写真展を日中友好の「嘉年華」へ 静岡県有識者の知恵と努力が実る

7月28日、静岡県掛川市にある施設のなかで、何人かが荷物を開梱して、大きく引き伸ばされた写真を相次いで取り出し、壁にかけて鑑賞するような作業を繰り返していた。

彼らは約1か月後に控える「日中子ども写真展」(以下は「写真展」と略す)の主催団体「静岡県日中青少年写真展実行委員会」のメンバーだ。同会の委員長を務めるのは元東京学芸大学学長で、松本亀次郎記念日中友好国際交流の会の名誉会長でもある鷲山恭彦氏だ。

ご存知のように、海に囲まれた日本は「シルクロードの終着点は奈良」と言われるほど、中国と密接な関係に結ばれている。小説家の松本清張(1909年 -1992年)は生前、『ペルシアから奈良への道―東方の夢 遥か』という書物を残し、西から東への文化、信仰、そして物の流れを回想したことがある。近年「一帯一路」戦略を打ち出した中国にとっては、日本は相変わらずシルクロード経済圏に属する重要な一員だ。

しかし、近年、日中関係が厳しさを増してきた。それを見た鷲山氏と渥美泰一・元静岡県議会議長、花嶋玲恵さん、安間孝明氏ら有識者は、行動を起こさなければという危機感を覚え、多くの市民たちと一緒に、日中国交正常化50周年記念事業の一つとして写真展を手弁当で始めたのだ。

7月24日、写真展沼津会場の担当者たちが真剣な議論を交わしている。

「日中子ども写真展」の準備をする主催団体
「静岡県日中青少年写真展実行委員会」のメンバー

最初は、世界の子どもを撮影してきた写真家岡本央氏の協力を得て浜松市内のどこかで写真展を開催しようという単純な発想だった。しかしその後、静岡県日中友好協会など多くの団体の支援を受けて、会場は静岡県内4カ所へと増えた。やがて京都、札幌、北九州などの都市も開催する動きを見せた。さらに、浜松市と友好交流都市関係を結んでいる中国瀋陽市は6月の時点で同写真展を一足先に開催した。シルクロードの起点と見られる西安市も開催の意向を打診してきた。

日本国内も負けずに早い時点からウォームアップ作戦が始まった。一連の付帯事業の一つとして、3 月24 日に、「桜の下・松本亀次郎と青年周恩来」というテーマの記念植樹が行われた。

周総理は日本で学んだ松本亀次郎への想いを忘れずに、桜の季節に日本再訪を願っていた。こんなエピソードにちなみ、亀次郎記念会との連携により、鶴峯堂周辺の山に桜の植樹が行われた。両国友好関係を未来へ継承発展させるシンボルとしての大役がすくすくと育っていく桜の木に託された。

渥美氏は人脈の強みを生かして、暑さを冒して静岡県のほかに、静岡、浜松、掛川、藤枝、牧之原、島田、沼津、富士、裾野、御殿場、三島、富士宮、熱海など13の市と小山町の行政と教育委員会、さらに私立学校を統轄する静岡県私学協会にもイベントの後援に参加してもらった。

一写真展の後援陣としては、ここまで地方の行政と教育委員会をフル動員できたのは非常に珍しく、他のイベントとの差別化を図ることに成功し、徹底的な根回しが功を奏したと評価していいだろう。

7月24日、写真展沼津会場の担当者たちが真剣な議論を交わしている。

大野拓夫氏と高井一暢氏、伊東健氏、花嶋事務局長らからなる広報担当グループもロゴまで作って写真展を盛り上げようと努力したばかりでなく、PR原稿を作ったり記者会見を開催したりして情報の周知に工夫をこらした。その結果、地元の主要メディア、静岡新聞は6月23日の時点で、「日中国交50年の軌跡 静岡県内4市で写真展 8月から」と題する記事を掲載し、2か月後に始まる写真展の開催を早々と報道した。

一方、写真展の内容にも大きな変化が起きた。今や「嘉年華(カーニバル)」のような、華やかかつ賑やかなイベントへと変貌し、他の多くの企画が同時進行するようになったのだ。

予定されている企画には、亀次郎と周総理との師弟関係を振り返る講演会もあれば、日中間に国交がない時代に約1000人の残留日本人戦犯の帰国に尽力した中国人女性李徳全の功績を語るセミナーもある。さらに、子どもに大人気のドローンを飛ばす企画、高齢者と医食同源との関係を語る講座、歌と踊りのパーフォーマンスなども組み込まれている。なかにはみずから50周年を祝う歌を創作したグループもある。水野雅江さんが作詞、仲井康二氏は作曲を担当した。

早く関心を集めたのはドローン飛行だ。在日コリアン三世の李忠烈氏社長が率いる株式会社BFHDが企画し、実施することになった。日中関連の祝賀イベントに在日コリアン企業も関わることで日中韓のつながりを見せた。写真の引き伸ばしは有限会社アールコーポレーションの支援を受け、SDGsの視点から環境にやさしい石灰石を原料としたストーンペーパーを使うことになった。書道を通してイベントの支援に動いた初山宝林寺の関塚哲心住職や寄付などの活動で黒子役に徹する実行委員会の安間孝明氏、大杉政喜氏らも印象的だ。

こうした動きを評価して、公益信託チヨタ遠越準一文化振興基金は写真展を助成事業に指定した。静岡県日中友好協議会も写真展や講演会などの情報を積極的にサイトにアップして情報の拡散に力を入れた。

創作歌曲やドローン飛行などからも見られるよう、写真展は一写真展の域を大きく飛び越え、年配の方から子どもまでが楽しめる日中友好の嘉年華になっていく。「堅苦しいお説教はなく、楽しみいっぱいのイベントに持っていきたい」。これは写真展実行委員会のメンバーたちの共通した意志だ。