<アフターコロナ時代の日中関係>(9)
上向く中国経済=GDPで米逆転へ、50年・75年も世界一に―中国の日本企業誘致熱、強まる

中国国家発展・改革委員会によると、2023年第1-3四半期(1-9月)に国内総生産(GDP)が前年同期比で5.2%増となり、世界の主要国の中でトップクラスの上昇幅となった。雇用情勢も全体として改善し、10月の全国都市部調査失業率は5%で、高水準だった2月より0.6ポイント低下。国際収支も基本的にバランスを保った。

農業も好調で、23年は穀物が再び豊作になる見込みだ。工業生産も加速し、1-10月には一定規模以上の工業企業(年売上高2000万元以上の企業)の付加価値額が同4.1%成長した。サービス業の伸びが好調で、サービス業生産指数は同7.9%上昇し、1-9月の経済成長に対するサービス業の寄与度は63%に。1-10月の製造業への投資は同6.2%増えハイテク製造業への投資は同11.3%増加した。

太陽光電池、電気自動車が

原動力に

さらに新たな原動力の成長が加速し、1-10月の太陽光電池と電気自動車(EV)の生産量はそれぞれ同63.7%増、同26.7%増となった。製造企業の利益が持続的に回復し、第3四半期(7-9月)には増加に転換した。

国際通貨基金(IMF)は中国のGDP成長率予測を引き上げた。23年は従来予測の5.0%から5.4%に引き上げ、24年は4.2%から4.6%に引き上げた。

 

不動産「システミック

リスクは発生せず」

金融庁研究参事で中国経済に詳しい柴田聡・地域経済活性化支援機構常務取締役は中国の不動産市場や中国経済の現状と今後の見通しについて「先入観にとらわれない状況認識が大事だ」と強調。政府が適切な政策対応を続ければ中長期的には切り抜けられると予測した。

東京を含めた全国で地価が急落した日本と違い、北京や上海では大きな問題にはなっていないという。柴田氏は中国政府の政策対応能力の高さを評価、「経済のシステミックリスクは発生していない」と指摘。最大の貿易投資対象である中国市場で引き続き利益を得るためにも、日本は中国との対話のチャンネルを維持すべきだと訴えた。

23年7月上旬には日本国際貿易促進協会の訪中団、7月中旬には日中投資促進機構の代表らが訪中し歓待を受けた。キヤノングローバル戦略研究所の瀬口清之研究主幹によると、多くの日本企業で社長、役員から管理部門の責任者に至るまで中国出張を再開。政府高官とのアポも入りやすくなっており、中国政府の日本企業誘致姿勢は過去に例がないほど強まっているという。

 

潜在成長率が高く世界の

技術特許数でもトップ

瀬口氏によると、中国の実質GDP(国内総生産)成長率は今後10年程度にわたり4%台から3%台へと緩やかな下降局面が続く見通し。この成長率は2010年代の8~6%に比べれば低いが、日米欧の先進国の成長率と比較すれば2~3倍高い水準という。日本からの対中直接投資額全体は増えると見ており、「経営者が中国市場を開拓する大きなチャンスが到来した」と呼びかけた。

米金融大手ゴールドマン・サックスの予測によれば、名目GDPは22年に米国、中国、日本、ドイツの順だったが、今後米中が逆転、50年には中国が米国を抜いて1位となり、2位以下は米国、インド、インドネシアの順に。75年には中国のトップは変わらず、2位がインド、米国は3位に転落するとされている。

中国は潜在成長率が高く世界の技術特許数でもトップを占める。人口は鈍化するものの米国の4倍以上あり、経済生産活動に寄与する中間層は毎年増大。都市と地方の格差も縮小傾向にある。ある米シンクタンク首脳は「GDPに寄与する製造業で米国を凌駕しており、中国は伸びしろが大きい」と見通している。

 

<評者プロフィール>

1971年時事通信社入社。ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。Record China社長・主筆を経て現在同社相談役・主筆、人民日報海外版日本月刊顧問。日中経済文化促進会会長。東京都日中友好協会特任顧問。著著に「中国危機―巨大化するチャイナリスクに備えよ」など。