<アフターコロナ時代の日中関係>(5)
中国、欧米主導秩序に挑む=BRICS、6カ国新加盟へ・グローバルサウス結集―日本は「橋渡し役」果たせ

中国、インド、ロシア、ブラジル、南アフリカで構成する新興5カ国(BRICS)が8月下旬、南アで開催され、新たにアルゼンチン、サウジアラビア、エジプト、イラン、アラブ首長国連邦(UAE)、エチオピア6カ国の加盟を認めた。「グローバルサウス」を代表する枠組みとして欧米主導の国際秩序に挑む姿勢を鮮明にした格好だ。

「20カ国以上がBRICSへの加盟を申請したという事実は、この枠組みの活力と吸引力、国際情勢における戦略的価値を十分に示し、新興市場・途上国の共通の利益にも合致する」。中国の習近平国家主席はBRICS首脳会議での演説で、こう胸を張った。中国は、主要7カ国(G7)など価値観を重視する米欧への対抗軸として、BRICSの拡大を後押ししてきた。

加盟5カ国で世界の人口の40%以上、国内総生産(GDP)の25%超を占めるBRICSや中露主導の上海協力機構などを戦略の中核に位置付けており、そうした枠組みをさらに広げることで、新たな国際秩序の担い手となることを目指す。今回新たに加盟するサウジアラビアとイランに対しては、3月に国交正常化も仲介。米国の影響力が低下する中東での存在感も高めている。

中国通貨の人民元の国際的な地位向上につなげる狙いもある。これまで、ロシアではウクライナ侵攻を受けた金融制裁で米ドルの確保が難しくなったため、人民元での決済が急拡大。ブラジルや新加盟のアルゼンチンでも中国からの輸入時に新たに人民元決済を認める動きが広がる。習氏は昨年末にサウジや、同じく新加盟国のアラブ首長国連邦(UAE)などに対しても、石油や天然ガス貿易での人民元利用を呼びかけていた。

 

加盟希望国など60カ国の首脳が集結

イランやサウジアラビアなど中東4カ国の新規加盟を認めたことで、BRICSは一気に中東地域へ拡大することになる。

特に核開発疑惑を巡る米国の経済制裁に苦しむイランにとっては、BRICS加盟によりドル以外の通貨を用いた貿易や投資が拡大すれば経済復興への足掛かりとなる。

一方、「バランス外交」を展開するインドも拡大に合意した。モディ首相は会見で「(新加盟の)全ての国々と非常に深く、歴史的な関係を築いてきた」と語った。サウジやUAEは米中に次ぐ主要な貿易相手国で、自国の経済成長を拡大するうえで、資源国との関係強化を図ったとみられる。

議長国として議論をまとめたラマポーザ南ア大統領は「BRICSは、公平で、包摂的で豊かな世界を構築する取り組みの新たな章へと乗り出した」と語った。今回の拡大を「第1段階」とし、さらなる拡大の可能性を表明した。BRICS会議最終日の8月24日には、加盟希望国など計60カ国の首脳が集まり更なる発展を予感させた。

過去20年で米国の力は衰退し、力をつけた中国との対立が深まっており、ロシアによるウクライナ侵攻が重なった。世界が分断されていく中で、相対的にBRICSの存在感が増している。

日本は日米韓の連携強化や日米豪印によるQUAD(クアッド)など、対中包囲網とみられる枠組みに前のめりになっているが、欧米だけでなくグローバルサウスなど途上国との協力を推進ことこそ、アジアの主要国・日本の生きる道。拡大BRICSと欧米との橋渡しを目指す「バランス外交」に踏み出すべきであろう。

 

<評者プロフィール>

1971年時事通信社入社。ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。Record China社長・主筆を経て現在同社相談役・主筆、人民日報海外版日本月刊顧問。日中経済文化促進会会長。東京都日中友好協会特任顧問。著著に「中国危機―巨大化するチャイナリスクに備えよ」など。