中国人留学生が福島復興の現状を視察し、現地住民と積極的に意見交換

コロナの長期化、大幅な円安、ロシアとウクライナの紛争……福島が話題に上らなくなって久しいが、そこでの復興に向けた足取りが止まったことはない。

 8月29日、日本の復興庁は23名の中国人留学生を集めて福島に向かい、復興の現状について理解を深めてもらうため、津波で甚大な被害を受けた請戸小学校や大平山霊園のほか、東京電力廃炉資料館、東日本大震災・原子力災害伝承館などの現地視察をおこなった。

 視察後に抱いた様々な考えや疑問は、30日に現地住民とのあいだで開かれた円卓会議において意見交換の際に俎上に載せられ、現地の人々も留学生たちの疑問や提案に熱心に耳を傾けた。

 留学生たちのディスカッションを取り仕切ったのは、二人の特殊な人物である。一人は福島大学教育推進機構国際交流センター准教授William McMichael氏で、来日して15年のカナダ人である。彼は2007年に日本に移住し、東日本大震災が発生する前は、福島県国際交流協会の国際交流員として、外国人に対する現地住民の偏見を取り除くために尽力していた。しかし、東日本大震災の発生後は、かえって福島県に対する外国人の誤解を解くために尽力している。

 もう一人は、羽生結弦や是枝裕和らと並んで、2019年にニューズウィーク日本版の「世界が尊敬する100人の日本人」に選ばれた、日本語教師の笈川幸司氏である。笈川先生はかつて清華大学や北京大学といった有名大学でも教鞭を執ったことがあり、特に中国人学生がつまずきやすい日本語の発音問題に対して試行錯誤を重ねた。その成果として、一連の勉強、練習、暗誦という笈川式メソッドを編み出し、多くの日本語教材を出版、平成28年度外務大臣表彰個人賞を受賞している。

 このたびの活動は視察であり、一般的な観光とは異なる。23名の中国人留学生たちは限られた3日間という時間のなかで、福島の「光」の部分だけでなく、「影」の部分にも焦点を当てた。

 早稲田大学の修士課程に在籍しているAさんは次のように話してくれた。「私が今回の視察に参加したのは、2011年3月11日にいったい何が起こったのか、それ以降の処理はどのように進められているのか、とりわけALPS処理水について知りたいと思ったのがきっかけです。今回の活動に参加したことで二つ収穫がありました。一つ目は、汚染水のALPS処理や検査についてよく理解でき、処理水の放出に対する疑問や不安が解けたことです。二つ目は、原子力発電の重要性と問題点についての理解が深まったことです。エネルギー危機に直面し、それに対応したという経験を持つ日本は、この経験を多くの国々と共有すべきだと思います。ですから、今回のような活動は今後も活発に行われるべきです」。

 東京大学の修士課程に在籍しているBさんは、研究を進めるため日本に来て2年半になる。「復興庁が出しているデータは詳細かつ透明性があり、処理方式も国際的なルールに則ったものです。ただその一方で、単なる数字の羅列だけでは、誰もが胸に抱くある種の抵抗感を拭い去ることは難しいと思います」。

 グローバルな角度から問題を考える留学生たちとの交流は、現地の住民にとっても多くの収穫があったようだ。看板製造に従事するかたわら、まちづくりに携わっている大和田剛氏は、ALPS処理水の放出が現地の漁業にとって大きな打撃となってしまうのではと心配している。「政府の肩を持つわけではありませんが、科学的なデータから見ても処理水の排出に反対する理由はありません。ですが、福島の漁業のイメージを守るために、政府にはもっとできるだけのことを惜しまずにしてほしい。十一年ですよ。風評被害はもううんざりです」。

 笈川先生もまた、原子力について何の知識もない人にとって復興庁の説明は難しすぎるだとか、どうやって政府の発表した数値が虚偽ではないと証明できるのか、国際的な第三者機関の調査には本当に不正はないのか、あるいは、データを列挙してより明確に安全性を証明するべきだといった留学生たちの声を伝えている。

 このたびの活動を通して、中国人留学生たちは福島の現状をよりよく理解することができた。また、福島の人々にしてみれば、中国人留学生とじかに触れ合うよい機会であったと思われる。最後に、ある住民が教えてくれた。「これまでも他府県から多くの日本人が請戸小学校の視察に訪れました。みな一様に懐からスマホを取り出して何枚も写真を撮っていたものです。ですが、今回の若者たちはそうはしなかった。私は不思議に思って尋ねたのです。どうして写真を撮らないのかと。すると、こう言うんですよ。当時ここに生きた人たちのことを思えば、あまりに胸が痛むからですってね」。(撮影:呂鵬)