田口淳一 シービーアールイー株式会社 執行役員 マネージングディレクター
CBREが在日中国企業の持続的発展を後押しする

従来、不動産市場の取引は経済発展の縮図であると考えられてきた。東京オリンピックの開催期間中は日本の不動産価値の下落が取り沙汰され、コロナウィルスが猛威を振るい、新たな生活モデルが模索される現在においても、日本の店舗やオフィスビルといった事業用不動産の価値は下降の一途をたどるだろうという声が広まっている。しかし、実際はそうではない。日本の不動産はその価値を堅持するどころか、価格高騰の気配さえ見せている。事実、国土交通省が交付した2022年の地価調査によると、全国の各用途向け土地の地価は3年ぶりに上昇に転じているのである。

資金が流入する場所、それはすなわち関心を集める場所であり、発展の可能性を秘めた場所にほかならない。先ごろ、本誌は皇居を見下ろす場所に位置する世界最大の事業用不動産サービス会社CBREグループの日本法人 シービーアールイー株式会社(CBRE)を訪問し、執行役員マネージングディレクターの田口淳一氏にインタビューをおこなった。

日本の不動産の優位は

安定的な漸進にあり

―― 3年に及ぶコロナウィルスの蔓延は、世界経済が直面する苛烈な試練であり、日本社会に様々な転換を迫りました。ですが、誰の目にも明らかなように、日本の地価は上昇し、不動産価格は高騰しています。時にはバブル期を上回る数値を示すこともあり、大方の予想を超えているのが現状です。このことを田口執行役員はどうみてますでしょうか?

田口 私は、東京オリンピック開催後も、日本の不動産は下落するとは考えてはいませんでした。

理由の一つとして、日本の経済成長率は低いですが、日本は政治もマーケットも、安定しています。投資家たちに言わせれば、日本というのは予測可能性が高いマーケットだということです。もう一つの理由として、日本の金利はやはり低位安定していることが挙げられます。たとえば、オフィスの利回りよりも金利の方がはるかに低いのです。ですから総合的に見て、投資の魅力が高いと言えます。

世界的に高齢化が進むなかで、中国や日本、あるいは欧米諸国でも、年金を投資運用に回すという傾向があります。この手の投資は大きな値上がりを期待するより、むしろ安定的にキャッシュを手にすることが優先されるのです。その意味で日本の不動産、とりわけ東京の不動産は、大幅な値上がりを見込めるわけではないですが、大幅に下落することも考えにくいため、東京の不動産は年金を投資運用するには最適なマーケットなのです。海外の年金を運用したい方々が、今でも日本に進出し投資をする流れがあります。

特にウクライナの紛争や新型コロナウィルスの蔓延、さらにはアメリカの金利上昇といった、昨今の状況により、株や債券のマーケットが非常に不安定になると、不動産は、毎日価格が変動することもなく、安定してテナントからの賃料収入やキャッシュフローにより、安定したリターンが見込めるので、より魅力が増しています。つまり、国際的なマーケットの変動が大きければ大きいほど、日本の不動産の優位性がますます顕著になるのです。実際、ヨーロッパやアメリカ、アジアからわれわれのオフィスを訪れる投資家の数は、今年に入ってから激増しています。

向こう数年の不動産市況は

堅調に推移する

―― 民間のシンクタンクが近ごろ発表した試算によると、向こう数年、世界の景気が好転するとは考え難く、日本経済も継続的に落ち込んでいくだろうとのことです。そういった背景もあり、多くの人は懐疑的なようですが、日本の不動産の価値はいつごろまで堅調が続くとお考えですか?

田口 それほど心配する必要はないと思います。ヨーロッパとの最大の違いは、日本のインフレ率は、はるかに低いということです。たとえば中央銀行の金利を見ても、日本と中国だけは金利を上げておらず、経済の過熱をうまく抑制しています。

近ごろ欧米では「リベンジ消費」や「リオープニング」といったキーワードを打ち出して、景況を盛り上げようとしています。人々はコロナのために実現できなかった旅行や我慢してきた買い物をすることで、これまでのロスを埋め合わせたいと強く望んでいるのです。しかし日本では、そういった要求は決して顕著ではありません。

たしかに日本のインフレ率も上昇していますが、ヨーロッパと比べればやはり低い率で収まっています。輸出入における欧米との関係やエネルギー価格の影響を受けて、日本の景気が後退することは免れないでしょう。ですが、日本経済の成長速度はそもそも高くありませんから、後退するにしてもその下落幅はそれほど大きなものではないだろうと思います。

円安はしばらくのあいだ続くでしょうが、これからまたインバウンドが拡大すれば日本経済にとって大きな利益となりますし、向こう数年は不動産価値も堅調を維持すると考えています。

アメリカ資本の不動産コンサルティング会社が持つ

独自の強み

―― 近年、日本は相対的に公平な市場の競争や、比較的高い直接投資の収益率、あるいは安定的かつ有効的なインフラ整備などによって、世界各国の投資家や創業者から熱い視線を送られています。経済産業省のデータによると、2019年までに日本に進出した外資系企業3287社のうち、アジアの国や地域から来た会社は27.4%を占めているそうです。CBREは、不動産賃貸・売買仲介サービスにとどまらず、各種アドバイザリー機能やプロパティマネジメント、不動産鑑定評価などの17の幅広いサービスラインを全国規模で展開する法人向け不動産のトータル・ソリューション・プロバイダーですが、アメリカ資本の企業として、日本の不動産マーケットにおいてどのような点で強みがあるとお考えですか? また、日本に進出する外資系企業のためにどのようなサービスを提供できるのでしょうか?

田口 おっしゃるようにCBREはアメリカ資本の企業ですが、われわれは日本のマーケットを非常に重視しています。札幌から福岡まで日本全国に10のオフィスを有し、売買と賃貸の仲介をするブローカーは約400人に上ります。

日本の不動産マーケットをひとことで言うと、不動産を買いたい人は多く、売りたい人は少ないということです。円安が続くなか、アジアの各国から来た投資家は気に入った物件をできるだけ早く買おうと躍起になっています。われわれの強みは日本の顧客が売り出そうかと考えている不動産を見つけられることです。

しかも当社はインターナショナルなブローカーを擁しています。能力面でも人数でも、そして売上額においても屈指の水準を誇ります。ですからいろいろな国の企業の多様性や独自性にも対応できるのです。

現在、当社の主要な各部署には中国語に習熟した社員を置いていますし、いつでも中国系の企業さまに対応できる盤石の体制を整えています。ちょっとここで当社のインターナショナルブローカーを紹介してもよろしいでしょうか。中華圏の市場担当者で王鈺驄です。具体的な仕事の内容については彼から話してもらいましょう。

 われわれ日本のCBREは多くの中国企業の案件を手がけてきました。関わりのある業界や企業の規模も多種多様で、「オフィス」「物流」「店舗(路面店舗)」「投資」などのセクターやマーケットについて、不動産賃貸のみならず、企業や投資家のニーズに合わせた不動産売買の仲介もおこなっています。ここ数年、国境を越えた電子商取引や貿易の迅速な発展によって物流産業は長足の進歩を遂げていますが、当社でも日本で物流倉庫を新規で借りたい、既存の施設から移転したいという中国の物流企業を数多くお手伝いしてきました。

中国企業の進出をサポート

チャンスをつかむために

―― 実際に提供されているサービスを通して、王さんは中国の企業が日本のマーケットに進出するに当たり、事業用不動産の分野でどのような課題に直面するとお考えですか? また、困難や課題があるとすれば、その根本的な原因は何だとお考えでしょうか?

 課題はおもに次の三点に集約できると思います。まず、日本における不動産を賃借する際の審査が非常に厳しいという点です。たとえば、中国本土では非常に著名な企業であっても、日本で会社を設立して日が浅ければ十分な財務報告を提示できません。そのため、賃貸借の契約を締結するまで様々な問題に直面し、専門的な不動産コンサルティング会社がオーナーとの交渉をサポートする必要が生じるケースが多くあります。

次に、中国の企業が日本のオーナーと有利な賃貸条件を結ぶのは難しいという点です。日本でオフィスビルを賃借した中国の企業が、契約期間の満了後にオーナーと再契約について交渉したいと考えても、その方法がわからないということがあります。そのようなとき、日本の不動産マーケットを熟知し、かつ中国と日本の企業文化に精通した中国側の担当者によるサポートが必要となるのです。

さらには、中国の企業向けに包括的かつ総合的な不動産ソリューションサービスを提供できるコンサルティング会社が少ない点です。たとえば、ある企業が日本に進出しようと考えたとき、オフィスビルを賃借すべきか、取得すべきかが、各企業の財務状況や事業内容を考慮して判断しなければいけないため、非常に難しい判断に迫られます。そういったときには、その企業にとっての大局的な見地からソリューションを提案できるコンサルティング会社が必要です。

これまでの経験上、いま言ったような三つの課題が表面化する根本的な原因もやはり二つあると考えます。

一つ目は、良質なマーケット情報が少ないことです。企業にとって、事業用不動産の生の情報は自らの選択肢を決定づけるきわめて重要な情報です。しかしながら、最新のマーケットの情報は、一般的に公開されておらず、非常に限定的なため、中国の企業が優良な物件を見つけることは非常に困難になります。

そして二つ目は、日本の事業用不動産に関する専門的知識の不足です。不動産特有の商習慣は国やエリアによって、大きく異なります。日本国内の商習慣を熟知しなければ、交渉や契約を進める際には不利になります。とりわけ規模が大きく、グレードが高く、賃料も高額なオフィスビルなら、その影響はいっそう大きなものになるでしょう。

中国企業の戦略策定をサポート

着実な成長を遂げるために

―― なるほど、たいへんよくわかりました。誰でも不動産会社のことはある程度知っていると思いますが、事業用不動産のサービス/コンサルティング会社となると関わる機会は限られます。そこで王さんにお尋ねしたいのですが、日本でアメリカ資本の不動産コンサルティング会社に勤める中国人としての経験についてお話しいただけませんか?

 ここでの実務を通して私が感じているのは、CBREは国際的な人材が多くコミュニケーションが多様化されており、社員のプロ意識はきわめて高く、外国人スタッフの育成にも適しているということです。私自身が受け持つクライアントは中国、日本、韓国、そして欧米の企業ですが、私の所属する部署には業種に応じた専門のグループがあります。「金融」や「IT」、「製造」、「ライフサイエンス」といった具合に分かれており、定期的にメンバー間で情報や経験を共有しています。

中国と日本のビジネス文化の差違は、摩擦を引き起こす大きな要因です。これから日本に進出しようとする中国の企業は、両国のビジネス文化に精通した中国担当を置くことが重要であると考えます。

先ほども申し上げましたが、不動産は、ローカルな側面が強く、国やエリアの違いにより、商習慣も異なります。日本国内において、ご移転や拠点開設や事業用不動産の取得・売却を検討されているお客様にとって、現地の商習慣に関する知識やマーケット情報を持つ専門家が、密なコミュニケーションを通じてサポートすることは、最適な条件での取引をするためにとても重要です。これからもより多くの中国系企業に対して、最適なソリューションをご提供することで、貢献できるよう努力して参ります。みなさまからのお問い合わせを心よりお待ちしております。