〈連載〉 孔子の一生「論語(為政編)」と私(第4回)
~五十にして天命を知る~
藤原洋 株式会社ブロードバンドタワー 代表取締役会長兼社長CEO

孔子の一生「論語(為政編)」の中で書かれた五十歳というのは、「五十になって天命〔人間の力を超えた運命〕をわきまえる」年のようですが、その頃、「不惑の四十代」のテーマ=インターネットのベンチャー企業インターネット総合研究所(IRI)の東証マザーズ第1号上場の勢いを加速すべく、2つの子会社ブロードバンドタワーとIRIユビテックを2005年8月と6月に相次いで上場させました。

しかし、順風満帆に見えたIRIグループに大きな落とし穴が待ち受けていました。五十歳になった年が明けて直ぐの2005年1月、新光証券(現みずほ証券)から、同社が主幹事を務め東証二部上場企業だったIXIの買収提案がありました。その後、IXIは、長年にわたって、不正な架空循環取引による一千億円以上にものぼる巨額な粉飾決算を行っていた企業であることが2007年に発覚する訳ですが、私にとっての五十歳は、「天命を知る五十」ではなく、テクノロジーよりも連結企業業績を優先した経営に対する「天罰(?)が下された五十」となってしまいました。東証一部上場企業の子会社だった二部上場企業IXIを買収したことで、巨額の粉飾決算会社を傘下に持つ、親会社IRIにとって、正確な2006年中間期の連結決算ができないことを理由に、東証から上場廃止を通告され、無念の極みを体験しました。しかしながら、IRIグループが、株式交換によって、上場廃止直前の2007年5月に危機一髪でORIXグループ入りを発表したことで、取引信用の失墜という最悪の事態を回避できました。結果的に、グループ経営が安定化し、ORIXの100%子会社IRIの代表取締役でしたが、名誉職的で実際の経営権はありませんでした。そのような状況に物足りなさを感じたため、その後、ORIX株に転換後の株式を全て売却し、2008年から2010年にかけて、環境エネルギーベンチャー企業とインターネット・イベント企業への投資、慶應義塾150年記念事業として協生館藤原洋記念ホール建設などへの寄附を行い、次なる起業の可能性を探り始めていました。

そんな矢先、2007年のORIXグループ入り直前に起こした、IXIの旧親会社などへの損害賠償訴訟について、確証はありませんでしたが2011年夏頃に和解の可能性が出てきたため、ここは勝負ということで、2011年3月10日、手元現金に加えて金融機関から私個人で借入れ、ORIXからIRI株式を100%買い戻すことを決断しました。そして、2011年6月に確定した和解金とIRI保有株式の売却で金融機関への返済を完了し、私の元にIRIが、ブロードバンドタワーとモバイルインターネットキャピタル(IRIとNTTドコモとみずほ証券3社の合弁会社)の2社と共に戻ってきました。

私の五十代で知った天命とは、「インターネット・テクノロジー」を対象とした企業の株式を自らが保有し、株主責任と経営責任とを同時に果たすことと、変化を起こす起業家から産業を創る企業家へと昇華することだと思う今日この頃です。

(つづく)

藤原 

<Profile>

1954年、福岡県生まれ。京都大学理学部(宇宙物理学科専攻)卒。日本アイ・ビー・エム株式会社、日立エンジニアリング株式会社、株式会社アスキー等を経て、株式会社インターネット総合研究所等を設立し、現職。96年、東京大学より工学博士号を取得。現在、SBI大学院大学副学長教授、慶應義塾大学環境情報学部特別招聘教授。