鑑古堂の古美術鑑定〈6〉
宋代・龍泉青磁の瀟洒な魅力

最近、少し時間があったので京都の別宅に数日間滞在し、友人とフォーシーズンズホテルで昼食をとった後、京都国立博物館に立ち寄った。

当博物館ではちょうど、茶の湯をテーマにした特別展『京(みやこ)に生きる文化 茶の湯』が開催されており、幸運にも、著名な京都・龍光院の国宝である南宋時代の曜変天目茶碗、MIHO MUSEUM所蔵の南宋時代の耀変天目茶碗など、多くの国宝級、重要文化財級の宝物を目にすることができた。

また、南宋時代の龍泉青磁3点を同時に鑑賞することができ、気持ちが高ぶった。

3点とは、大阪・和泉市久保惣記念美術館所蔵の国宝・青磁鳳凰耳花入(銘:『万声』)、京都・陽明文庫所蔵の青磁鳳凰耳花入(銘:『千声』)、東京国立博物館所蔵の名品で重要文化財の南宋時代の青磁茶碗である。青磁茶碗は時代を経て底にひび割れができたため、鎹(かすがい)で止められている。それがあたかも大きな蝗(イナゴ)のようであったため、『馬蝗絆(ばこうはん)』と名づけられた。

南宋時代の龍泉青磁の頂点ともいうべき上記の3点に加えて、徳川美術館所蔵の名品・青磁弦紋香炉が出展されていた。後人によって可愛いらしい小鳥があしらわれた蓋が付けられたことから、『千鳥』と名づけられた。

『茶の湯』展を見学して、文化伝承の古都・京都に深い感銘を受けるとともに、中国・南宋時代の龍泉青磁の瀟洒な美しさに、しばらく酔いしれた。

余韻冷めやらず、京都の別宅に戻り、自身が以前収集した小さな香炉を桐の箱から取り出し、静かに鑑賞した。

その香炉も南宋時代の龍泉窯で焼かれた口の大きな三つ脚香炉で、殷・周時代の『青銅鬲炉』の形状をとっていることから、中国では『青磁鬲式炉』と呼ばれている。

この香炉は、胴の部分が太く、腰から三本の脚にかけて凸線が施されている。日本の男性が履く袴に形態がよく似ていることから、日本では『砧青磁袴腰香炉』と呼ばれる。

龍泉窯青磁の窯址は浙江省龍泉市が起源で、1700年以上前に焼成が始まり、宋の時代に最盛期を迎えた。官窯,哥窯,汝窯,鈞窯,定窯とともに、宋代の六大名窯に数えられる。

筆者が手にしている香炉は、雨上がりの空を思わせる青色をしている。口には縁どりが施され、胴は丸みを帯び、腰から三本の脚へと筋が伸びている。三本の脚は鼎立し、安定感のある優美な曲線を描いている。素朴な出で立ちと色味を押さえた青が、宋代の人びとの孤高の清新さを表している。

炉には銀の蓋があしらわれている。近代の日本のコレクターのために特別に制作された燻蓋である。蓋は純銀で、四季の花々が透かし彫りされ、豪華な蓋と上品な香炉が互いを引き立てている。

この香炉で沈香を焚き、美味しいお茶を淹れれば、宋代の文人たちの瀟洒と悦びを体験できるかもしれない。