関村清幸 関村グループ代表 漢方和牛の生みの親
22年をかけて生み出した漢方飼料で 「漢方和牛」ブランドを確立

和牛の素晴らしさはつとに知られているが、「漢方和牛」と聞くと期待感はさらに高まる。日本で「漢方」というと、言わずと知れた中国の漢方薬である。漢方の知識は、1000年以上前に仏教とともに日本に伝えられ、日本に根付き、社会生活のあらゆる場面でかけがえのない役割を果たしてきた。

今日も、漢方を取り入れた健康食品が多く生産されている。しかし、「漢方和牛」の生みの親は、宮城県栗原市の関村牧場の主である関村清幸ただ一人である。

飼料問題から生まれた変革

脂肪融点が21.3~22.8度という驚異の口どけが自然飼育による脂肪の上質さを証明している。大理石のように美しい天然の「サシ」は、舌の肥えたグルメの期待を裏切らない。ほぐれるようにとろけるジューシーな肉質が、関村清幸がクコ、ロッカクレイシ、サンザシなど14種のハーブを配合した漢方飼料で大切に育てた「漢方和牛」の特長である。

関村清幸は農家の生まれで、先祖は代々稲作農家であった。関村家の農地では、モチモチの上質な米と美味しい野菜がたくさん獲れた。「牛ふんの堆肥を都合よく有機肥料として使っていました」。関村家では代々、化学肥料に頼ることなく作物を育ててきた。

2001年、世界を震撼させたBSE狂牛病が日本でも発生した。世界に名を馳せた和牛は、一夜にして多くの国々で輸入禁止品目のリストに入れられた。狂牛病は牛海綿状脳症とも呼ばれる伝染病である。人間が、草食動物である牛に動物由来の添加物を飼料として与えたことで、狂牛病を発症したのである。狂牛病に感染した牛肉を食べると、人間にも同じような症状が現れる。「病は口から」と、狂牛病の発生は全ての酪農家に警鐘を鳴らし、関村清幸にとっても大きな教訓となった。

飼料がこの騒動の元凶であり、和牛の健康を守る鍵である。関村清幸は、漢方食材のお陰で、母親は生涯元気に農業に従事でき、自身も、ストレスに負けない頑健な体を手に入れることができたのだと思い至った。漢方食材が人体に好影響を及ぼすのであれば、同じ哺乳類である牛にとっても有益であるに違いない。関村清幸はリスクを冒して先陣を切り、漢方飼料で牛を飼育するという困難な挑戦を開始した。

新たな品種を生み出すのである。立案から実施に至るまで、中国と日本の漢方に関するさまざまな知識や法規を整理し、明確にする必要があった。これまでにない大胆な試みは、容易なことではなかったはずだ。

22年をかけて

生み出した処方箋

「霜降り肉」をやみくもに追求し、和牛の繁殖と飼育に人工的に関与することがあってはならない。小細工した飼料で畜産業界に災禍を招いてもならない。糖尿病に侵された和牛を食べて良いはずもない。関村清幸はこの無秩序な市場の様相に心を痛め頭を悩ました。ずっと和牛と関わってきた彼には、牛のような頑固さと辛抱強さがあった。

関村清幸は、幾度も賞に輝いた熊本の褐毛和牛(別名「あか毛和牛」)を選んで自然交配し、漢方薬材を配合した飼料で肥育し、安心安全で健康な和牛を育てようと決めた。参考にできる過去のデータもなく、飼料はすべて高価な薬材である。配合比率のわずかな違いが、異なる結果を生み、和牛の健全な成長に影響を与える可能性もある。しかし、市場のトレンドがどうであろうと、何度失敗しようとも、彼は挑戦を止めなかった。

関村清幸は薬材の分量や給餌時間の調整を怠ることなく続け、22年をかけて漢方薬材を4種類から8種類に、最終的には14種類に増やし、健康で美味しい漢方和牛の飼育に行きついたのである。日本には「茶道」や「華道」があるが、22年を費やして漢方和牛を生み出した関村清幸は、「牛道」を究めたと言ってよいのではないだろうか!

14種類の漢方食材で飼育された関村牧場の漢方和牛は、通常の霜降り肉の融点が25度であるのに対し、さらに低い21.3度である。さらに注目すべきは、漢方和牛の100g当たりのアミノ酸の含有量は18375mgで、黒毛和牛の1.5倍で、グルタミン酸の含有量は6454mgで、黒毛和牛のおよそ2.5倍である。

舌の肥えた美食家であれば、この数字を見ただけで、安心安全で美味しい肉であることが分かるだろう。こうして関村牧場で30カ月以上飼育されて出荷された漢方和牛は、芳醇でジューシーで、噛むほどに旨味が広がるという特長がある。自然に近い状態で放牧し、食品工場から出た残渣を与えたり、規格外のシイタケをおやつとして与えたりもしている。こうした豊富で多彩な食事と気ままで自由な飼育環境の下で、アミノ酸とグルタミン酸の含有量が増加し、口当たりが柔らかく栄養価の高い和牛が育つのである。

ゆらめく炉の火に煌めく、サシの美しい漢方和牛を一枚口に運ぶと、五感すべてを満足させてくれる。漢方和牛を味わいながら、14種の漢方薬剤の恩恵にもあずかる。医食同源にも通じ、一挙両得である。

霜降り肉至上主義が

招く危機

見た目に惑わされてはならない。和牛が世界中の食卓でもてはやされるようになったことで、消費主義に翻弄され、利潤に駆り立てられて、牛の血統や「霜降り肉」をやみくもに追求する者も現れた。すると、近親交配によって、抗ウイルス能力の低下や遺伝的欠陥を引き起こす確率も高まる。歴史上、過度の近親交配による遺伝的多様性の喪失は一度ならず起きている。

和牛の多様性の喪失については、全国和牛登録協会等の関連団体も警鐘を鳴らしている。記者は2022年10月、5年に1度開催される「和牛のオリンピック」——日本全国和牛能力共進会鹿児島大会に足を運んだ。過度に霜降り肉と血統を追求する市場の慣習を是正し、和牛種の多様性を守るため、今後の品評会では、体に良いとされるアミノ酸やオレイン酸の含有量を重視し、「サシ」の評価比率を引き下げるとのことであった。 

専門機構による規格の改定は、関村清幸が二十数年前に下した決断と符合するものであり、長年の苦労が報われた思いであった。

天然の勾配のある山麓に位置する関村牧場では、漢方和牛がゆったりと放牧されている。逞しく丈夫な四肢と美しいボディライン。艶のある毛並みが陽光に照らされ、筋肉をピクピクと震わせている。漢方和牛は、芳しい草花を食み、天然の勾配に恵まれた牧場で自然交配され、自然淘汰の楽園で、健全、エコ、自然、調和を礼賛する田園詩を謳っている。

漢方和牛が新時代の

中日交流の新たな果実に

中国と日本は一衣帯水の隣国である。紀元前、稲作が中国から朝鮮半島を経て日本に伝わると、日本人の生活様式は一変し、農耕文明は日本列島における揺るぎない文化的基盤となった。これまで、中日両国の民間における経済・文化交流は、両国の友好を堅固なものとし、両国関係の健全な発展を推進するための強力な原動力となり、確固たる基盤となってきた。

「人にとって食は毎日のことであり、食は安心が先である」。食文化は、中日両国国民が理解と交流を深める上でのかけがえのない媒体となっている。関村清幸が中国伝統の漢方薬の知識をもとに育てた漢方和牛は、新時代の“成熟し安定したタフな中日関係”のための優れた指標となっている。

唐代の高名な僧侶である鑑真は、失明と5度の渡航の失敗を乗り越え、苦節12年、6度目の渡航で日本に仏教と漢方の知識を伝えた。関村清幸は失敗を繰り返しながら、上質な和牛の飼育に適した漢方食材の処方に、22年間黙々と取り組んできた。仏教を伝えるために海を渡った鑑真の精神とも響き合うものがあろう。

東京・赤坂に、在日華人企業家と関村清幸が共同出資した「漢方和牛株式会社」が経営する焼肉店「焼肉KAMPO」がある。こうしたパートナーシップによって、ビジネスプロセスを簡略にし、効率を高め、コストを削減し、価格差を解消できるとともに、漢方和牛の鮮度と品質を担保することができる。

「焼肉KAMPO」のオープンは、中日の民間協力・交流を深化させるという時代の要請に適ったものであり、隣国として「合すれば共に利し」の精神を生き生きと反映しており、中日国交正常化100周年に向けての明るいビジョンを示していると言えよう。

余談であるが、記者が「焼肉KAMPO」で関村清幸を取材したのは、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の発効からちょうど1周年に当たる日であった。当協定は関税の減免、原産地規則、貿易の自由化等の問題に便宜を図ったものである。今後、より多くの同業者が、関村牧場が切り拓いた漢方和牛の理念に賛同し、RCEPの追い風を受けて、日本の高級な農産物が中国の食卓を豊かにし、中国の人びとが心ゆくまでそれらを堪能できる日が来るに違いない。

取材後記

漢方和牛は不飽和脂肪酸と多種の良質なアミノ酸を多く含み、栄養価が非常に高いことが、科学的にも証明されている。漢方薬材の天然の香りが、きめ細やかで滑らかな肉の食感とさわやかな甘みを引き立てている。百聞は一見に如かず。芸術的・文化的雰囲気の漂う東京・赤坂の「焼肉KAMPO」で、関村牧場の漢方和牛を堪能する美食の旅を始めてみてはどうだろう。