「変面」で西遊記に新解釈
国立能楽堂に中国人芸術家がお目見え

11月16日、東京都渋谷区にある国立能楽堂では、アジア芸術文化促進会の会長であり、著名な在日芸術家である王文強が主演を務める【〜能舞台で繰り広げる「西遊記奇聞」〜『みんな迷い子』】が、素朴で厳かな能舞台で上演された。これは11月1日の国立能楽堂のお披露目公演以来、2番目の公演となった。

【「西遊記奇聞」〜『みんな迷い子』】は、作家・演出家である加藤直氏が演出を手がけた作品で、花柳流を代表する日本舞踊家の花柳基氏が振付を担当すると同時に三蔵法師役で登場し、声優の柳沢三千代氏が物語をリードする悟空の役を演じ、日本舞踊家の花柳喜衛文華氏が沙悟浄、同じく花柳絵美舞也氏が猪八戒役を演じた。

伝統的な能舞台は、「舞」「謡」「囃子」によって構成されている。能役者は演じる際にマイクなどは用いない。本物の効果を観衆一人一人に伝えるため、役者は自身の声、謡、息遣いで演じる。能舞台は毎回、役者の演技と体力に対する試練であるともいえる。

舞台の上では、花柳基氏が巧みな足取りで動く。変幻自在、時に風のようにまた時に影のように、軽快なステップと舞踊で観衆を魅了した。また柳沢三千代氏はオンナと悟空の2役を見事に演じ上げ、特に茶目っけのある悟空のサルの本性を現しているシーンでは笑いがこみ上げた。

打楽器奏者の見谷聡一氏が全体の音響効果を担当し、さざなみドラムをはじめとした様々な楽器を自由自在に駆使して、一人で劇中の音響効果を全て引き受けていた。音楽がストーリーの起伏と相まって変化し、自然に流れるように、観衆の心をつかんでいた。

【「西遊記奇聞」〜『みんな迷い子』】の演技のなかで、王文強は十数種の変面の仮面を使い、詩的なセリフと組み合わせ、三蔵法師を食べた妖怪から、三蔵法師を西域に送る白馬の役へと変化する過程を演出し、同じ登場人物の異なるシーンでの人物、心情のさまざまな変化を表現した。

日本の能も、「面を使った伝統芸能」という点では中国の変面と共通点があるが、変面の面は布製であり、演じる者のセリフや歌の呼吸に合わせて面も口や鼻のあたりに吸い付くため、その下でセリフを言うのは不可能に近い。これも四川劇・変面でセリフが非常に少ない理由である。

来日して7、8年に過ぎない中国人芸術家・王文強は、日本語という言葉の障害を乗り越えると同時に、中国伝統の変面技術の限界を創造的に打破し、変面役者にセリフを「言」わせ、演劇における変面の創造性と可能性を大きく向上させた。

舞台が無事に終わった後も観衆は余韻に浸ったまま、拍手は鳴り止まず、主な役者たちがアンコールに応えて何度も舞台に戻って来た。

会場では、東京中国文化センターの羅玉泉主任が舞台への祝意を述べた。羅玉泉主任は、王文強がここ数年間、中国と日本の伝統文化の多様な交流を推し進め、日本社会に中国伝統文化を広めてきた精神を認め、また中日友好交流に大きく貢献したことを称えた。中日の芸術家が協力し、伝統芸術に革新的活力を注入したことは、芸術は国境を越えるという真理を重ねて証明したことになる。

日本演劇協会専務理事、日本舞踊協会副会長、伝統歌舞伎保存会財務理事など多くの役職に就いている織田紘二氏は、この公演にお祝いの言葉を寄せた。そのなかで織田氏は、日本大学芸術学部の大学院で教鞭を執った際に教えた王文強がわずか数年間で驚くべき成果をあげたことをうれしく、誇りに思うとし、王文強が設立したアジア芸術文化促進会がアジア各国の文化交流を推進し、とりわけ青少年間の交流に貢献していることを高く評価した。

演劇評論家であり、演出家でもある石澤秀二氏は、王文強が松原剛教授、戸田宗宏教授、加藤直演出家ら多くの日本の芸術の大家に学び、新しいものを作り出し、同時に日本語と変面の新しい境地を開くという二つの難関を乗り越え、芸術のイノベーションによって卓越的な歴史的価値を創造したことを称賛した。

アジア芸術文化促進会の山本晶副代表は取材に対し、この公演は日中国交正常化50周年を記念して日中両国の伝統芸術界の大家が心を込めて作り上げたもので、令和4年(第77回)日本文化庁芸術祭参加作品であるとし、この公演の成功は、駐日本国中国大使館文化部、東京中国文化センター、日中友好協会、日中友好会館、日中経済協会、日本アジア共同体文化協力機構の大きなサポートと、朝陽貿易株式会社、源清田商事株式会社の支援によるものだと述べた。

中国人芸術家が日本の国家レベルの国立能楽堂の舞台に立ち、日本舞踊の代表的な舞踏家と競演したことは、歴史の節目となる文化的行事であり、中日民間交流史上において特筆すべき素晴らしい出来事でもあった。【「西遊記奇聞」〜『みんな迷い子』】の大成功を祝い、安徽省出身の華僑である王文強に喝采を送りたい。