~コロナ後の世界経済と平和の構築~
中川 十郎 名古屋市立大学22世紀研究所・特任教授

「世界平和の基盤としての経済」(3)

政治、文化、平和の基盤は経済である。平和の基盤たる世界経済がグロ-バル化した世界に急激に感染拡大したコロナパンデミックにより、世界は戦後最大の経済不況にあえぎつつある。コロナ後の世界経済をいかに立て直し、格差のない社会と世界平和を希求すべきか。格差拡大をもたらしつつある資本主義の再構築も含めて、経済の視点から平和問題を論じる。

「和をもって貴しとなす」

世界平和構築の為には、まず現下のコロナ禍のポストコロナを見据えた21世紀の構想を構築すべきである。新型コロナの世界的流行は人々の生活様式を変えるのみならず、世界経済や国際秩序のあり方を一変させた。二大国の米中対立は貿易から先端技術、人権問題、安全保障へと拡大し、米中が対立を深める中、我が国はこれまで以上に外交手腕の発揮が求められている。

2021年以降のポストコロナ時代を見据え変化する世界情勢を見極め、欧州を含むユーラシア地域やインド太平洋の動向を把握し、21世紀アジアの時代に備えて、特に域内の大国、中国とインドとの関係を強化しつつ米国、欧州との関係強化も図る必要がある。

そのためにはコロナ危機を絶好の機会としてとらえ、デジタル・トランスフォーメーション、リモートワークを含めた新たな働き方を希求することである。コロナで世界のグローバリゼーションは減速したが、各国は地球温暖化という21世紀の地球人類の難題への解決に向けて動き出しつつある。

米バイデン新政権はパリ協定への復帰を宣言。世界最大の世界の28%を占めるCO2排出国である中国の習近平・国家主席は20年9月の国連総会で2060年までにCO2排出量を実質ゼロにすると表明した。日本も2050年までにCO2排出量をゼロにすると確約。分断しては解決できない環境問題に各国が取り組み出したことは国際協調、世界平和構築のためにも素晴らしいことである。日本、中国、インドが相協力して、まずアジアからCO2排出量ゼロに向けて協力すべきであろう。

かつて聖徳太子は1400年前に、「和をもって貴しとなす」と喝破された。格差のない21世紀の新たなる万人の幸せを目指し、平和を希求する新資本主義の構築に日本が率先して尽力すべきだ。それが広島、長崎で原発の洗礼を受け、2011年3月の福島原発過酷事故を経験した日本の使命でもある。

『南洲翁遺訓』で「敬天愛人」、「天から与えられた道を実践せよ」と喝破した西郷隆盛、『論語と算盤』の渋澤栄一の儒教思想、「アジアは一つ」とアジアの結束を唱えた岡倉天心、国際主義を早くから標ぼうした新渡戸稲造、禅の思想を喧伝した鈴木大拙、平成に著書『人間の経済』などで「富を求めるのは道を開くためである」、「資本主義の暴走を止めよ」と唱えたノ-ベル経済学賞候補にもなった宇沢弘文・東大名誉教授などの思想を世界平和の基盤として活用すべきである。

ユ-ラシア大陸のシルクロ-ドから日本文化の源流を受け入れた日本は、ポストコロナの21世紀の世界経済再構築、世界平和希求に向けて今こそ尽力すべき時である。

中川 十郎

鹿児島ラサール高校卒業、東京外国語大学イタリア学科国際関係専修課程卒。ニチメン(現双日)入社。米国ニチメンニューヨーク本店開発担当VPなど海外駐在20年を経て愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部、大学院教授。対外経済貿易大学大学院客員教授、大連外国語大学客員教授、国際アジア共同体学会学術顧問、日本ビジネスインテリジェンス協会理事長。『国際経営戦略』同文館、共著『知識情報戦略』税務経理協会、他多数