〈連載〉 北京紀行(その7)
~最高指導者たちが寄せてきた『人民日報』への想いから見る現代中国とは?~
藤原洋 株式会社ブロードバンドタワー 代表取締役会長兼社長CEO

日本とはかなり異なる社会システムを構成している、「現代中国とは?」を理解する上で、中華人民共和国の政権与党であり最高指導者からの『人民日報』に対する想いを読み取ることができれば、その助けになるのではと思われます。その意味で、今回は、毛沢東、鄧小平、江沢民、胡錦濤が、『人民日報』に対して寄せたメッセージをご紹介したいと思います。

*鄧小平によるメッセージ

「人民日報が国際ニュースを掲出するという事はとても重要です。なぜなら人民日報は国家の報道機関だからです。ある人はこういいます、人民日報の門市(造語で国際宣伝や対外的な報道を指す)は多いと。門市とは政治でもあります。外国人もまた人民日報を読みます。紙面を通じあなたたちの態度もみられるので充分に注意してください。」

*江沢民によるメッセージ

「人民日報をいかに作るか?ここに全国の新聞と出版業界を代表して、重要な模範的・指導的役割があります。また世論をリードする出版機関であり、特に人民日報社の従業員には大きな責任があります。」

*胡錦濤によるメッセージ

「人民日報は輝かしい歴史・優れた伝統を持ち、代々引き継いできた従業員がわれら共産党の宣伝事業に多大かつ重要な貢献をしてきました。彼らこそ共産党と人民が信頼できる集団です。人民日報の仲間たちが党中央の精神に忠実であり、仕事に一層努力し、真理を求め・実務を励んで、開拓・創造革新を行い、業務を敬い、一致団結することにより、人民日報が一層発展し、それによって共産党と人民が満足できる機関紙となることを期待しています。」

【まとめと感想】

『人民日報』とは、中国共産党中央委員会の機関紙です。元来は、日本とは全く異なる社会システムとして、社会の指導者集団(各政府機関や各企業の指揮命令系統とは異なる)として位置付けられているように思える共産党員(現在は約7000万人)に向けた政策・方針・情勢解釈に関する告知・報道手段であると感じました。私にとって、新たな発見は、政府当局と共産党とは、別の組織体系であり、近年問題となっている、政府機関関係者による汚職問題に対しては、共産党が倫理規範を示す立場にあるように認識されているように感じました。

晩年に資本主義化への懸念を抱き文化大革命を主導した毛沢東による具体的なメッセージは見受けられませんでした。むしろ、歴史を創った建国の父として『毛沢東による直筆』を大切にしているように思えました。

その後、市場経済の導入(資本主義)による改革と海外市場への開放路線を打ち出した鄧小平によるメッセージをモニュメントにして大きく打ち出しているところから、鄧小平改革による、(企業広告の導入などの)「市場経済による経済発展」(資本主義)と「国際協調路線」が現代中国の底流にあると感じました。

江沢民は、鄧小平路線を継承し、共産党員による実務的なリーダーシップを強調しているように思えました。

胡錦濤は、加えて、同総書記時代に貿易額が大きく伸びたことからも言えるように、海外交流を強化するメッセージだと受け取れました。

新総書記の習近平氏からは、未だ届いていないようですが、どのようなメッセージが『人民日報』の社員へ寄せられるのでしょうか? それは、今後の中国がどこへ向かおうとしているのかを知る上で興味深いところです。(つづく)

 

 

藤原 

<Profile>

1954年、福岡県生まれ。京都大学理学部(宇宙物理学科専攻)卒。日本アイ・ビー・エム株式会社、日立エンジニアリング株式会社、株式会社アスキー等を経て、株式会社インターネット総合研究所等を設立し、現職。96年、東京大学より工学博士号を取得。現在、SBI大学院大学副学長教授、慶應義塾大学環境情報学部特別招聘教授。