是々非々貫け、コロナ報道

新型コロナウイルスの蔓延は今世紀の人類社会に重大な影響を与え続けている。ダイナミックゼロコロナ(通称「ゼロコロナ」動態清零=中国語)政策を果敢に掲げ続け、新型コロナ感染の終息に奮闘してきた中国も、昨年12月上旬にはコロナ政策の大幅な修正を試みることになった。「ゼロコロナ」から「ウイズコロナ」へ。国家政策の大きな転換(2022年12月7日、中国政府「新10カ条」通達文)は、世界的に大きな影響を与え、諸国家からさまざまな報道が生まれてきた。

世界的に見れば、日本や中国、欧米など各国のコロナとの戦いは今もって終わりが見えず、正体不明のウイルスが世界中に跳梁跋扈している。コロナはこの後、どんな経過をたどり、どのように変異していくのか。世界中の感染医療団体や細菌科学分野の一流の専門家でさえも、その最終的な結論が出せないでいる。コロナの正体は、そしてその行方については、未だ誰も分からない、というのが真実と言えるだろう。

そのような世界的状況の中で、日本や欧米の一部メディア、特に雑誌やSNS上で、中国批判を繰り返し、展開し中国を嘲笑うかのような報道を続けている。中国政府のコロナ政策の大転換によって、各地の感染が爆発的に急増、大量の死者が出てしまった。これは明らかな失敗策であり、中国ではこの後、感染死者が200万人を超える、という見方も出ている。また「習近平が企む西側へのコロナ感染輸出」や、「中国崩壊近し」などと伝える悪質な報道も現れた。さらに緩和措置とも見える現在の中国の政策について、「西側諸国の真似をしたための失政」とする見方が伝えられるなど、過剰にしてネガティブな政治宣伝を報じている。

今回の大掛かりな政策転換によって、中国の国内でコロナ感染が急拡大したことは確かだろう。ある時期、首都・北京では一週間だけで約8割以上の市民がコロナに感染したと言われている。しかし北京を始め上海や広州、武漢、四川など大都市から地方都市や一部農村の地域まで、感染状況は明らかにピークアウトしている。

今日、既に感染状況は収まり、民衆の生活は落ち着きを取り戻している。一般の中国人の認識では、今回の感染流行は「季節性インフルエンザのような状況」だという。だからこそ中国は、ゼロコロナから緩和策へと大きな舵を切った、というのが真実であり、感染を防ぎきれる、という見方も増えてきたという。

中国では武漢を始め、湖北省や河南省、黒龍江省、広東省、陝西省など広範な地域にわたりロックダウン(都市封鎖)や、徹底した集団隔離、PCR検査が実施されてきた。これらの緩和策によって、中国全土は、ほぼ無菌状態から一気に「窓を開け放った状態」になっている。中国ではオミクロン株に対する抗体(キャリア)を持つ人がかなり少なく、感染リスクも非常に高い。感染者が爆発的に出たのも、必然な結果であったと考えられる。

中国全体に急速な勢いで感染が広がる現象は見方によれば、三年にわたり中国が確実にゼロコロナ政策を果たしたことの実証とも言えよう。あたかも日本では医療専門家の間で「第8波」の襲来が言われ始めている。即ち今日の中国の感染拡大は、日本の「第1波」の感染急拡大に似たような状況とも見える。中国や日本に限らず、如何なる国であっても例外なく、その国の疫病による感染率が上がれば、自ずと重症者や死亡者数が多くなる共通点を示している。

2020年6月には中国のロックダウンや徹底した集団隔離などによるゼロコロナ政策が功を奏し、感染封じ込めにいったんは成功を収め、社会経済活動が再開された。しかしその後、海外からの帰国者の一部や冷凍海産物などによるウイルスが中国に輸入される状況になり、未だ終息にまで至っていない。

世界各国のコロナ政策はさまざまである。これらの政策の不統一がコロナ完全制圧への最も大きな障害、との見方もある。今日の新型コロナに対する対処は、日本、中国、欧米などどこの国を見渡しても、基本的には同じような状況にあるとされ、各国にコロナ政策の一致が続けば、やがてコロナ克服への道が開かれるのでは、との見方もある。

こうした客観的な動かない事実が存在するにも関わらず、各国のメディアが中国のコロナ政策を批判し、揶揄を続けている。一方で、中国はアジアの超大国であり、世界有数の力のある国でもある。中国にとっては、他国から何を批判されても構わないという泰然自若としての構えを、世界に示すことも大切なことではないだろうか。

約一世紀前の1918年、日本の大正にあたる時代のこと、欧州のスペインから全世界に広がって行くスペイン風邪が発生した。このウイルスは毒性が極めて強く、感染力が高いため、多くのスペイン内外に犠牲者が出てしまった。死者の数は第一次世界大戦の戦死者約1600万人を上回ったとされる。

この人類への大きな脅威に対して、当時の世界はワクチンや治療薬、科学的な知見も不十分な医療体制だったとされる。感染が広がった国々は、ウイルスが自然と薄まり消え去るのを待つしかなかったという。

現在の各国の状況を見ると、コロナと戦いを続けながらワクチンの接種は進んでおり、科学的な知見も蓄積されており、治療薬など医療体制も整いつつあるという。しかし世界中の多くの人々が自国のコロナ禍への眼差しはぼんやりとし、コロナの跳梁跋扈をただ見つめているかのようだ。人間社会は現代に至っても、コロナの脅威が行き過ぎるのを待つしかないのだろうか。

このような状況を見ると、日本のメディアなどが誤った情報提供を続け、やみくもに中国批判をするのは、的外れという他はない。最近の日本や欧米の一部メディアに必要なものは、中国に対する冷静な思考や態度にあると思う。現在、日本は世界一最多の感染者数の記録を更新している。このような深刻な感染状況を省みず、一方的に中国を嘲笑うのは、日本を嘲笑うようなものだ。賢明な日本人であれば、既にそのことに気づいているはずである。

中国駐大阪総領事館広報アドバイザー・中国社会科学院文学博士 貫井 正