中日間のソフトウェアアウトソーシング契約は著作権を明確に!

日本は多くの分野で世界をリードしてきたが、ソフトウェア開発の分野ではそうはいかないようだ。コンピュータ革命からインターネットの勃興に至るまで、ソフトウェア開発産業においては、絶えず先進技術が生まれ、伝統産業を追い越していったようになった。アップルはiTunesでレコード会社を、アマゾンはeコマースで従来の小売業を凌駕し、さらにはビッグデータ+クラウドコンピューティング+人工知能等のハイテク技術が自動車産業に新たな革命をもたらしている。ところが、科学技術研究で高いレベルにある日本が、このソフトウェア革命においては、目立たないどころか、全く存在感を示せていない。

国内には任天堂のような有名なゲーム会社が存在するが、日本政府も日本企業もソフトウェア開発の重要性を十分に理解できていない。製造業によって経済発展を成し遂げてきた日本には、根強いハードウェア信仰がある。日本で長く仕事をしてきたマサチューセッツ工科大学のマイケル・A.クスマノ教授は、次のように分析する「日本では、ソフトウェアは製造業と考えられています(Software as Production)。日本人はソフトウェアをハードウェア同様に高品質、無欠陥を目指して開発しています。ソフトウェア開発にも『匠の精神』が注ぎ込まれているのです。」

結果、ハードウェアは高品質で、ソフトウェアも安定しているが、ただ、バージョンアップがあまりにも遅い。そのため、多くの日本企業が独自開発を断念し、アウトソーシングを選択してしまう。特にここ十数年、日本のソフトウェア需要の高まりは、海外から多くのIT人材を引き寄せ、日本企業も海外へのアウトソーシングを拡大している。その主力として、中国は多くの優秀な人材を日本に提供し、中国の対日ソフトウェアアウトソーシング市場は活況を呈している。しかし、ソフトウェアのアウトソーシングには、常に著作権の問題が付いて回る。通常、ソフトウェア開発の契約書には、著作権等の知的財産権の条項があり、中で最も重要なのが著作権の帰属問題である。

著作権とは、作品を創作した者が有する権利である。著作権者が明確でない場合、原則として作者或いは作者の所属機関に帰属する。財産権のひとつである著作権は、交渉によって譲渡することが可能である。この著作権の帰属条項はソフトウェア開発のアウトソーシング契約に必ず盛り込まれる条項である一方、当事者間での紛争が絶えない。

最近、中国・大連のハイテク企業と日本の上場企業の間で、ソフトウェアの著作権問題が発生し、日本企業側が大きな痛手を被った。この件は、ソフトウェアのアウトソーシングにおける知的財産権問題に警鐘を鳴らす出来事となった。 

2020年、日本の上場企業(以下、日本企業A社)は、愛徳森(大連)科技有限公司にソフトウェア開発を業務委託し、製品は2022年4月に日本市場に投入された。ところが、販売開始わずか1カ月後、日本企業A社に、大連のソフトウェア開発会社(以下、大連B社)から、当該ソフトウェアの著作権はB社の所有であるため、製品の販売を直ちに停止するよう求める文書が届き、日本企業A社は驚くほかなかった。この件に関する愛徳森(大連)科技有限公司は「大連B社は長年にわたり提携企業であり、過去に類似の製品を開発した経験もあり、当該製品の一部を大連B社に外注していた。また、当時の契約書の書面には『著作権は愛徳森(大連)科技公司に帰属するものとする。』と明記したはずである。」と説明している。事態に対処するため、愛徳森(大連)科技公司は、当時の大連B社と交わした契約書を探し出し、著作権帰属の条項が書き換えられていたことが発覚した。このことを受けて愛徳森(大連)科技公司に大きな衝撃が走り、すぐに警察に通報した。

中国の国際社会での信頼を失墜させる案件であることから、現地警察はこれを重く見て、現在捜査に当たっている。一体誰が何の目的で契約書の改ざんを行ったのか、今後の展開に注目していきたい。近い将来、真相は明らかになるに違いない。しかし、真相が明かされる前に、日本企業A社は、製品の販売を停止せざるを得なくなり、甚大な経済的損失を被った。

この事件は、日本のソフトウェア業界にも衝撃を与えた。中国・大連は、日本のソフトウェアアウトソーシングにとって重要な海外拠点であり、日本語レベルにおいてもソフトウェア開発においても、日本の業界から高い評価を得ている。著作権はソフトウェアの生命線であり、アウトソーシングにおける著作権が保障されなければ、国際社会で信用を失い、業界全体にも悪影響を及ぼすであろう。この事件は、中日のアウトソーシング契約に一石を投じた。

中日間のアウトソーシング契約においては、先ず、両国の知的財産権に関する法令を遵守することを前提として、製品の著作権の帰属を明確にする必要がある。中華人民共和国著作権法第10条には、著作権は人格権と財産権から成ると明記されている。また、著作権の帰属を明確にする以外に、中華人民共和国著作権法第26条、27条の規定に従い、書面で著作者人格権と著作財産権を譲渡することが可能とも記されている。

部分委託の場合は、それぞれに著作権の帰属を明確にし、譲渡契約を交わしておく必要がある。今回のようなトラブルを避けるため、必要に応じて、全当事者立会いの下、著作権を明確にするための書面による契約書を交わすことである。

また、契約書が複数通に及ぶ場合は、改ざんを防止するために、項目ごとに約款を照合する必要がある。さらに、相手方による悪意の改ざんを防止するために、契約書は適切に保管する必要があろう。改ざんの痕跡があった場合は、速やかに警察に通報し、証拠を押さえ保存しておく必要がある。