益率はS&P500の2倍以上になった。しかし、これらのハイテク株が高いバリュエーションを維持できるかどうか、特に販売不振と中国での価格競争に直面しているアップルや、価格競争に陥っているテスラへの懸念が高まっている。

その結果、FRBの利下げに対する市場の過剰な楽観論が、米国株に対する潜在的なリスクを覆い隠している可能性がある。いったん利下げが実施されれば、米国経済の弱体化が可視化されるかもしれない。特に景気後退の兆候が見られるなかでは、米国株にも大きな調整圧力がかかり、株価下落がさらに加速する可能性もある。

加えて、市場は利下げ後の米国株の値動きを過度に理想化している。歴史的に、FRBが利下げを開始する時期に米国株は本当の危機に直面する傾向があるのだ。米国経済が悪化の兆しを見せると、危機の拡大を避けるためにFRBが介入に踏み切る。この場合、米国株は経済状態に引きずられて下落に転じる可能性が高い。過去の利下げサイクルでは、S&P500の平均下落幅は約20%であった。

投資家はより慎重になり、特にバリュエーション主導のシナリオでは、利下げが米国株の調整圧力を一層激化させる可能性があることを認識すべきだ。

神月 陸見 Mathilda Shen

フィンロジックス株式会社の代表取締役社長。金融学と哲学の修士号を持っており、復旦大学証券研究所の講師、 Project Management Professional (PMP) 、上海華僑事業発展基金会のファンドマネージャー。
Email: mathilda.shen@finlogix.com