吉田勝彦 第一三共ヘルスケア株式会社代表取締役社長
日中に共通する健康寿命の延伸とセルフケア

風邪薬「ルル」や胃腸薬「第一三共胃腸薬」だけでなく、栄養ドリンク「リゲイン」、発毛促進薬「カロヤン」、殺菌消毒薬「マキロン」といった商品は、日本人の日常生活に馴染み深いものだが、これら以外にも幅広い領域に商品を提供する第一三共ヘルスケアは、今では中国でも有名な医薬品メーカーになっている。今年、同社の新社長に就任された吉田勝彦氏に、日本の医薬品メーカーの市場戦略と抱負を語っていただいた。(聞き手は本誌編集長 蒋豊)

 

快適な生活を実現するために

―― 第一三共ヘルスケアは、日本人の生活に欠かせない多数のブランドを提供し続けている有名な医薬品メーカーです。日本にはもちろん数多くの同業種がありますが、その中で御社の特徴、また強みについてお聞かせください。

吉田 当社の成り立ちですが、もともと親会社である第一三共は、第一製薬と三共が一緒になって2005年に設立された会社です。両社のヘルスケア事業を統合し、2006年より第一三共ヘルスケアとして営業を開始しました。さらにゼファーマが加わり現行体制となりました。そのゼファーマは、藤沢薬品工業と山之内製薬のヘルスケア事業が合併した会社でしたから、4つの会社にあったヘルスケア事業を結集したのが第一三共ヘルスケアになります。4社にはそれぞれ個性がありましたから、結果として多様性に富んだ商品群を持つことになり、これは他にない当社の特徴だと思います。

しかも4つの会社は、いずれもいわゆる新薬メーカー、つまり新規成分の医療用医薬品をつくる会社が母体となっておりましたので、OTC医薬品に転用できるスイッチOTCになるような成分を、他社からの導入ではなく自分のところで持っていました。

例えば、トラネキサム酸という非常にユニークな成分があります。この成分は医療の現場でも広く使われている他、OTC医薬品にも使われており「ルル」(風邪薬)、「ペラック」(喉の薬)、あと「トラフル」という口内炎の薬などには抗炎症成分として配合されています。さらに、弊社は肝斑という“しみ”に対しても効果があることを突き止めOTC医薬品として販売しています。これは日本国内のOTC医薬品史上の中でも類をみないことです。抗炎症作用もあり、“しみ”の改善薬にもなるという、極めてレアな面白い成分ですが、そういう自社成分で新製品をつくれるというのが当社の特徴でもあり、強みです。実はトラネキサム酸は、いわゆるスキンケアの美白成分としても使えるので、それを生かした製品も開発しています。しみ対策の薬用化粧品「トランシーノ薬用スキンケアシリーズ」は医薬品との相乗効果で総合的にケアをすることができます。このように弊社は医薬品だけでなく、化粧品やオーラルケアの領域にも力をいれています。「ミノン」は、敏感肌用の石鹸や全身シャンプーなど洗浄料から始まったロングセラーブランドですが、現在では「ミノン アミノモイスト」というスキンケアのシリーズが特に高い評価をいただいており、シートマスクや乳液などのヒット商品は日本だけでなく海外のお客様からも人気を得ております。

さらに、近年注力しているのが、いわゆる歯磨き粉を中心としたオーラルケア商品です。歯周病予防に「クリーンデンタル」、美白用に「シティース」、昨年は「ブレスラボ」という口臭ケアの歯磨きも出しました。

従来の医薬品をベースに、スキンケア、オーラルケアの領域にも伸ばしているという状況です。そこに共通するのは、医薬品メーカーとしての矜持といったら言い過ぎかもしれませんが、しっかりとした科学的なエビデンスです。

 

―― 人口が減少する中、超高齢社会を迎えた日本では、人生百年時代と言われて、ヘルスケア関連の市場が拡大しています。日本の医薬品産業の展望と課題について、どのようにお考えですか。

吉田 確かに日本の人口が減っていくのは間違いないわけです。当社も、その人口構成と全く合致していたら間違いなく小さくなっていきます。けれども、よくよく考えれば、当社は全ての領域に出ているわけではありません。

高齢者の年代が増えているならば、その年代の方のお役にたてる製品を開発する、というのはメーカーとして当然のことです。高齢者の方が消費者として何を求めているかというと、最近よく言われるのは健康寿命の延伸です。

今まではセルフメディケーション、病気を治すというところが多かったのですが、病気にならないようにするためにどうしたらいいか、健康な状態を保つためにはどうしたらいいかというところの需要は、間違いなく伸びていくと思います。それに見合った製品を上市していくことができれば、仮に日本の人口が減っていっても、それはそれで成長につながるのではないかと思っています。

 

中国市場への取り組み

―― 近年、中国からの訪日観光客数は急激に伸びており、サプリ、コスメ等の消費額も拡大しています。さらには2020東京オリンピック・パラリンピックによる外国人の消費拡大では、これまで以上の大きな経済効果も見込まれています。御社の訪日インバウンドのこれまでの取り組み、また越境ECやネット通販の取組みについてお聞かせください。

吉田 上海に第一三共中国という法人があります。その中に医薬保健総部というヘルスケア部門を設け、自ら営業とマーケティングに関して主体的にやるというような形にしています。

そこで最初に上市した製品が、ミノンアミノモイストです。当初は中国ではそんなに知名度は高くないだろうと、スモールスタートでやっていこうと思ったのですが、インバウンドで非常に話題になりました。日本に来られた観光客がミノンアミノモイストを買っていって下さり、それが現地でも話題になりました。そういう形で、ミノンアミノモイストに関しては順調なスタートが切れています。

お恥ずかしい話ですが、インバウンドは国内の営業実績になり、現地で売る分は現地の中国法人の売り上げになるので、日本で売れたはずのものがそっちに取られたとかいう話も以前はありました(笑)。

しかし、よくよく考えると、それは拮抗する関係ではなくて、国内のインバウンドで商品を知って頂き購入していただけると、帰国後話題になり現地でも購入したいお客様が増えるという好循環が発生します。同様に、中国現地でいろいろプロモーションを展開すると、インバウンドのお客様の購入アップにもつながる。そういう相乗作用があるということがだんだん分かってきました。

中国進出当初より中国国内のECサイトでの販売には注力しておりましたが、今年は越境ECサイトをスタートしました。そこで話題になれば、現地での購入につながるような、シナジーにつながっているなという感じがありまして、中国でやるインバウンドプロモーションが当然日本のインバウンドのアップにもなりますし、現地のリターンにもなります。現地のマーケティング・営業とインバウンド施策、越境EC施策というのが、実はリンクしているというのがだんだん分かってきたのです。

今は色々な方法を模索しながら、効率よく、効果的な手法の探索に取り組みを始めているところです。訪日観光客の数は減っていませんし、東京オリンピックに向けてはまだまだ伸びていくと思いますので、期待しております。

 

同じアジア民族として共通するもの

―― 現在、中国では「健康中国」を国家戦略に掲げて、ヘルスケア産業の発展を奨励し、産業規模は年々拡大しています。近年、日本と中国の関係は良好で、来春には習近平国家主席が国賓として来日する予定です。それに伴って日中ビジネスもますます盛んになると思いますが、中国とのビジネスの重要性についてはどのようにお考えですか。

吉田 とにかく中国市場というのは大きい(笑)。ただ人口が多いだけではなくて、経済成長によって、富裕層も非常に増えてきています。そういう意味では、マクロ的に非常に魅力があります。

医薬品もそうですが、やはり同じアジア民族のお肌には共通なところが結構ありますので、日本人に合うスキンケア製品は中国の方にも合うというケースが非常に多く有ると聞いております。そういう意味で、中国市場は当社の商品との親和性が非常に高いと考えております。あと、日本ほどではないですが、やはり中国も高齢化が進んでいく傾向にあります。

そのことを考えますと、先ほど申し上げたような、健康寿命の達成に向けた、未病予防を含めたセルフケアの製品を当社が日本で上市できれば、当然そのニーズは中国の方にもあると思います。

そういう市場構造の共通性もあるので、中国にはもう本腰を入れるという意味で、現地に法人もつくり、現地の方を雇用させていただき、中日の感性を活かしあいながら誠意努力しております。非常に期待している市場です。