次の50年へ――日中交流への提言

日中国交正常化から今年で50年目を迎えた。日中両国はとりあえず半世紀を乗り越え、さらに良好な道をたどることを期待したいのだが、果たしてどうなるのか。ともかく両国は今後、極めて重要な歳月を迎えるはずである。

本年5月7日、日中国交正常化50周年記念行事として、日中共演300人の二胡演奏家、神戸の合唱団100人らが集い合奏・合唱の音楽コンサート「平和の祭典」(兵庫県立芸術文化センター)が開催された。当日は二千人近い観客が訪れ、なかなかの盛況ぶりだったと聞く。

コンサートの主催者側の一人、NPO法人国際音楽協会・張文乃理事長は「このような光景は50年前には考えられなかった。これほどに多くの日本人と中国人が同じ場所で、同じ歌を一緒に歌っているとは――」と熱く語っておられたそうだ。張理事長はかつて、日中関係が何度か悪化の方向を示した際、常にその矢面に立ってきた方と聞いている。上記の言葉は、日中が文化交流の面で繋がることへの同理事長の深い感慨、と私は受け取りたい。

日中両国の新たな付き合いは第二次世界大戦後、両国の政治外交面が断絶し、両国関係の回復がなされていない1954年、民間交流から始まった。そして両国が国交正常化を果たしたのが1972年9月29日である。以来、今年までの長い道のりを概観すると、両国の関係は決して順調とは言えなかった。日中二国間の交流の原点は音楽コンサート「平和の祭典」のように、民間交流による親善的なつき合いから始めることにあるのではないだろうか。

日中国交正常化は1972年9月29日、田中角栄日本国首相、周恩来中華人民共和国首相の握手によって果たされたが、それ以来、50年間の国交は決して順調とは言えない。特に2008年の冬以降、尖閣列島(釣魚島=中国)の問題で両国間の対立が象徴的である。現在、日中両国は尖閣(釣魚島=中国)領有権の問題など、難しい問題を抱えている。2012年7月、野田民主党政権が尖閣諸島(釣魚島=中国)の日本国有化宣言をしたことに端を発しているこの問題は、私見ではあるが、日本側の中国に対する一方的な現状変更であり、重要な隣国に対し適切な配慮に立脚したものではなかったと私は考えている。今日の尖閣(釣魚島=中国)の状況は解決にはほど遠い状況にあり、日中のどちらかが、一歩誤れば、日中関係が急激に崩れていくという危うさを秘めている。

真の日中友好を達成するためには、つまり両国がこの後の理想的な日中友好を築くには、日中両国民の相互理解を持って、尖閣(釣魚島=中国)問題という氷山をじっくりと溶かしていくしかないと思う。そのために最も重要な役割を担うのが日中双方による民間交流であると私は考えている。現代の日本社会の中には親中国の思いを抱く人たちは決して少なくない。政府与党である自民党議員の中にも親中国派がおり、日中友好のための民間交流を行っている。これは中国でも同様、と考えられよう。日中両国の民間交流は、政治外交面が断絶したままの1954年に始まっている。その原点は、上記の「平和の祭典」のように日中両国民は互いに民間交流によって、親しい付き合いを深めることにあったことは疑いない。

本年はすでに日中国交正常化50周年を記念した各種行事が、日中両国内で実施され、今後にも予定されている。大小各イベントの内容は実に豊富であり、日中国交正常化50周年記念特別展「兵馬俑と古代中国~秦漢文明の遺産~」、日中国交正常化記念イベント「平山郁夫の世界に触れ、日中友好を願う」絵画コンクール、中国駐大阪総領事館主催の日中国交正常化50周年記念「日中友好スタンプラリー」や「私と中国」作文、絵画、写真、ショート動画コンクール、日中国交正常化50周年展示会「周恩来と日本-日中国交正常化に貢献した人々」、「日中青少年SNS旅行フォトコンテスト」、「日中カラオケコンクール」。さらには、日中国交正常化50周年記念・共同制作「突撃!隣りのスゴイ家」、奈良県と清華大学(中国)との交流事業「日中交流二千年アジアをつなぐ美と精神」などなど目白押しなのだ。

こうした民間分野の文化交流には国内の各地域の、日本中の日中友好協会や日中民間団体の力、そして両国の在外公館などのサポートが、これまで以上に重要な役割を果すだろう。この50年間、日中両国民の交流で築いてきた日中友好の精神も、大衆社会の中にしっかりと根付きつつある。これらを日中関係の改善、推進のための大きな契機にすべきであり、そのためには両国が互いに民間交流の歴史の原点に立ち返ることが大切であると思う。



今日の国際社会の中にあって、日本が中国と競合すべき対象は経済や貿易だけに留まらない。特に文化やスポーツなどの分野がこれまで以上に重要な役割を果すのではないだろうか。これらの目的を達成するには、日本政府がまずしっかりした方針や原則を打ち出し、日中両国の関係改善、そして発展に目標を定めることが必要、と私は考えている。