莫邦富 日本中国一帯一路研究院執行院長
日中交流の主役を担う女性たち

一帯一路で結ばれている中国と日本。その中国と日本のために、命を燃やして懸命に働いている人々がいる。今回は日本で仕事する2人の女性を取り上げたい。数か月前から温めてきたテーマだ。

取材を終えていつものように「腹稿」つまり文章を書く前に、まず心の中で文案を練り上げるとき、やや動揺することが起きた。仕事する女性を表現することわざや四文字熟語を考えようとなると、選択範囲が非常に狭いことに気づいたからだ。

「巾帼不譲須眉」を除いて、残りは「女中豪傑」ぐらいだ。しかし、女中豪傑だと、豪傑さを売りにした女性のようなイメージが先行し、どことなく「女漢子」(男勝りの女性)を連想させてしまう。近年、はやりのこのネット用語は「言行が粗忽(そ こつ)、性格は豪快でさっぱりしている」という、ほめる意味とけなす意味を両方持ち合わせるので、使用するには、やはりためらいを覚えてしまう。淑やかさを保ちながら、仕事もできる知性的な女性を表現できる言葉がもっとあれば嬉しいと思う。

2022年9月6日、東京都倫理法人会城南地区長の辞令を受けた森薗文恵さん

幸いなことに、今回、登場していただく人物の一人は、豪快な性格の持ち主で女中豪傑と言っていいだろう。港区で中華料理店を経営する上海出身の森薗文恵さんだ。1992年に就学生として来日。専門学校を出たあと、結婚、出産、離婚、やがてシングルマザーとして自立。いろいろな仕事をしてきた。13年前に、いまの中華料理店を立ち上げた。とにかく一人っ子の息子と母親を養っていかなければという思いに駆られて、がむしゃらに走ってきた30年の在日人生だ。この経歴だけを見ると、東京には、同様な女性はいくらでもいる。

2015年に、森薗さんはお店の常連客からの誘いを受け、一般社団法人倫理研究所が主催する倫理法人会の早朝の勉強会に顔を出すようになり、翌年に入会。ちなみに、倫理研究所は1945年、丸山敏雄氏が設立した民間団体で、2013年に一般社団法人となった。事業は多岐にわたるが、倫理法人会などの会員組織をもつ。

19年元日に、人間の心の美しさに関する講演を聞き、感動し、これまでどことなく感じた異国生活の孤独さも仲間たちとの助け合いのなかで、勉強会のなかで立ち消え、支え合いながらの人生に魅力を感じた。やがて、みんなの前でスピーチできるようになり、さらに励まされて、19年9月から墨田区倫理法人会の会長にもなった。今年8月末までの3年間の在任期間中に、会員数を79人から127人増やした。9月6日に、一般社団法人倫理研究所からの辞令を受け、森薗さんは港区、品川区、目黒区、大田区を統轄する倫理法人会の東京都城南地区地区長に任命された。それに対して、森薗さんはこう語っている。

「日本語もおぼつかなく、大した学歴もない私をさらに高いところに押し上げられた思いがした。しかし、高いところに登れば、見える人生の風景も違ってくるだろう。生き甲斐を感じている。やる気が出ている」。

日中国交正常化50周年を迎えた今年。日本国籍を取った元中国人はもちろんのこと、永住する在日中国人でも、日本のいろいろな団体の役員になるケースは増えている。森薗さんの事例はまさにこうした日中間の民間人同士の交流が織りなした新しい風景だ。

2003年11月7日、雲南省怒江傈僳族自治州福県に建設した支援学校第4校目に当たる日中藤誼僑愛小学校の開校式に駆けつけた初鹿野恵蘭さんを囲む子どもたち

もう一人、登場していただきたいのは、認定NPO法人日本雲南聯誼協会の初鹿野恵蘭理事長だ。雲南省昆明市生まれの恵蘭さんは1988年、留学のため来日。のちに日本国籍を取った。96年、雲南省麗江大震災が発生したのをきっかけに、貧しい少数民族地域への教育支援活動を開始。2000年に日本雲南聯誼協会を設立し、自ら理事長を引き受けた。

雲南省の特徴は、その多種多様な民族だ。民族のるつぼと形容されるようにイ族、ペー族、ハニ族など数十の民族が居住している。各民族間にはある程度住み分けが見られる。たとえば、イ族は主に楚雄イ族自治区や哀牢山、小涼山に集中している。ペー族の80%以上は大理ペー族自治区に居住する。ハニ族の主要居住地は紅河、江城、墨江、元江など川の近くである。タイ族は西双版納(シーサンパンナ)、徳州の二州に固まっている。山頂、山腹、山麓、川辺にそれぞれ違う民族が分居する居住光景もみられる。

日本雲南聯誼協会は雲南省に住む主要25の少数民族のために、それぞれ2校ずつ小学校を建設することを目標に、今年までに25の小学校を作り、また、およそ1160人の貧困女子生徒の高校教育を支援してきた。

今年7月に、日本で初めての「中国・雲南フェスティバル」を主催し、さまざまな企画が盛りだくさんのイベントを実現できた。ここまで雲南省への理解と支援の輪を広げてきた立役者は言うまでもなく恵蘭さんが率いる日本雲南聯誼協会だ。同協会は正会員が約350人で、賛助会員と法人会員がほぼ同数いる。しかも全会員の半分以上が日本人。日中の若者の交流を強化するために、最近、協会の青年部も設立できた。

物静かに笑うのが特徴の恵蘭さんは、豪傑とか豪快といった表現にほど遠いような存在だ。しかし、その進めているプロジェクトの規模と目指している目標を聞いているうちに、やはり女中豪傑という言葉が脳裏を掠(かす)めた。