現代日本企業の「豊臣秀吉」
――村田博文著『丸和運輸機関・和佐見勝の共に成長の輪をつくる!』

私は村田博文著『丸和運輸機関・和佐見勝の共に成長の輪をつくる!』(財界研究所出版、2022年7月第二版)を入手するや、即座に読み始めた。以前、日本・東京証券取引所一部上場(現:プライム市場上場)企業である丸和運輸機関(現:AZ-COM丸和ホールディングス)の和佐見勝代表取締役社長を取材し、本誌の発刊記念パーティーにもお招きしたことがある。また、村田氏が主幹を務める『財界』を、長年購読させていただいている。前者とはかつて楽しく語らい、後者とは今も『財界』を介してお目にかかっている。思いがけず、お二方との時空を超えた語らいが実現したのである。

私は伝記を好んで読む。伝記には、人物を褒めそやすものと非難するものがあるように思う。優れた伝記には、真理の追究があり、正確であり、活気に満ちている。そこに描かれているのは「前例のない」人物ではなく、歴史の流れの中で生まれた人物である。そして、「手の届かない」人物ではなく、「目標とすべき」人物である。そうした人物が読者を鼓舞し、啓発するのである。本書では、今日の日本の物流業界の「豊臣秀吉」ともいうべき人物の姿が描かれている。

「戦国三傑」のひとり豊臣秀吉といえば、貧しい農民から大出世して天下人となったことで知られる。著者は本書で、和佐見氏が若くして八百屋に奉公に出た経歴を持ち、苦労と辛酸の時代を乗り越えたことを紹介している。豊臣秀吉は、主君である織田信長が本能寺の変で命を落とした後、主君の志を継いだ。和佐見氏は、急死した恩人が残した多額の負債を抱えながら、トラック1台を頼りに再出発した。豊臣秀吉は8年で、織田信長が20年かけても実現できなかった天下統一を成し遂げた。和佐見社長は協業団体「AZ-COM丸和・支援ネットワーク」を創設し、トラック運送会社を中心に、約1,800社とパートナーシップを締結した。これを「野望」という者がいるかもしれないが、「野望」のない企業家は優秀な企業家とは呼べない。

「天下人」豊臣秀吉といえば、権勢を求めた人物として頭に浮かぶであろう。しかし実際はどうだろう。織田信長と比較してもわかることであるが、彼が成功したのは、人心掌握に長け、気遣いのできる人物であったからではないか。信長と秀吉の大きな違いは、人に対して冷たいか温かいかである。本書によると、和佐見社長はこれまでに2回、私財から5.2億円の株式とコロナ禍で活躍している社員の皆様に現金10億円を贈与した。彼らは社長を温情のある企業家と感じたに違いない。さらに数十億円の私財を出して、東京大学のラクビーフィールドの整備に寄付した。

コロナ禍の3年は、「情勢は厳しい」「競争が熾烈である」「経済が低迷している」「市場は変化した」等々と、どれだけの企業家が不満を口にしてきたことだろう。ところが、本書には、丸和運輸機関が「寧静致遠」、「ピンチ」を「チャンス」と捉え、逆境を乗り越えて、売上と利益率を毎年連続2桁成長遂げるまでの、数々の物語が紹介されている。最も重要なのは、情勢が大きく変わった時に、如何に判断を下し行動を起こすかであり、空論にふけることではない。率直に言って、今日の多くの企業家に最も欠けている部分であろう。

創業から50年になる和佐見社長には、時代の名残があって当然である。不躾な言い方であるが、その一つが創業者の「独裁」である。ところが、社長はそれをよしとせず、個の力を企業の力として、個人と企業が共に成長する成長の輪をつくろうとしている。本書は、「独裁」に浸り、自己満足している企業家たちに新たな気づきをもたらすに違いない。

優れた伝記を読むのは、美味しいお茶を飲むのに似ている。じっくりと余韻を味わうことができる。さらに、美味しいお酒を飲むのにも似ている。いつまでも興奮が冷めない。村田氏による本書は、「美味しいお茶」と「美味しいお酒」の両方の効能を併せ持っている。私は、メディアに携わる一中国人として、中日国交正常化50周年の佳節に、本書を中国語に翻訳し、中国の読者に、日本の企業家の50年の歩みを紹介したいと考えている。